ザ・グレート・展開予測ショー

Bar Bourbon Street Lullaby  SecondStory 


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(02/ 1/ 7)

客席に明かりが戻ったと同時に雨あられのような拍手。
コンサートホールの舞台には令嬢、弓かおりピアノから離れてお辞儀をしている。
「美神さん、弓さんの控え室に行ってみましょ!」
「私はいいわ。オキヌちゃんだけで。クラスメイトでごった返しているでしょ?」
そうですか?と一旦は質問したが、時間も少ないこと、小走りに走っていった。
美神も半ば強引にオキヌちゃんに連れてこられた形だったのであろうか。
「出ましょうよ。美神さん」
あくび混じりの横島が隣りに座っている。
と、二人はホールの扉から出る。
来た時はまだ太陽は上にあったが、今は街を照らすほどの勢いは無い。
まかりなりにも、コンサートホールでの演奏会なので、一張羅のスーツ姿である。
「『馬子にも衣装』ってよく言った物ね」
美神、事前にそんなことを言ったか。
理由はそれだけでもなかろうが、
「ねぇ。横島クン、お腹空いてない?」
「空いてるっす。なんでも御座れっすね」
言うと同時に横島の瞳からあくびからくる涙が一筋。
「でしょ?この近くにさ、冥子から教えてもらった場所があるんだけど、どぉ?」
数分後。
横島は初めて静かにカクテルを楽しむ店、Barに足を運ぶことになった。
「美神さん?ここって酒場じゃないっすか!」
「酒場?バーって言いなさいよ。珍しくおめかししているんだから」
「はぁ」
少なくとも美神はこの手の店に幾度となく通っているだろう。
コンサートホール程ではないが、やや暗めの色調。
時間が早い所為か、音楽は流れていない。
アップライトピアノ(普通のピアノ)が店の真中に置かれている。
華美にならない程度に清楚な格好のウエィトレスに導かれて席に着く。
「カウンターテーブルでお願いね」
と、美神は指示したか。
二人の前には初老のバーテン。
一言も語らず、何が気に食わないのか透明になりきったガラスのコップを丹念に拭く。
沈黙が場を支配する。
たまりかねた美神が声を出す。
「あの」
もう一人、やや若めのバーテンが優雅にやってくる。
「失礼しました、ご注文はお決まりで?」
横島、この場になって気づいた事だが、何を頼むか聞いていない。
美神も同様である。
場を繕う為か、先ず自分がよく飲むカクテルを頼む。
「じゃあ、モスコミュールを」
ウォッカをベースとした、レモンジュース15mlを混ぜるスタンダードカクテル。
「それを二つ、あとはチーズを」
「畏まりました」
カクテル作りに取り掛かろうとする若バーテンだが、老バーテンが手を上げる。
右手人差し指を一本上げる。
一杯だけにしろ、と無言で示している。
「ですが、お客様が、二つと」
老バーテンは横島をちらっと目線を流す。
今度は左手人差し指を軽く上げ、自分の体を突付く。
「分かりました。一杯はマスターにお任せします」
吐息混じりで老バーテンに言ってから、
「申し訳御座いませんが、マスターが男性の方には特殊なカクテルをと申していまして」
よろしいでしょうか、の質問に横島は頷くのが精一杯である。
「こういう所がバーのお洒落なんすかねぇ?」
「ううん。私もこんなのは初めてよ」
見詰め合う形になった二人。
どちらと無く目線をそらす。
ピアノの弾き手が椅子に腰をかけていた。
老バーテン、やや未練が残るのかコップを所定位置に戻さず下に置く。
柑橘系の色を見せる液体に、
サワーを絶妙な分配で混ぜてからチェリーを載せたものを出す。
出来上がった頃、若バーテンがモスコミュールを持ってくる。
「どうぞ」
二人の前にカクテルグラス。
美神、グラスの細い部分を三本の指でつまんで持ち上げる。
「じゃ、乾杯」
横島は美神の真似をしるのが精一杯であるのか。
カクテルグラス特有の響きある高音が響いたと同時にピアノ演奏が始まった。
美神はすぐにグラスに口紅を残すことになるが、横島はそうはいかない。
「俺・・いいのかなぁ、飲んじゃって」
