ザ・グレート・展開予測ショー

Before Prologue――恐怖――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(01/12/20)

 轟音。
 激しく吠え狂う爆炎。そして、逃げ惑う対戦相手。しかし……駄目だ、自分の『感覚』からは絶対に逃げられない。跳躍して、相手にニ・三撃見舞う。
「うわああぁぁぁぁ………………」
 爆音の中で、雪之丞は悲鳴だけを聞いていた……

『伊達選手、四回戦! 突破です!』
 うるさいナレーションが場内に響き渡る。意識をそらしてそれをやり過ごしながら、雪之丞はリングから降りた。広い武道館全体に響き渡る大音声だ……うるさいのだ。ナレーター席の真下のリングにいると。
(去年は、ここまでだったんだっけな……)
 そうだ。自分は昨年、この試合で横島忠夫と引き分けた。結局、メドーサに手を貸していたことが発覚した自分はGSとしての資格を剥奪され、そして今またこの試合を行う事になったのだが。
 歩き出す。嫌な事を思い出してしまった。あの、世にも情けない『ドローゲーム』の様子を……思い出してしまった。克明に。
(そういえば……)
 去年は自分は独りではなかった。少なくとも試験場では。『友』とは呼べないにしても、『仲間』とは呼べたであろう男。あいつを思い出す。
(いや、同じ穴のムジナか……俺も、あいつも)
 結局、一年たって自分はここに戻ってきた。去年とは違うという自負はある。しかし、どうしても武闘着を着ると思い出してしまう。あのころの、他者の手を借り強くなったと思い込んでいた自分を。
(今がどれだけ変わっているのかは……知らんがな……)

『只今より、第五回戦を開始します! 参加選手一同はリング上に来て下さい!』
 その男は立ち上がった。ゆっくりとした動作に、不敵な物腰をのせて……そして、おもむろに壁に頭を打ち付ける。
 轟音。
 壁から埃がパラパラと落ちる。ついでに、コンクリートの壁には放射状に亀裂が走っていた。
 男はことさらにゆっくりと控え室から出て行く。その眼光は鋭く、眼差しにはある種の決意が宿っている……
 そして、おもむろに口を開く。
「優勝すれば…………エミさんのキス……エミさんのキス……ふっふっふっふっふ…………」
 その言葉に控え室で体を休めていた参加選手一同、鳥肌と寒気を体中に走らせる。ついでに青ざめた顔で、ゆっくりと控え室を後にする選手も居た。無論、この場に居る事が生理的に耐えられなかった者だろう。
 その男は控え室を後にした。巨体が揺れる度に、その場に響く轟音。リノリウム張りの廊下にくっきりと足跡をつけて去る巨体。そして、その男の口から漏れる含み笑い……と言うよりは邪笑。
 そして…………虎は目覚めた。

