ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(謀略)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/11/19)




 ー終曲ー



『お初にお目にかかる、かな』

 髪と瞳の色が灰色へと変化した男の口から漏れ出たのは・・・そんな一言だった。
『この度は、こうして話が出来る場を用意して頂けた事、心より感謝するよ』
 言葉は更に続く。
 その口調や、言葉の内容は丁寧なものだが・・・相対する神父は、その裏に潜む醜悪なまでの悪意を敏感に感じ取っていた。
 それはこの場にいる他の二人も同様らしく、ジークは素早く、ヒャクメを背後に庇う様な位置に移動し、そのヒャクメは灰色の髪をした男に今・・・一体何が起こっているのか把握しようと、険しい眼で見据え続けている。
 疾る緊張。その中で男は、それでも声の調子に何の変化も見せず、言葉をただ紡ぐ。
『どうやら・・・あまり歓迎されてはいない様だがね。妙な真似は謹んでもらいたい。実はこうして、この『ロウ』の身体を借りていられるのも、後ほんの僅かな間だけなのでね・・・』
 警戒は怠らずに、神父が言う。
「こちらの問いには答えられるのかな?」
『いいとも』
 即座に返る了承の言葉。
 神父は一つ咳払いし、考えこむ様な仕草を見せた。
(一体何が目的だ?)
 考える。
 ひとまずは、無難な問いかけをしてみる事にした。
「お前は、何者だ?」
 おどけるようにして、答えが返される。
『中世よりの使者?いやいや・・・ただの学問の道を極めんとする求道者?先人は殉教者とも考えていたらしいがね・・・』
「ふざけるなっっ!!!」
 その言葉、態度はジークの勘気を呼び込んだ。今にも噛みつきそうな程に激昂した彼を、神父がそっと制する。
「ジーク君・・・すまないが、今は・・・」
 後ろでは、ヒャクメも首を横に振っていた。
 己を見失いかけた事に気付き、ジークが退がる。
「さて・・・」
 再度、考える。
 中世からやってきた、使者。
 その言葉がどこまで本当かは、この段階ではまだ解らないとはいえ、時間移動を可能としていた親子もいる。あながち全てが嘘とは言い切れないだろう。
 そして、この男が出没する前に起きた、GS試験での騒動。
 中世時代に失われたという呪い。弟子に押収されてしまった、マジックアイテムの数々。
 その騒動の背後に見え隠れする、黒衣を纏いし仮面の男。
 ヨーロッパのGメン達の中で、唯一帰還するのに成功した男の証言で、その仮面の男が今回の事件にも深く関わっているという事は、美智恵君から聞き及んでいる。
 今こうして話している者が、その仮面の男なのかは解らないが・・・何らかの接点はあると見て間違い無い。
 しかし。
(情報が少なすぎる・・・全ての目的については以前として謎のまま・・・この男の身体を借りているというのは事実だろうが、何故そんな事をするのか、その目的すらもこちらには・・・)
『質問は、終わりですかな?』
 答えの出ないまま、長考しかけていた神父が、その声により現実に引き戻される。
『貴方達ならいずれこちらに来られるだろうと思い、先にこうして挨拶をと思いましたが・・・残念、タイム・リミットです』
「な!」
『ではお待ちしてますよ・・・』
『ま、待て!』
 三人の声が重なり、意識が全て目前の男に集中する。
 その瞬間。
「そこまでよ!」
 突如、その声と同時に扉を蹴破り、二人の男が中に飛びこんできた。神父達三人の周囲で、銀光が虚空に幾つかの軌跡の描き、虫のような何かが床に落ちる。
『何っ!』
 瞳だけ開き、横たわったままの灰色の髪の男が、初めて驚愕の声を発した。
『き、貴様!?』
 それまでと違い、憎悪に燃える眼で、男は扉の破片を越えて近づいてくる一人の女性を睨みつけた。
「手口が古いわ、というより呆れるくらい真似事ね・・・」
 そういって、女性は足元に転がる『虫』を見る。
「これまでの事件もそう・・・GS試験に月の魔力・・・そこまで先人の真似ばかりをしていれば、誰でも気が付くわ」
 側までやって来たその女性に、神父が慌てて声をかける。
「み、美智恵君!一体!?」
 その問いに対し、美智恵は・・・
「危なかったですね、会長」
 はぐらかす様にそう答え、憎らしそうに見つめてくる男と、視線を絡める。
「帰りなさい・・・話で気をそらし、小さな虫を使って妖毒を注入する。私でもひっかかった有効な手口だけれど、その本人がいる場所で同じ手口だなんて・・・」
『ぐ・・・!』
「程度も、知れたものね」
 すっかりと立場は逆転していた。男は顔を紅潮させ、叫ぶ。
『覚えていろ・・・この屈辱は決して忘れん!先人と違い、親しき者を人質に取らねぱならぬ程、こちらは本来窮してはいないのだ!』
 言葉とは裏腹に、段々と瞼が閉じられてゆく。
『もう一度言う・・・覚えていろ!』
 その声を最後に、男の瞼は完全に閉じられた。
「ふぅ・・・」
 どうやら『男』が去った事を確認し、美智恵が安堵のため息を洩らす。
「雪之丞君達も、ご苦労様」
 刀を鞘におさめ、雪之丞はぶぜんとした表情をし、黙って背を向けた。
 侍の如き容貌の男(の霊)は、背筋を伸ばし礼をする。
 それを見、微笑んでから・・・美智恵は言った。

「とても・・・長い一日だったわね」

 その一言と共に、『その日』は終わりを告げたーーー


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