ザ・グレート・展開予測ショー

きっとそれはやさしいうた【1】


投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/12/ 5)


はじめに

この話は『極楽大作戦』の16年後のお話です。少し年月が経っていますので、主要キャストの現状報告を兼ねて、簡単な紹介をしたいと思います。



横島 忠夫(享29)5年前に死去。

美神 令子(37)横島と結婚(夫婦別姓)し、世界最強のGSとして活躍するも、夫との死別を期に引退。その後は事務所のオーナー兼、氷室夫妻・ひのめの相談役として同居。現在、現役時に受けた傷の後遺症により、死の淵にいる。

氷室 キヌ(33)横島を喪った時に支えてくれたピートと、めでたく結婚した。美神姉妹とは、家族として、仲間として、一緒に暮らしている。

氷室 ピート(?)おキヌと結婚して氷室姓に。彼女を傍で支えるべく、Gメンになることを一時的に断念し、民間のGSとして活躍中。

美神 ひのめ(17)玲子の妹で高校生。GSを目指し、姉に師事して修行中。

花戸 小鳩(33)令子、美神ら共通の友人。総合病院の勤務医。

犬塚 シロ(?)横島の死に、耐え続けられないと判断した周りの進めで5年前に人狼の里に帰っている。美神の容態についてはまだ知らされていない。

タマモ(?)横島の死と同時に、事務所から姿を消す。行方不明。









〜それはちいさくささやかなうた〜





風が気持ちいい。

短い夏が終わり、今年も秋が来ようとしている。

…もう何回、この街で冬を迎えただろう。

あたしが初めて恋をして、

大好きなひとと結ばれて、

そして、そのひとと共に精一杯戦ったこの街で。

でも、

あたしはもうここでは冬を迎えることはないだろう。

だって、

追いかけていかなくちゃ。

あたしにとっても、

みんなにとっても、

大切な家族だったあのひとを…。





「小鳩さん…今、なんて言ったんですか…?」

震える声で、おキヌが問い掛ける。
診察室の椅子に腰掛けた小鳩は、沈痛な面持ちで、

「言葉通りです」

ぼそっ、と呟く。

「私に言えることはこれだけです。あの身体で、今まで良く頑張りました、って…」

「…じゃあ」

おキヌの眼が潤んでくる。未だに少女時代の面影を残す両眼は、触れたら溢れそうなほど涙で埋まっていた。

「…やだ、そんなのやだ…。ねえ、小鳩さん。冗談ですよね…?」

すがりつくような声で、目の前の女医に問い掛ける。しかし小鳩は首を振ると、

「こんな話題で冗談は言えません…。既に彼女の脊髄はもう……」

「そんなの…そんなの聞きたくない!」

立ち上がって、診察室の外に駆け出すおキヌ。後にはピートと小鳩だけが残された。

「アシュタロス戦で受けた傷の後遺症だなんて…、今までそんな素振りなんて全然…」

「ピートさん。もう5年も一緒に暮らしているんだから、美神さんの性格わかるでしょう?あの人はどんなに苦しくても、いつもの余裕を崩さないひとですから」

「…おキヌと同じ事を聞くけど、もう見込みはないのかい…?」

それを聞くと小鳩は立ち上がってピートに背を向け、後ろの机に左手をつく。

「…奇跡が起これば何とか…」

小鳩の声が震え始める。テーブルに置かれた手も震えだしていた。

「でも…」

消え入りそうな声で、

「奇跡は簡単には起きません。横島さんが死んだ時と同じように…」





病院から自宅へ戻ると、一気に疲れが押し寄せてきた。今日は医師として一番やりたくないことをしなければならなかったのだ。部屋に戻ると一気に力が抜けた。ふと部屋の隅に人影が見えることに気付く。

“…小鳩さん”

部屋の隅に立ち尽くす、古いデザインのセーラー服の少女のことを小鳩は知っている。
かつて『彼』の死と同時に、まるで後を追うかのように姿を消してしまった彼女。しかし、5年経った今でも時々こうやって小鳩の目の前に現れることがある。本人か、それとも小鳩が作り出した幻なのか。小鳩にとってはどちらでもいい事だったが。

“…美神さん、もうダメなの?”