「いいわよ、保護者同伴なんだから」
あたりを見回せばきれいなお姉さんが沢山だが、そこまで気が廻らないようだ。
故に美神も多少は安心できるし、
深層心理の奥底では嬉しいに違いない。
おどおどとした横島の態度も自分が年上であることを再認識させる。
「大丈夫だよ坊や」
決意決まらない横島に対して『坊や』と言葉を発したのは老バーテンである。
カウンターを見ると矢張りガラスコップを丹念に磨いている。
「坊やのはノンアルコール。酒を飲むには二年・・いや三年はやいな」
ガラスを拭く手を止めずに、目線も上げずにポツリと。
「そうなんすか!いやーすいませんっす」
お預けを解かれた賢犬の如く、カクテル、とも言えまい。ジュースをのどに流す。
もう一人、カウンター内にいる若バーテンが、ウエィトレスの一人に、
「さすがマスターだよ、顔を見ただけで未成年かどうか、見破るんだから」
しきりに感心している。
不服顔、ではないが、残念そうにしているのは美神である。
「そうなの、せっかく公認でお酒飲ましてあげようと思ったのに」
「いやぁ。そうは言っても。酒はまだ怖いっすよぉ」
「何よぉ。男の癖に。私があなたぐらいの時はもうガンガンやってたわよ」
管理の甘い唐巣神父であったのか。
チーズがやってくる。
当然、小腹の空いている横島が口にいれる。
「〜〜ん」
顔がゆがむ。
「アルコールを断った坊やにゃ早い食べ物だな。このチーズは」
又老バーテンが口を開く。
「こっちのほうがいいだろう。スナック菓子、だ」
いつ用意したのか、お手拭を沿えて美神の目の前に出す。
「はは。ありがとうっすね」
美神のグラスにほんの少しだけ、モスコミュールが残っている。
ちょっとだけの好奇心か。
その視線も美神は感じ取っている。
「飲みたい?」
「・・・・・・はい。でもぉ」
この老バーテンがちっと怖い、といった所か。
だが、当の本人は目は瞑ると、ばかりに目の輝きを抑えた。
「じゃあ、ちょっとだけ」
ルージュの残る部分の反対側に横島は口を当ててグラスを当てる。
「へー、これがカクテルっすかー」
「ふふ。分かりもしない癖に」
くすりと笑ってから
「そもそもカクテルってのはね、ジン、テキーラ、ウォッカ、ラム、リキュール、シェリーなんかにジュースで割った物よ」
レクチャーを始めたところ、
「いいえ、シェリーは正統とは言えませんな」
これも目を見ないでつぶやく。
通常、こんな態度は嫌味に見えるが、不思議とこの老バーテンには一切感じられない。
「それにワインが抜けております、ぞ」
なんともな顔の横島に対して、美神の顔にはやや恥じらいの色が残るか。
老バーテン、顔を上げたと同時に、己の唇を指差す。
美神何かに気づいたようだ。
少し息を吐き出した老バーテン。
「さて、お次は?お嬢さん、お手洗いに行く前にどうぞ」
「じゃあ、オレンジ・ブロッサムを」
ジンベースの、オレンジジュースの酒である。
「じゃあ、私お手洗いに、ね。場所は?」
美神の問いに老バーテンは手で指し示す。
席を立ったとき音楽が止んだ。
「バーテンさん、どうして美神さんがトイレに行くって?」
「・・。口紅がな、かなり落ちたのさ、坊やにゃ気づかないだろうがね」
軽く肩を上げながら、
「でも大変だろ?あんなのが彼女じゃ」
はっと横島顔をあげて、
「いや、彼女だ、なんて・・そんなんじゃぁ」
老バーテンふっと笑って、
「私には一緒さ。だがね。あと三年後に来てほしかったな。坊やが指輪を持ってきてさ」
どうして、そんなことが分かるんすか?と質問しようとしたとき、
ピアノが二曲目を始める。
大昔の映画音楽であることは横島も知っていた。
老バーテンのお気に入りの曲なのか、口を真一文字に閉めて耳を大きくしている、
ように、横島には見えた。
若バーテンがカクテルを持ってきた頃、
美神は戻ってきた。
「マスター、珍しく結構しゃべりましたね」
この後、老バーテンから声が発することも無く、
あのカクテルグラスも所定の場所に戻る事は、
少なくとも美神、横島が帰るまでは無かった。

-FIN-

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa