ザ・グレート・展開予測ショー

傷(改訂版)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 1/12)

その日
―月は青かった。
星は一つも見えないのに、何故かその青い満月だけははっきりと見える。
夜だと言うのにむせかえるような熱気と湿度。
アスファルトに覆われコンクリートの建物が所狭しと立ち並ぶこの場所に涼しさを求めても仕方が無い。
時折吹く風のかすかな冷たさが辛うじて暑さをやわらげているといった感じだ。
なのにこの場所から見える蒼い月は凍えるかと錯覚を起こしそうな程冷たく見えた。
それは単なる感傷にしか過ぎない。
見るものによってどんな風にでも変わるその―つき。
頭をニ・三度左右に振りそんな考えを頭から振り払う。
「久しぶりなワケ」
声の持ち主が言う。
女性にしては幾分低いだが、よく通る声だ。
つきに照らされたその姿は―妙齢の女性であった。
しかも美しい。
浅黒い肌に漆黒の髪、そして吸い込まれそうな闇色の瞳の持ち主である。
笑うとさぞや魅力的だろうにその顔には表情というものが無い。
「ああ…」
そしてこちらの声はもうずいぶんとしわがれた声。
声自体は若さがあるかもしれないが、いかんせんその声にハリというものが無い。
その姿も女性と対照的に青白い肌でやせがれており、一歩間違うとホームレスと間違われそうな身なりをした男である。
「何年振り……そうね、もう五年になるワケ?」
懐かしむような言葉でありながらその声には、その懐かしさを伺えられる響きは感じ取れない。
「五年…か…」
絞りだすように男。
「五年…その間にオマエは一流のGSになり、俺はこんな格好になったわけか…」
くつくつと乾いた笑いをもらしながら男。
「……同情はしないワケ。一歩間違えれば、アタシがそうなってたワケだから」
女は、痛みを堪えるかのように顔を歪ませ目を伏せる。
だが、それはほんの一瞬の事であり次に瞳を上げた時にはもう、無表情で淡々と言う。
だが、それとは反対に男は女の平坦な対応にかっと声をあらげた
「そう、後一歩だったんだっ!!師匠は、オマエが現れるまでは俺を後継者にすると…」
叫ぶように男。
「だけど、それはもう昔のことのワケ。第一アタシが後継者となっても、アンタにも呪術自体は教えられた。違うのは、あの悪魔のことだけなワケ。」
そんな男の様子に気にかけたものをうかがわせず女。
冷静に、事実のみを口にする。
「違うっ」
かぶりをよせ男。
その瞳は赤く充血しており、そしてぎらついている。
それは普通とよばれるべきものではない。
「……」
だが、女には動揺の気配すらない
一方男はぶるぶると小刻みに震えて言う。
それは、恐怖のために震えているわけでななく―怒りのためである。
「オマエさえオマエさえ居なければ、今ごろ俺がオマエの立場に居たはずなんだっ!!」
一際おおきな叫び声
そして
きらりと、月の光を受けて男の出したナイフが蒼く光った。
「…それで何をシタイワケ?」
表情をかえず女、
だが明らかにそのナイフを見た瞬間瞳に光が浮かんだ。
それは、怯えというものではない。
…明らかに怒り、そして失望だ。
「決まってるだろ…オマエの存在を俺の中から消すんだよ。」
いっそ穏やかとすら言える声音で男。
「オマエに俺の気持ちがわかるかっ!十年だ!十年師匠の下で、血反吐を吐くような修行をしてやっと…やっと認めてもらえると思った時に、オマエが現れたっ。たった14・5歳のガキに、俺の…俺の…求めてきたものを奪われるなんてっ!!」
「……だから」
「なんだと?」
「だから何なワケ?」
うっすらと口元を歪め女。
「!!!!」
「をおおおっ!!」
と吼えるように男。
ナイフを両手で持ち体ごと女へと向かう。
だが、そのナイフが女へと届く事はなかった。
シュッ。
寸前で交されそして
ブーメランを男の首筋に押し当てていたのだ。
「大人しく刺されると思ったワケ?」
穏やかに女。
「何故だっ!オマエは俺の人生をぼろぼろにしたんだっ。オマエは俺によって消されるべきなんだっ」
理不尽とすらいえることを当然の権利のように男。
「だから大人しく殺されろってワケ?たく冗談じゃナイワケ」
呆れたように女。
「一つ言っとくけど、あんたの人生をぼろぼろにしたのもアタシの人生を成功させたもの自分力以外なんでもないワケ。あんたは、アタシのせいにしてるけど、それはただ単にあんたの力がなかった言い訳にしかされてないワケ」
「そんなことはないっオマエさえ居なければっ!!」
なおもいいつのる男。
だが首筋にブーメランがかかったままとなっているためかそれ以上の事ができない。
ぎりぎりと歯をかみ締めるところから自分の扱いに不当なものすら感じているのだ。
「…そう、ならいいけど、今度アタシに襲い掛かる時には容赦しないワケ。自分は被害者だから何をしてもいいなんて思わないように。くれぐれもそれなりの行動をしたからには、それなりの報復が帰ってくることを肝に命じてほしいワケ…」
そして、私は徹底的に借りは返す
静かに。だが冷ややかな声で女。
ぞくりとその声に寒いものをかんじた。
「………」
そして優しいといえる動作でナイフを奪い取り、女はその場から立ち去る。
男を残して。
背を向けた途端涙が頬を伝った。


「エミしゃん…なんであんな男に会いにいったんじゃ?」
一部始終を見ていたタイガーが、不思議そうに問う。
「初恋だったワケ…」
アタシに初めて両親以外に優しくしてくれたわけ。
たとえどんな男だとしても
といってエミはふわりと少女のように笑った。

おわり

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