ザ・グレート・展開予測ショー

音色。(後編その2)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 1/ 4)


―届くべきこころ。

午後十時五分。
「…よしっ」
という小さい声と共に顔をおきぬはあげる。
その顔には迷いは―無い。
あるのはプロとしての顔である。
そしてドアを開けるために腕を伸ばした。
きぃぃぃ。
ドアの微かに軋む音。
感じる霊圧。
視界に広がるのは、なんの変哲もない部屋であった。
ただひとつ、まるで空き巣にでも荒らされたかのようにものが散らかってなければ。
そして、そこにいるはずのない人間―いや人であったもの。
透けた体は、不思議なことに、その存在の希薄さを主張をしているかのようだ。
十歳を越えたかと思えるその姿は、頼りなく細い。
見る限りでは、目の前の存在を、悪霊とは呼べない。
「どうしたの?」
やわらかくおきぬ。
その声は優しい。
『―の』
「うん?」
『怖いんだ―』
抑えきれない感情を一言一言くぎるように言葉を放つ。
そして、その言葉に呼応するかのように、ぶわっと周りのものが飛ぶ。
ひゅんっとイスがおきぬの横を通りぬける
だんっ!!
と音をたててイスは壁にたたきつけられる。
つう
おきぬの頬に一筋赤い線が走る。
だが、おきぬは微動だにせず、笑ったままいる。
「―何が?」
するとその存在は哀しげに顔を歪ませ
『僕ね、もう、死んだんだ』
その一言一言に周りのものが飛ぶ。
荒れる。
どうやら、この存在には自分が、今物を動かしているという認識はないらしい。
『だけど。だけど。僕は―まだいなくなりたくないんだ。』
分かってるという。
―ここにいることが不自然なことだということを
それでも、いたいんだ。と。
「どうして?なのかな?」
詰問ではなく、心底不思議そうに首を傾げおきぬ。
それは、そうだろう。
この前にいる存在には悪意がないのだ。
執着―は、あるだが、そこまで、こんなふうに残るほど強いように見えない。
少なくともおきぬには、そう見えた。
……
流れる沈黙
……どれくらいたっただろうか?
『お日様…』
「お日様?」
『なおったら…からだが元気になったら…てんきのいい日にみんなでピクニックにいこうって』
河の傍で、みんなでおにぎり食べ様って…
約束してたんだ。
と言う。
もう叶えられることの無い約束を、大切な大切なもののように…
『もう、苦しくないのに、もう、点滴や注射やしなくてもいいのに…なのに、痛いの』
なのにっ死んだんだ。
死にたくなかったのに
治って…治っておとうさんとおかあさんといっしょにいたかったのにっ
病院でくくりつけられたくなんかなくて。
もっとしたいことや、するべきことや果たすべき約束があったのに
なのに、死んだのだ。
びゅんびゅんと物が移動する中悲しみ、いや慟哭と言うに値する思いが流れる。
それは、どうしようも無い。と言えばそれだけの事かもしれない。
死にたくない。
いや―なにもできないまま死ぬのは嫌だ。という。
苦しみの中死ぬのは嫌だと―
―怖いと
「そう、だね」
ぽつりとおきぬ。
その声音からは感情は読み取れない。
「誰だって、死にたくなんかないよね」
だけどね
「だけど、貴方は、もうここにいるべきじゃないの」
いたら、いけないの
そして、手にもっていた笛を構えた。
つづく

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