いつもはたわいもない雑談に終始するこの幻が、泣きそうな声でそう告げた。

“悲しいよ…悲しすぎるよ…ピート君も、おキヌちゃんも、小鳩さんも…”

「そうですね……でも」

辛そうに唇を噛んで、それでも小鳩ははっきりとした口調で言葉を紡ぐ。

「これは、誰もが通らなければならない道なんです。生きている者はいつかは死ぬ。生き物にとって、死は誰もがいつか到達する、最後のゴールなんですから、嘆き悲しむばかりではいけないと思うんです」

“小鳩さん…お医者さんの台詞じゃないわよ…”

それを聞いた小鳩、初めて苦笑して。

「ふふ…そうかも知れませんね。これじゃ医師失格かも」

“でも、やっぱり悲しいわ。だって、美神さんはまだ……”

「…確かに、37歳で往くのは早過ぎですね」

そっと伸ばした指先が、愛子の頬を撫でる。

「だけど、大丈夫ですよ…。残念だけど美神さんは、現代医学でも魔法医学でも手におえません。でも………」

確信したような口調で、こう締めくくる。

「私は信じていますから。…横島さんから受け取った、美神さんたちの強さと絆を」





「お帰りなさーい。ピートさん、おキヌ…ちゃん?」

出迎えたひのめが絶句するほどおキヌの状態はひどかった。着ていった白いスーツはあちこちほこりがつき、ハイヒールは片足のかかとが折れ、焦点を失った眼からは何かが流れた後がくっきりと残っていた。

「ひのめちゃん、話は後だ。とにかくおキヌを部屋に運ぶのを手伝ってくれ」

「う、うん…」

   ・
   ・
   ・

「…どう?」

「うん、落ち着いたみたいだ」

どうにかおキヌをパジャマに着替えさせてベッドに連れて行ったピートがリビングに戻ってくると、ひのめがココアを入れているところだった。

「…おキヌちゃんのあの様子だと……姉さん、もうダメなんだね……」

暗い表情で俯いてしまう。覚悟はしているつもりだったが。

「…医者の見立てだと、後二週間ないそうだ」

「そう…」

視線を天井に向ける必要があった。零れるものを止めるには。

………………。

暫く沈黙が続く。やがて、

「美神さんに報告しないとな」

「あ、じゃあ、あたし片付けとくね」

「ああ、頼むよ」





ひのめに片付けを任せて、ピートは廊下にでた。一階の奥の部屋の前に立ち、『令子の部屋』と書かれたプレートが下げられたドアをノックする。

「はい、ピートね?」

中から返事があったのを聞いて、ピートはドアを開けた。

「ただいま帰りました。その…、おキヌは…ちょっと具合が悪くて…」

ベッドの上で半身を起こした美神にそう声をかける。死の淵にいる身でありながら肌も髪も艶を失っておらず、彼女の美貌は少しも損なわれてはいなかった。

「小鳩ちゃんは、なんて言ってた?」

「…通院の必要はもうないそうです。鎮痛剤がなくなったら届けに来るということでした」

「小鳩ちゃんの調合した薬は、よく効くからね」

ふふふっ、と笑みを漏らす。しかし次の瞬間、

「それで…」

美神の目が、光ったような気がした。

「あたしは、あとどれくらいなの?」

それを聞いて、ピートが硬直する。たっぷり数瞬の間を置いて、ようやく。

「…気付いて…いたんですか?」

「帰ってきたときのおキヌちゃんの様子を聞いてて判ったわ。いいのよ?言うのが辛いなら…」

「いえ…、美神さんに隠し事が出来るとは思ってません」

ピート、大きく深呼吸を一回。

「…小鳩さんが言うには、あと二週間保つかどうか、だそうです」

「そう…」

美神が、窓の外に視線を流す。

「…おキヌちゃんは、どんな様子?」

「かなりショックを受けているようです。部屋に運び込んで寝かしつけましたが、未だに放心状態で」

「…ふぅ…」

ため息一つ。

「ピート」

視線をピートの方へと戻し、意を決したように、

「私の我儘…、聞いてくれない?」

「はい?」

「おキヌちゃんの部屋まで、連れて行って」


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