人間と少女と妖怪と【8】
投稿者名:眠り猫
投稿日時:(02/ 1/14)
―――――あいつは今、何を思っているのだろう?
夜中の学校に忍び込み、自分の教室を目指していた。
昼間いる友人は誰一人とて残っておらず、たった一人きりココに残っていた彼女は。
それは今までもそうだった。ただ、横島が気付いていないだけだった。
彼女は、次の日の朝会えば変わらぬ朝日のような笑顔を返してくれたから。
何故気付かなかったのだろう。自分は夜中の学校の寂しさを知っていたはずなのに。
小さい頃、夜中に忘れ物を取りに来て。怖かったはずなのに、寂しかったはずなのに。
空間には自分1人しかいなくて。友人も誰もいなくて。なんで・・・気付かなかった?
そこまで考えて、足を止めた。中廊下。ココを通って、角を曲がればすぐに教室だ。
だけど、廊下を真ん中くらいまで通って足を止めた。
―――――何言えばいいんだよ今までちっとも気付かなくて、気にも止めてなかった俺が。今更やっと気付いて。
何にも考えてなくてココまで来て。言う言葉すら用意してないのに。
何に今、傷ついているかもよくわかってねぇのに・・・何言う気なんだよ?
引き返そうと思った。もしかしたら、更に傷付けてしまうかもしれない。
だけど足が動かない。後ろにも前にも。
・・・フと、子供の泣き声が聞こえた。ココは高校なのに。幼い泣き声。気付くとその子供は自分のすぐ横にいた。全く足が動かなかった自分の隣に、いつのまにか。
「こわいよー。父ちゃぁん・・・」
少年だった。黒髪の。涙を両手で拭きながら、わんわん泣いていた。
ひどく見覚えのある子供だった。しゃがんで話しかける。
「どうした?暗いから怖いのか?電気つけるか。」
少年は首を横に振る。おや?と横島は思った。
「お化けがでるよ・・・帰りたいぃ・・・」
・・・ああ、そうだった。頭ではわかっていたけど、そうだった。
俺も、このくらいの年のとき、暗い静かな寂しい空間を見て・・・お化けが怖かったんだ。今はGSで、妖怪とかも関わり合いが増えて・・・もうそんな気持ち無くなってた。
そうだった、怖かった。
少年の黒髪の頭をくしゃりとなでた。
「確かにそりゃ怖いお化けもいっぱいいる。でもな、それだけじゃない。
天然ボケな300年筋金入り幽霊も、お人良しなバンパイア・ハーフも、高校に憧れまくってる女の子の幽霊も、青春大好きな机妖怪だっているんだよ。」
少年は涙が止まった目で横島の目を意外そうにじっと見た。それから、うなずいた。
「うん・・・うん・・・」
さっきよりその目はどこか強さをおびていた。だけど、すぐには全部納得できなくて小さな体は少し震えている。その少年を見て、頷いて笑って、立ち上がった。
「じゃ、おにーちゃんも一緒に行ってやるよ。」
そう言って、小さな幼い少年の肩を押した。
その手は、何にも触れることはなかったけれど。
手を見つめながらちょっと驚いて少年を見た。そして右足が一歩、前へ踏み出していた。
少年は笑って「ありがと、おにーちゃん。」とふと気付くと声だけ残して消えていた。
あの少年は幽霊だったのだろうか。いいや、違うことは自分が一番良く知っていた。
・・・あの子は小さい頃の、俺自身だった。
何も残ってない、だけどついさっきまでは自分の目にだけ見えた少年がいた空間を見つめ、「サンキュ。」と一言、幼い横島忠夫に告げた。
教室のドアを開ける。
そこに居たのは予想通り、古びた机に座った少女。
予想と違っていたのは、その少女が・・・涙を流していた事。
『よ、横島クン!?』
慌てて、頬に流れていた涙を拭いた。電気をつけていない教室はやけに暗かったけれど。
『ど・・・どーしたのよ?あ、忘れ物ね?ドジねー、もう。』
目をそむけて、早口で言い切った。
彼は静かにドアを閉める。しばらく教室にいる、との意思表示。
「やっけに今日、落ち込んでたからな。あの2人はもう帰ったよ。」
『落ち込んでなんかないわ!大丈夫だからっ!』
見られたくなかった。彼の前では「しっかり者の学級委員」でいたかった。
「・・・ごめんな。」
彼は言った。愛子にはなんの「ごめん」かわからなかったけど。
「今まで、気付いてやれなくて・・・悪かった。ずっとこんな寂しい空間に1人きりで・・・」
『そ、そんなこと気にしてたの?平気よ、私は。私が怖がると思ってるの?』
「あのさ、愛子。俺なんかがお前の相談乗って、いいアドバイス出来るとは思わねーけど、不安や心配事くれぇ聞くから。聞くから・・・。」
言いたいことが上手く伝わらないもどかしさ。言いたいことはある。だけど、無理やり言えなんて言えない。だけど、辛いなら、そう言ってくれれば足りない頭で必死に考えるから。その横島の気持ちがわかったのか、もうかかえきれなくなったのか、愛子は力なく笑った。
『・・・バレちゃった?』
そのまま横島に手招きして、古い机に座らせる。もちろん、全部の範囲なんてあげない。半分は私が座る。狭い机に二人座って、背中合わせ。
『今日はね、自分が妖怪だったってコト、嫌ってほどわかっちゃった。』
ああ、やっぱりそうだったんだ。心の中で思った。背中合わせだから相手の顔は見えないけれど、今どんな表情しているのだろうか。
なんで、俺はそんな事も気付いてやれなかったのだろうと自分を責める。
『いつのまにか、クラスにとけこんで。忘れてたのにな。しばらくぶりに昼間の学校が嫌になっちゃって・・・。夜の学校はそんな好きじゃないの。』
俺も忘れてたよ。妖怪を怖いと思ってた自分自身。
『あの子のおかげで・・・ね。私、もし横島クンがあの子退治したら私ももう居られないって考えていたの。だけど、そうしなかったわね。ありがと。』
一言ずつゆっくり話していく愛子の声を聞いて、少し罪悪感が湧いた。
ずーっと気付いてやれなかったことへの。
『ねぇ、横島クン。やっぱり、妖怪と人間の差って大きいのかな?一緒に授業受けるなんて、無理だったのかな?』
愛子の背中がちょっと丸くなったのがわかった。背中も、声も震えてるのがわかった。
きっと・・・また涙が頬を伝っているのだろう。
「今はな、ちょっと・・・大きいかもしれねぇ。でも、その差をなくそうって頑張っている奴はいっぱいいる。GSだって退治だけじゃない。今のとこ、人間と妖怪の橋渡しになれる存在なんだってさ。俺も、そう思う。」
隊長の言葉だけどな、と付け足した。そして、とても悲しい、でも優しい、今まで一番辛くて嬉しかった、なるべく誰にも言いたくなかった思い出を・・・背中合わせに語った。
「実は妖怪だとか、人間だとかの差ってあんまり大きくないんじゃないかな。
・・・俺、あのアシュタロスの事件の時・・・・・・
――――――妖怪と恋したんだ。恋愛とか恋とかよくわかんなかったけど、本気で、恋、したんだ。相手も俺のこと好きって言ってくれて、俺もアイツの事好きで・・・人間が人間好きになるように・・・スッゲェ好きで・・・種族とかそんなの関係なくて、あったのは敵同士っていう関係だけで、それでも好きで・・・。アイツが、例え人間でも好きになるよ。俺は・・・アイツを・・・守れなかったけど・・・・・・。」
涙が流れてきた。短い期間のたくさんの思い出を思い出して。背中合わせでありがたかった。表情が見えなくても、泣いてること、わかってるだろうけど。互いが互いに、今まで辛くても言えなかった事吐きだして。それで涙は流れてきたけれど悪い気はしなかった。
ちょっとスッキリして。しばらく何も会話はなかったけれど。泣いていたけれど。
悪くない沈黙。
『そっか・・・だから、横島クン、ちょっと変わったんだ。』
辛かった涙が流れて、落ち着いてきた頃愛子が呟いた。
「ん?何が?」
『んーん。別に。』とちょっと笑って返事を返した。
あの事件から少し横島が変わった気がした。また、いつもみたいにバカやってたけれど確かに変わっていた。そして今日の事でまたちょっと変わっていくのだろう。彼も自分も。
それが、「成長」するっていうことなのかもしれない。
「あ!そーいえば、愛子。あの子に、なんて言ったんだ?お前、なんか言ったろ?」
ちょっとおかしくなった。そうだ、私があの少女に言った言葉は彼は知らないのだった。
それだけのことが、なんだかおかしくて。
『内緒。すぐにわかるわよ。』
「?なんだよ、気になるな。」
うふふ、と軽く笑って。それから彼の背中にちょっと体重かけて。
『・・・今日、かっこよかったわよ。』
いつもかっこいいけど、今日は特別にね。「そ、そうか?」と照れている。そういうところはちょっと可愛い、と思う。
明日からは夜の学校も今までより好きになれると思う。寂しくなったら、また優しい彼は来てくれるだろう。それに・・・・・・
―――――――後日の理科室。
「やだよ、俺もう理科室怖ぇ。」
「何、まだ言ってんの?大丈夫だって。除霊委員がもうなんとかしたんだろ?」
納得できない彼がしぶしぶと理科室に入る。一度、少女の幽霊に狙われてしまい、友人によって助けられたがやはり怖い。丁度、その時、彼の肘があの棚に当たった。