『只今よりっ! 第五回戦を開始いたしますっ!』
 そう、アナウンサーが絶叫してからしばらく経ち…………
Aリング。雪之丞はそのリング上で、相手が現れるのを待っていた。ちなみに、開始予定時刻から、もう既に五分が過ぎていたりする。
(遅い…………)
 自分の気が決して長くないこと(いやむしろ短いこと)は自覚していたが、ここまで待たされると現れた相手をタコ殴りにして、親でも見分けがつかないような顔にでも変えてやりたくもなる。ちなみに、十分以上経って現れなかった場合、その選手は失格となるらしい。去年の横島の自体を踏まえて、協会が今年から制定したそうだ。
(遅い…………!)
 そろそろ我慢の限界だ。リング上に一人で突っ立っている事ほど空しい事もない。自分は今年は正式に免許を取得したい故、今まで我慢してきたが、そろそろ潮時かもしれない……そう、大丈夫だ。大丈夫だよ……
 などと、内なる悪魔の囁きに体を従わせそうにもなってみたりする。
『えーっ、現れないようなので……この勝負、伊達選手の不戦しょ――』
「ちょおっと待ったああああっ!」
 突如、その場に響き渡る大音声。一気に、その場の気温が数度ばかり上昇したような熱気……それが、エントランスに仁王立ちするその男から発せられるモノであることは、その場に居た誰もが瞬時に気付いていた。
 当然、雪之丞もだ。
「お・お前…………」
 怒りも忘れて唖然とする。その場に居た男は……
「……久しぶりじゃノー……雪之丞サン…… 悪いですが……わっしの為に……負けていただきますケンノー…………」
「うっ……!」
 異様な迫力に押されて、数歩後ずさる。見れば、現れた男――タイガー寅吉の歩いた後には、点々と足跡が残っていた。否、刻み付けられていた。リノリウム張りの廊下に…… タイガーの眼光は、完全に座っている。狂気を湛えた表情で、タイガーは雪之丞に迫る……
『え・え〜と! 伊達雪之丞選手対、タイガー寅吉選手! ファイ!』
 急いで(というより、少しでもタイガーに関わりたくなかったのであろう)アナウンサーが試合開始を告げる。
「死・ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
 全身でこちらに掴みかかってくるタイガーの突進を、右への体さばきで何とかかわす。そして、無防備な側頭部を、渾身の力を込めて殴りつける。
「――――!!」
 吹っ飛ぶタイガー。殴った拳に多少の痛みが残っている事を気にしつつ、雪之丞は倒れたタイガーを見やった。
「!? 嘘だろ!?」
 そして驚愕する。
「ふ・ふふふふふふふふふふふふふふふ……………………」
 頭部に脳震盪を起こしてもおかしくはないほどのダメージを受けながら……タイガーは、笑っていた。どこか、虚ろな眼――そして、狂気を湛えた眼で……
「う……うわあああああああっ!!」
 恐怖。
 どこか、根源的な……身体の深奥から湧き出てくる恐怖。それに突き動かされて――雪之丞は倒れたタイガーに殴りかかった。
 最早技などと呼べるものではない。純粋に、原始的に、拳と言う己の最弱にして最強の武器を以って、『恐怖』を破壊する。恐怖の具現を破壊する。
 もともと、全力を振り絞っていた攻撃はもののニ・三発だった。集中力が散漫になれば、その分実質的な霊力の錬度は低下する。
「死ねええええええっ! 死んでくれええええええええええええっ!!」
 遂に魔装を纏う。散漫な集中力で生み出された霊気の鎧は不完全な形状であったが、それでも、攻撃の威力を倍加する。本気で死んでも何らおかしくない位の攻撃が繰り出されつづける……
 そして、五分。
 雪之丞は、その場にへたり込んだ。タイガーは、最早タイガーとは分からぬ姿にまでなって、ピクリとも動かない。
「はぁ…… はぁ…… し、死んで……くれたのか……?」
 ちなみにタイガーの安否は蚊帳の外。雪之丞としては、一刻も早くこの場から遠ざかりたかった。――空が見たい……蒼い、蒼い空が……
 安堵した直後。
「……ふふ……ふふふ…………」
 その場に、地の底から響く笑い声。
「ひっ……!」
 雪之丞はあとじさる。
(恐い……恐いよ。助けてくれ、ママ! 俺には、俺にはもう……もう、何も出来ない……何も出来ないよ……助けてよ! ママァッ!!)
 いっそ、恥も外聞も捨てギブアップでも何でもしてしまおうと思う。そうだ。自分は頑張った……ここでギブアップしても、多分誰も自分を責めまい……
「…………エミさん…………わっしは……わっしはやったケンノー……」
『あの……伊達選手? タイガー選手?』
 かなり引きながら(当然の事だが)言ってくる審判。戦っている二人が、一人は膝を抱えて座り込み、もう一人は血まみれで横たわっているので、職務上は割って入らなければならないのだろう。
 取り合えず、タイガーの様子を(恐々と)確認する。
 そして、気付く。
『えーっと…………タイガー選手……気絶しております……ハイ……』
…………………………………………………
その場に漂う沈黙。
「え…………?」
 そして、手を高々と挙げられる雪之丞。
『勝者っ!! 伊達雪之丞選手ぅ――っ!!』
 雪之丞は、いつまでも呆けた顔でそこに立ち尽くしていた…………

 それが二時間ほど前の事だ……
(今思い出してみても馬鹿馬鹿しい……)
 雪之丞は嘆息する。そして、意識を現在へ集中させる。
 外には夕暮れが見える。彼にとっては、感慨を誘うわけでもない夕暮れ……

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