ザ・グレート・展開予測ショー

眠り<スリーピング>=一時停戦=


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/11/22)

小物で飾り付けられた、やや小さな部屋。そこに不釣合いなほど殺伐とした空気の男が言う。
「早速訊こう。お前らは何だ?一風変わった術が使えるようだが……」
男は、友人でもあるこの部屋の持ち主に剣の調達を頼んだ。気が引けたが、事態が事態だ。
「魔族だったらそもそもこの程度のことで捕まえられはしないだろう。
とはいえ、呪文の詠唱なしで魔道を行使できる人間など有り得ない。
なら、残る可能性はザナッファー?いや、術は確かに効いていた。
竜?しかしこれにしても、変身魔法が使えるクラスとなると魔族に匹敵してしまう…」
男――ゼルガディスはそこで口を噤み、目の前の男女の返答を待った。
「今の台詞の中に神様が出なかったのはいったいどういうわけなのかな……?」
横島は傍らのおキヌに相談してみる。
「…さぁ……でも、呪文なしの魔道がないって話を美神さんに教えれば何か…」
「この地域は神の加護から隔離されている。魔王の腹心の結界のためにな。
それを知らないなんてますます有り得ん話だ。まるで、外の世界から来たみたいな…」
ゼルガディスが痺れを切らして教える。それに対してこれ以上なく疑わしげな横島。
「魔王の腹心?そんな奴がひょいひょい地上に出てきて結界張るか、フツー?」
「……地上?物質世界面の事を指して…るにしては、不自然な呼称だな…
大体、ヤツらなら精神世界面(アストラル・サイド)から結界張るかも知れんし……」
「………………………………」
「………………………………」
ゼルガディスの言葉に、二人は呆気に取られて顔を見合わせるのみ。
「………どうした?」
「……訊きたいんですけど…冥界…とかは………解りませんか…やっぱり……」
おそるおそる言うおキヌは、ゼルガディスの表情を伺いながら喋った事を後悔した。
怪訝な顔をする彼をみるたびに、段々語調が弱くなって途切れる。
「ンなわきゃねーだろう!?人間界の他に魔界と神界があるのが地球なんだろ?」
「ちきゅー?お前ら気は確かか?」
殆ど悲鳴のような横島の言葉を、またも眉をひそめて問い返すゼルガディス。
「どうします?時間移動したんだから話がかみ合わないだろうとは思ってたけど…」
「あ…あぁ……どうしよう…根本からずれてる…」
「…なぁ、つまりこう言いたいのか?『自分達は別の時代から来た』世界に対する
理解の違いや術の体系が異なるのは過去と未来を繋ぐどこかで文化が断絶してるから。
確かにそれなら辻褄が合わんことも無いだろうが…そんな突飛な話、信じられるものか」
『おぉぉおおぉおおおぉ!?』
ゼルガディスの説を聞いて二人が叫んだ。
「な…なんだ?」
「そうだったんですね!凄い!盲点でしたよ」
「けっ、ちょっとぐらい頭良いからって偉くなんかねーぞ!」
「………お前ら、ちょっとは真面目に頭使えよ…」
ゼルガディスが本気で呆れた声をだした時、部屋の隅の陰で異変が起こる。
「やぁ、またボクと遊んでよ」
そう。例の、横島を追いまわす女魔族である。視界が暗転する横島。
「ど……どぼじでごんなどごろに?」
「チッ!行儀が悪いぜ、魔族って連中は」
「くすくす♪ボクが遊びたいのはそこの縛られてる子だけだから気にしなくていいよ」
ゼルガディスが毒づくと、魔族はちらりとも見ずに言う。
――そうはいかんな。
ゼルガディスの声で、そう言われた気がした。実際には、そんなことは有り得なかったが。
「崩霊裂<ラ・ティルト>!」
コウッ
ゼルガディスが魔族に向かって術を解き放つ。魔族は、先程の余裕がうそのように苦悶する。
「うくぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それを目の当たりにして、おキヌがポツリと呟く。
「なんだろう…少し、可哀想……」
「………あぁ、そうだな……」
横島がかなり躊躇いつつも頷くと、それに異変が起こる。
グゥオン
魔族を包んでいた蒼い火柱はゆっくりと消え去り、彼女が呼び出した光球が蒼く燃える。
「何!?」
ゼルガディスに向けて、無数の光球から青い火線が乱れ飛ぶ。四方からの攻撃を避けるゼル。
「合成獣(キメラ)のお兄さん、ボクは自分からは危害を加えないけど…
ボクとしては君が君の術で死んでも一向に構いやしないよ?」
謡うようにリズミカルに、言葉を紡ぐ魔族。
「なるほどな……ならば俺を軽視し、殺さないでおいたことを後悔してもらう。
流石に、直接叩けば跳ね返しようもあるまい」
「お兄さん、ひょっとしてボクのことよく解ってないの?どうやって直接叩くのさ?」
ゼルガディスはあえて答えなかった。相手は魔族――精神生命体
黒魔術と一部の精霊魔術、あるいは魔力剣による攻撃以外まったく通じない。
まして、普段使ってる剣すら失ってる状態ではどうにもならない。いや――
「そこのヤツがヒントをくれたぜ………氷霧針<ダスト・チップ>」
左手を右手にかざし、術を解き放つと、殺傷力に至らぬ微小な氷の粒が右手をおおう。
「魔皇霊斬<アストラル・ヴァイン>!」
続けて唱えたゼルガディスの術で、氷に強い赤味が乗る。その姿はまるで深紅の霊波刀。
「まさか!?」
魔族が驚愕し、ゼルガディスの腕が振り下ろされる寸前で精神世界面へと逃げ込む。
「……この程度であっさり逃げを打つとはな………」
「前にも思ったんだが…霜焼けできんじゃねぇのか、それ?」
「生憎、普通の人より鈍感にできてるんでね。それよりも、解ったことが二つあるな」
横島の言葉を適当にあしらいながら、ゼルガディスが告げる。
「解ったこと、ですか?」
「お前らの話を聞いてもらちがあかんという事が、な。
お前らの連れ…残る三人のうちの誰かを見つけて訊きだしたほうが早そうだ」
「………もう一つは?」
「お前らは魔族と何らかの関りがある。それが敵対にせよなんにせよ、悠長にはできん」
彼のこの結論も、魔族あるいは二人の奸計によるものという可能性があることを
彼は見落としたりはしない。だが、こと相手が魔族となると、動かなければ始まらない。
彼の経験に基づく結論は結局のところあてにはならないが、他の何よりも信頼できた。

それから、シロがさくっと横島達を見つけ、双方人質ありということで話し合いになった。

「そういやあの時の時間移動…今までのとは毛色が違ってた気もするんですよね………」
「確かにね。異常にパワーがあった気もする。とはいえ、時間移動で変なところに飛び出す
可能性ぐらい他にもあるわ。『ここは途方も無い未来』『実は前人未到の星』とかね」
珍しく神妙な顔つきで横島が呟くのを、美神が受け答えた。更に今度はリナが口を挿む。
「そういうもんでもないんじゃない?人間だけならともかく魔族の在り方まで違うんじゃ
これはもう別次元よ。少なくとも、あたしが聞いた話じゃ異世界の魔族もここと同類よ」
「今までの話が騙りじゃないと仮定すれば、そうだろうな」
「貴様ッ!いうにことかいてなんちゅー事を!!」
ゼルガディスが注釈を加えると、シロがくってかかる。ゼルは醒めた目つきで睨み返し…
「状況見て凄めよ。俺には、リナを助ける義理はあるが責任や必要は無い。
この二人を盾にして、お前に攻撃呪文をくれてやってもいいんだからな」
「人の負の感情を糧とし、物理とは異なるカタチを実体とする魔族……世界を滅する存在」
美神は声に出して確かめる。ここには、自分達の理解を超えた異様な存在がいるという話。
「奴ら、人間が生きていたいと望むのと同じで意思の根底から滅びを望んでんのよ。
それもただの滅びじゃない。世界そのものごと混沌の海に帰依することを」
「そこは単にそれが当り前で存在してるだけだから、価値観の違いと大差ない」
リナが解説入れるとまたもゼルガディスがフォローする。
「いや、そういう納得の仕方をすれば世の中の主義主張は全部そうなっちゃうんじゃ……」
「納得じゃなくて理解ね。理解した上で納得いかないから、とことん刃向かうって事よ。
そういった意味じゃ、時を越えてやってきた人達よかよっぽど解り易いんですけど?」
ブチブチと納得いかないでいる横島に、リナが皮肉雑じりに答えた。
「結局、時間移動の証拠もなけりゃ論破できる穴も無いんでしょ?どうすんのよ?」
「どうもしなけりゃいい。このまま人質を確保しながら魔族の出方を待ち、共闘する」
一方、ゼルガディスのほうも美神の核心突く一言に事も無げに答える。
「無理じゃないの?相手はこっちより二枚も三枚も上手。しかも神出鬼没」
人質があって、尚且つ見張りまで人員を割けば結局戦力は半減である。
「では聞くが、お前らは俺達を信用できるのか?」
「寝ぼけんじゃないわよ」
即答する美神。人質取られて気が立ってる様子だ。お互い様だろうに気の短いことである。
「そういうことだ。それとも、他に何かうまい手があるのか?」
つまり、言外にこう言っているのだ。「主導権を譲る気は無い」と。
「…………ふぅ…解ったわ。この娘は解放する。
客観的に見て私達の方がイレギュラーである以上、あんた達に従う方が面倒が無いしね」
「美神殿!?」
美神が「お手上げ」の仕種をするのに、シロが誰何の声を上げる。
「よし。後はあんたらの連れの最後の一人を捜すだけか」
「どうでもいいけどゼル、あんた結構メチャな取引すんのねぇ」
ゼルガディスが席を立つとき、リナが声をかける。彼女が冷や冷やする場面が結構あった。
「事情説明を聞く限りでは道理を理解してそうな相手だったからな。思い切りもいい」
「聞く限り『では』・理解して『そう』………?」
返答に多少、目の前をくらくらさせるものがあった。あやふやな算段でよくやるものである。
「しくじっても死ぬのはリナで、俺じゃないからな」
「そっちが本音かぁぁぁぁぁぁ!?」
あっさりすっぱりきっぱり言い切るゼルガディスに絶叫するリナ。
「冗談だ。仇ぐらいとってやるさ」
ゼルガディスが嘆息しつつ告げる。
「いや、えと…あの………それって何の解決にもなんないんだけど……死ぬし…」
「心配せんでも大丈夫だ。あっちも俺ほど薄情ではない事ぐらい、見れば判る」
言いつつ、ここへ来て初めてゼルガディスが穏やかに笑った。
「あのねぇ……………」
心底疲れた声を出すリナ。それはともかく、とりあえず休戦協定が結ばれた。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa