きっとそれはやさしいうた【3】
投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/12/ 5)
〜だけどあなたにおくるうた〜
二週間は、あっという間に過ぎようとしていた。
美神はもうベッドのから起き上がることくらいしか出来なくなっている。主治医である小鳩も、三日前から泊り込んでついている。
「小鳩さん…。ありがとうね」
「美神さんのこと、仕事だけでやってる訳じゃありませんから…」
ピートとおキヌの電話作戦もなかなかの成果をあげ、美神の師匠や元助手をしていた人狼の少女をはじめ、GSの仕事で知りあった者達、おキヌの友人知人、果てはピートが通っていた高校の同級生の中にも駆けつけてくれた者もあった。
久しぶりに賑やかになった美神・氷室家。美神も嬉しそうだったが、ふと浮かない表情を浮かべるのにおキヌが気付いた。
「…ピート…」
「ん…?」
「美神さん、何か不満なのかな…?」
「…というより、誰か来ないかと思っている顔だな、あれは」
「誰だろ?」
「うーん」
そのとき、
ザアァァァァァァァァァ――――――
晴れた空から、突然降ってきた。雨かと思って外を見た二人は、その中に白いものが混じっているのを見た。
「…霙だ…!」
「うそ…こんな季節に…?」
驚く皆。それをよそに、美神が突然泣き笑いの顔になって呟いた。
「タマモ…」
その名には覚えがあった。16年前、自衛隊から美神が退治の依頼を受け、それをおキヌと横島がこっそりと保護した縁から事務所に住み着くようになった金毛白面九尾狐、タマモ。横島の事故死と共に事務所から姿を消し、未だ以って行方不明である。
(しかし、なぜ今になってその名が…?)
そう思ったピートだが、玄関のチャイムが鳴るのを聞いた彼は反射的に玄関へと駆けつけ、ドアを開けていた。
「………」
雨の中、忘れようとしても忘れられなかった姿があった。頭の後ろで九房に纏められた明るい栗色の髪、くりくりとしたやや吊り気味の大きな瞳、形よくまとまっている鼻、黙っていれば可愛い一文字の唇。と、5年前そのままの姿のタマモが立ち尽くしていた。
「タ、タマモちゃん…!?」
まだ半分信じられない様子で、ピートが声をかける。それに答えて上を向いたタマモの表情は、突然振り出した天気雨に合わせるように崩れていた。
「ピート…」
涙目でぼそぼそと呟く。
「…美神さんを、送りに来たの…」
「タマモちゃん、何言ってるんだ?いいから上がりなよ。美神さんだって喜ぶ…よ…?」
ピートが絶句する。タマモの姿は、まるで幻のように後ろの景色が透けて見えるようになってきた。
「…土地神のみんなに、手伝ってもらったから。…空を…見てよ」
「空?」
既に日は沈みかけている。空気の淀んだこの街では、空は決して美しいものではない。それを見ろ、と。
「あたしには、こんなことしか出来ないから…、せめて…」
泣きじゃくりながらそう言うタマモの姿が、だんだん薄れていく。
「おい、タマモちゃん!待ってくれ!」
そう言ってタマモの腕を掴もうとするが、その手は虚空を掴んだだけだった。
「美神さんも、おキヌちゃんも、ピートも…あたしとアイツの大切な家族だから…。ピート…しっかりね…」
最後の声は、土砂降りの霙の音にかき消されそうになったが、ピートは必死で一字一句逃さずに聞きとめた。
タマモの姿が完全に消えてしまった後も、ピートは暫く呆然と佇んでいたが、ふと我に返ると家の中に駆け込んでいった。
「おい、みんな手伝ってくれ!」
突然ずぶ濡れになったピートが、戻ってくるなりそんなことを言ったので、皆一瞬唖然とする。
「ピ、ピート、どうしたの?」
「美神さんをベランダに運ぶ!小鳩さん、大丈夫だね?」
「背骨に力が入らないようにすれば大丈夫ですけど…。一体何があったんですか?」
「話はあとだ!とにかく手伝ってくれ!」
「わかり申した。任せるでござる!」
皆に手伝って貰って、美神に負担をかけないように注意深く二階のベランダまで美神を支えて連れて行く。
『…!!…』
皆が絶句した。
「空が…光ってる!?」
小鳩が呆然として呟く。街を見下ろす、裏返せば街のどこからでも見える夕方の空いっぱいに、橙色の光が踊っていた。元々、妖狐の狐火を見たことは何回もあったが、雨の中、空全体を包み込むこれだけの数の燐光を見たのは皆初めてだった。
「…タマモちゃんの…送り火だ…」
ピートが誰にともなくそう言った。それに答えてシロが、
「あいつ…、本当にとことん素直になれないヤツでござる…」
それが、その性格こそが。九尾の狐が災厄と呼ばれる所以なのかも知れない。と、ピートは思う。
「そうだね…こんな形でしかボク達に告げることが出来ないなんて。確かに災禍だよな…」
「そうね…でも」
ピートの呟きに美神が答える。
「嬉しい…災厄ね…。短い間だけど、私たちのこと家族だって思ってくれたんだから…」
美神の頬に涙の筋が光った。
「タマモ…ありがとう。最期にあんたに会えて、本当に嬉しかった…。あたしたちの家族なんだもの…あんたは…」
空の光は、美神の言葉に呼応するかのように激しく明滅を繰り返し続ける。
「…!…」
次の瞬間だった。美神が力なく崩れ落ちたのは。
「皆!早く美神さんを下に!!」
小鳩の悲痛な叫びが、皆を現実に立ち返らせた。
今までの
コメント:
- 美智江は何故居ないのか?とか、エミや冥子はどうした?とか。
この話に至るまでの道程と、出てこないキャラたちの設定は俺の頭の中にあります。ですが、作中ではあえて説明はしないことにしました。
皆さんが想像の中で考えたこと。それが皆さんそれぞれの真実ということにしたいと思います。 (黒犬)
- なるほど・・・そういう配慮の仕方もあるんですね。感心しました。 (富士見と美神のファン)
- 今の美神達の世界や繋がりがあって良かったと思います。
実は「その後のオバQ」みたいな話はにがてでして。
過去の幸せなノスタルジィに浸って、現在を間接的に否定
されると、じゃあ今何やってんだよって気分になるもんで。 (みみかき)
- ↑『劇画オバQ』は「夢を抱いていた過去への賛美」の裏返しとしての「夢に敗れた現在の世知辛さ」と同時に、それらのまた裏返しとしての「美しい過去を捨て去り現在を受け入れるしかない(夢ならぬ)現実」と云う矛盾に抗えない人間に対する愛情の視線が感じられて、僕は結構好きな作品です。好意的に捉え過ぎかも?(苦笑)
伝説の大妖怪であったとは云え、これ程の壮大な贈り物を見せられるとは……まさに地上最強のGS・美神の別れに相応しい(横島の時はどうだったのか? とかはさておき)。
……で、これで助かった〜とかいったら、泣いてやる。 (Iholi)
- 「…道は違えてしまったけれど、それでも私たちは友人ですから」
前話の小龍姫の言葉が、ここでも生きていますね。
たとえ道を違えた同士でも、やはり友は友であり、家族は家族であった。それが、今話の中で見事に語られてます。まさに、黒さんらしい絆の描き方ですね。 (ぱっとん)
- 富士見と美神のファンさん。いえ、配慮というほどのものじゃありません。
物語は誰かに読まれた時点で、その読んだひとのものになると考えていますから、余計な事は書かない方がいいだろうとおもっただけなんです。
勿論、「ここはなんでこーなんだ?」「あのキャラはどーなったの?」というような質問がありましたら、いつでもお答えします。
みみかきさん。俺も「常に舞台は現在だけにある」と考える人間です。
「あの頃はよかった」なんて愚痴るよりも、今現在できることを考えたいものですね。思い出の大切さだけはそのままに。
ですから、この話でも16年後の「現在」だけを切り取ったつもりです。 (黒犬)
- Iholiさん。横島が死んだときの悲しみに耐え切れず、一度はその悲しみの根源たる「家族」を捨てようとしたタマモ。だが、やはり彼女には自分を「家族」でなくすことは不可能だった・・・・・・という場面ですので、狐火も大判振る舞いです。
作中でシロが言ってるように、一度は飛び出した家族の中に、素直に収まる事が出来ない彼女の、自分に出来る精一杯の事なのでしょう。
この後、彼女は家族の元に還ることができるでしょうか? (黒犬)
- ぱっとん君。家族もそうだけど、根本的に人と人を繋ぐ絆ってやつが好きなんだよ。
特に、何十年と経っても、その間一度も顔を合わせなくても、全く色褪せない普遍の絆がね。 (黒犬)
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