ザ・グレート・展開予測ショー

やわらかい痛み。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(01/11/21)

思い出したくない出来事が在る。
―それは、忘れる事はありえない出来事。
 
―泣きたく成る程幸せで、息が出来ないくらい苦しい記憶。

ぼんやりと横島は、ビルの屋上で朝日が昇るのを見ていた。
夜半に始めた除霊に手間取っていつの間にか朝になっていたのだ。
肩で呼吸をしながら横島は、ただぼんやりと朝日を見ていた。
「…朝日も…存外いいもんだぜ…」
意識しないままに、その表情のようにぼんやりと言葉。
それは誰に向けられた言葉だろうか?
東の空から昇る太陽は美しくそして、強い光を放ち空を濃紺から白へと染め上げられていた。
その光景は夕日と似ているのに、なのに、
まったく違う印象を与える。
「まるでオマエみたいでなあ」
くっと口を笑みの形に変える。
表情はひどく皮肉気なのに、その言葉は優しい。

―誰か言っていた。
 儚いと。
 彼女は夕焼けのように儚くて、そして美しい存在だったと。

そうだろうか?
と思う。
横島はどかっとその場に座りながらそう思う。
だって…いるんだ。

全部こころに。
想い出の中の彼女は。笑って怒って泣いて―
そんなのは、儚いなんていえない。
むしろ、強い。
しぶとくて、苦しいまでに強い。

こんなに、自分の中に強く残っている。
もう、忘れる事のないくらいに。
忘れられないくらいに。

そう、まるで全てを蒼くそめあげる朝日のように。

ずきり
と痛みが胸に走る。
これは、いえることのない痛み。
そして、彼女がいたことの証。
消えることのない証。
もう自分には彼女の存在を示すものはない。
あるのは記憶そして、この痛み
なにより、ここにある自分の存在。
記憶、そしてここにある体だけが彼女の存在を知らせてくれる。

そっと横島は心臓を抑えた。
まるで大切なものに触れるように。
この柔らかな痛みを。
そして朝日を見ながら
―涙を流した。

―夕日を何百回も見たいのと彼女はいっていた。
(夕日だけじゃなくてな…)
「もっといろんな風景を、時間をオマエと見たかったよ俺は」

何時までも。

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