事故。また新たに取り揃えられた薬品の一つが、彼とその友人へ向かって落ちてきた。
「うわあぁぁぁっ!!」
ガシャァァンッ!!周りには驚きと、その後を予想した悲鳴がおこる。
―――が、予想とは反してビンは粉々に床で砕け散った。
友人は「危ねーっ」とビンを見つめている。周りは「危なかったな」とか「気をつけろよ」と声をかけてくる。きっと、自分らの上に落ちてきたのは、一瞬のこと、目の錯覚だったとでも思っているのだろう。
だけど、自分はハッキリ見た。自分達の上へ落ちてくるあのビンを。そして・・・
「なんだよ、また霊かーっ!?」と友人が聞いてきた。笑って、「違うよ。悪い、俺の肘が当たった。」と事実を答えた。それで納得する。だけど・・・自分は見たのだ。
あの少女を。一度は自分を殺しかけた少女が、今度は自分達へ落ちてきたビンの角度を変えて守ってくれたことを。もう見えないけれど。
だから上を向いて「ありがとう。」と小さく言った。けど、あの少女がにっこり笑った気がした。あの怖い笑顔じゃなくて、子供らしい無邪気な笑顔が、ちょっと見えた。
笑い返すと、彼は席へつく。
少女は白衣を着て教室へ来た教師の授業を、棚の上という自分の特等席で嬉しそうに聞く。
― 一緒にこの高校を守ってみない? ―
今までの
コメント:
- よっしゃあー!!やっと終わりました!
行数と格闘しておりました。行数多すぎるとのエラーを始めてみました。(笑)
書いてるうちにどんどん愛子ちゃんを好きになってくるし。
ムチャクチャ続きが遅れても全部読んで下さった方々、コメントくれた方々、賛成票入れてくれた皆様本当にありがとうございました! (眠り猫)
- 私も、読んでるうちに愛子ちゃんが好きになってしまいました。
愛子ちゃんってやさしい娘ですねー。 (ねずみの尻尾)
- 横島と愛子の心情描写の対比が見事です。
ハッピーエンドになって本当に良かった…… (ロックンロール)
- この横島、ある意味俺の書きたい(けど文才が無くて書けない)理想の横島です。
様々な出来事を乗り越え、ただ強くなるだけじゃなくて、同時に弱い者のことを理解し、守ってやれる。
こんな横島が書ける眠り猫さんは凄いおひとです。 (黒犬)
- 連載、お疲れ様でした。
どちらかと云えば人間寄りの性向を持っている本作品の愛子(個人的には微妙な性格付けなんですが(笑))が一度は立ち向かわなくてはならない命題を、「成長した」横島がいともあっさりクリアしてみせる様がクールですね。
更に優しい視点から描かれた文章のあちらこちらに、少年時代や学校妖怪化(?)した彼女など、独特のアイディアが光っています。 (Iholi)
- コメントありがとございますー♪賛成票入れてくれた方にも感謝。
>ねずみの尻尾さん 愛子ちゃん可愛いですよねっ!!GSの女性の中で1番好きなのは我らが美神さんなのですけど、最近はもう愛子ちゃん可愛くて・・・ああ、でもマリアも可愛いしなぁ。(笑)
読んでるうちにだなんてホントに嬉しいっす。
>ロックンロールさん 心情描写・・・ころころ変わるしわかりにくいかな?と不安だったので(思いつきで書く奴)そう言ってもらえて安心すると同時に嬉しいです。 (眠り猫)
- >黒犬さん 黒犬さんの横島、優しくて、好きですよ。次はギャグの横島も書けるように頑張りたいです。(笑)
はわわっ、私が凄い人だなんて事ないですよ。///
黒犬さんのお話、いつも読んでて凄いと思います。
>Ihoriさん いつもコメントありがとです。鋭いコメントを貰う度に「おおっ」と喜ぶ自分が居ます。(笑) (眠り猫)
- よかったです、悲しいお話にならなくて。それに、愛子ちゃんも傷つかずに済んで。
やっぱり横島君は素敵な男の子ですね♪ (猫姫)
- 遅刻だ遅刻だ、うほほほほ〜♪
お疲れ様でした。ほんとにあったかでした。
妖怪の自分に向き合う愛子ちゃんの痛みと、
その傷を不器用にさする横島が、私をとっても癒してくれ
ました。
エピローグであの子がみんなを守ってくれるところも。
ありがとね。 (みみかき)
- >猫姫さん
コメントさんきゅうです。
はっぴぃえんどになって私もよかったです。(笑)
>みみかきさん
そう言って頂けると私も癒されます♪
むしろ私がありがとうを言いたいです! (眠り猫)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa