ザ・グレート・展開予測ショー

誘蛾弾<モス・ヴァリム>=流転=


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/11/18)

――なるほど。確かにサバイバビリティは並々ならないらしい。攻め辛い。――。
それが、横島と切り結ぶリナ=インバースの抱いた感想だった。突き崩すのは容易ではない。
剣で打ち破るには、この少年の反応の限界以上の速度か、この輝く掌と同等の威力が要る。
もっとも、攻撃はてんでザル。今もリナは普通に攻撃をかわしていた。
いうまでもなく、彼女にできる身のこなしぐらいゼルガディスにもできたことだろう。
横島の場合、本人に生命危機を齎す自体に対してのみ、その能力が最大限に発揮される。
それに防御は、攻撃と違ってしなやかさが攻撃を受け流すことに繋がる。
正面から競れば向こうに分があるなら、その威力を違う方向に向けてやる。
「そんでもって攻撃は呪文!……氷窟蔦<ヴァン・レイル>!」
狭い裏路地の路面と壁とを、氷が毛細血管のように広がってゆく。触れば凍って捕獲される。
「うどわぁぁぁぁっ!?」
よくもまぁ、こっちきてっから驚きっぱなしの貧乏くじ引きっ放しにもかかわらず、
横島には未だ悲鳴が残ってるらしい。常人の人生でおよそ叫べる限界の二倍は悲鳴上げつつ
『栄光の手』で氷の蔦を薙ぎ切る。普通の剣で斬りつけても凍結に巻き込まれるだけだが、
『栄光の手』の正体は高出力の霊波の塊。面白いくらいズパズパ斬れる。
「轟風弾<ウィンド・ブリッド>!」
リナの次なる呪文によって、無数に生まれた空気の飛礫が横島めがけて放たれる。
ドドドガドドガガガガッ
「ぐぁっ……!」
姿無き凶弾に対処しようもなく、横島は全弾無防備で受けて吹き飛ぶ。
この間に、すかさず次の術を詠唱するリナ。街中だから「火」以外の精霊魔術主体で攻める。
「地雷破<ダグ・ウェイブ>!」
ドガァァァァン
流石に今度は路上を転がって避ける横島。更に、彼は霊波を集束させる。
「クソッ!サイキックソーサー!!」
シャオッ
板状の霊気が飛び、リナに迫る。無論こんな正体不明の攻撃を受けてやる義理はリナにない。
横っ飛びに避けてまたまた呪文詠唱を始める。背後でサイキックソーサーが爆裂する。
横島が起き上がるが、リナの呪文は終わっていない。横島は更に間合いを詰める。
同時にリナも駆け出し、横島の『栄光の手』の間合いよりも更に懐までもぐりこむ。
その時ようやく術が完成し――
「雷撃<モノヴォルト>!」
触れた相手に電撃を流す術が決まる。横島は遠隔攻撃の術を警戒してたため虚を突かれた。
「うぁだ!」
横島の意識が一瞬で飛ぶ。だが、いい。既にやるだけのことはやった。
「小僧……中々機転の利く奴だ…仲間の縛めを解くのが狙いだったか…」
ゼルガディスが無感情に要ったそのとうり、サイキックソーサーはシロの影を消す。
霊体を傷つけられてぐったりしてるおキヌに走り寄ろうとするシロにゼルが立ちはだかる。
もっとも得物がナイフではシロの敏捷さに追いつけない。呪文の詠唱も済まずに斬られる。
シロがおキヌを抱き抱え、片手が塞がったままリナに斬りかからんとする。
「止まんなさい!あんたの仲間がどうなってもいーの?」
リナ自身、陳腐な脅しだと思った。人質をとるには近すぎる距離だ。だが、一瞬時間が稼げる。
その一瞬で、斬られるままに地面に倒れ伏したゼルガディスがおキヌの足を掴み、叫ぶ。
「凍界結<ラーフリーズ>!」
掴んだ手を中心に、氷の塊が生まれ、ガッチリと繋ぎとめる。
シロは、おキヌから手を離して跳躍し、付近の建物の上に乗る。
「逃げた!?」
「追え、リナ!今の奴は追跡者に対して罠を張ってるとは思えん!!」
「りょーかいっ!……翔封界!!」
リナの身体が風にまかれて宙に舞った。
しかし、情に厚いシロは仲間を見捨てて逃げたわけではなかった。
「……追って来い…貴様をふんじばって先生達を奪い返させてもらうでござる…」
まぁ、罠なんて発想は確かになかったが。

ざぷ
波紋が沸き立つ。中天の陽光降り注ぐかなり大きめの浴室。佇んでるのは十四、五才の少女。
「いや〜、規則正しい生活も大切だけど…昼間の行水もなかなかどうして、乙なものねぇ」
しみじみと語って湯船の中で四肢をのばす。信じられぬことに、ここは彼女の自宅である。
自宅のバスルームに体をのばしきって入れるほど小柄な十五歳がいるものかと思うだろう。
王宮のバスルームなど成人男性の丈よか広いから心配無用である。…いや、自宅なんだって。
王宮が自宅。ようは彼女、王家の人間なのである。
もっとも、流石にここまで若いと威厳も減った暮れもない。
「あれ…何か……いる?」
彼女は、音も姿も現さない何者かの存在に気づく。気配、というのとも違う。
理屈を超えた知覚。ただ、根拠はないが信じられる感覚である。
結論から言えば、それはタマモだった。右手に深手を受けて、闇雲に逃げ回るうちに
その本来の本能で強権をもつ者を無意識に求め、王宮を訪れたのであろう。
「なんだか尻尾が割れてるみたいだけど…キツネ…?…なんで王宮にキツネが?」
訝しがる少女だが、タマモの前足の負傷を見、疑問を頭の隅に押しやる。
ザバァァァァッ
キツネの習性は知らないが、猫は見下ろされると警戒すると聞いたことがある。
少女は視線を明後日の方に逸らしてそろりそろりと近づく。
「こっちおいで……ほーらほらほら…よし、と……治癒<リカバリィ>」
少女の手から淡い光が生まれ、タマモの傷が癒えてゆく。
「よーし、そんじゃついでだからひとっ風呂ごちそうしてあげるわ」
言って少女はタマモを抱き抱えて風呂場に戻る。
タマモには抗う術など幾らでもあったが、その後のフォローができないので諦めた。

そしてその頃我らが美神令子は――
「ふふん、灯台下暗しね。警備の人間が街中動き回ってるなら、詰め所は人が少なくなる。
全くいなくなることはそりゃないでしょうけど、人一人忍び込むぐらい楽勝よ!」
後はここの人員が適度に戻ってきたところで離脱すべし。
しかもなんとも運命的なことに、兵士詰め所は王宮内にあるのだ。(ありがちなことだが)
そんな美神にどこからか敵意を向けられてる、非常に忌わしい相手の気配で。
「……なんでいるのかしらね…けどまぁ、ここでやりあうのだけは勘弁して欲しいわ」
「ふふ……弱気なことを言うじゃないか…らしくないよ?派手にやろうじゃないか」
ドゴガガガガガガン
姿無き声に応えるように、美神が潜んでいる区画に金貨だのルビーだのが撃ち込まれる。
壁は瞬く間に削れて消え去り、その豪快な光景と騒音は神殿にも届くほどである。
(コイツ…接近戦の方が強いクセして……何故こんな真似を…?)
そう、確かにこの攻撃は美神にとって後々面倒な事態を招く。ただし生き残れば。
魔族と戦うことに比べれば、銃も持たない人間の兵隊のニ、三百など取るに足らない。
どころか、魔族との戦いさえも混乱に乗じて逃げるという手段が使えて有利ですらある。
が、予想に反して本宮からやってきたのは一人の戦士だった。タマモを助けた金髪である。
「随分派手にやったもんだなぁ……あんた、魔道士か?」
「私がやったんじゃあないわ」
金髪戦士ガウリイの言葉に抗する美神。
「…だとすると、街での騒ぎにも関係なかったり?」
「勿論」
今度の問いにも即答する。彼はウンウン頷いてからピッと人差し指を立てる。
「勿論『関係アリ』……だろ。厄介事に好かれそうな雰囲気があるぜ」
「う゛」
そういう無根拠に確信突かれるパターンは読んでなかっただけに、思わずうめく。
「…とくりゃあ、あんたがやったんじゃないこの有様も詳しく訊かにゃならんわな」
ガウリイは言うと、特に何するでもなくそのまま突っ立っていた。因みに美神も動かない。
相手の出方を待つのは性に合わないが、迂闊に間合いを詰めていいレベルではない。
「…………しゃーないわね…」
言って美神は神通棍を、今度は最初から変形Verで構える。
「光る鞭……へんちくりんな武器だな…その上、厄介そうな代物だ………」
呟いてガウリイもロングソードを引き抜く。
沈黙があたりを支配………などという状態を待てないのが美神である。
「ふっ!」
ビャウッ
一呼気とともに神通棍を振るう。そしてその流れるような光をガウリイは大きくかわす。
バヒュッ
更に一閃。ガウリイも再度大きく横に跳んで難を逃れる。剣で鞭とやりあうのは厄介なのだ。
剣と違って軌道が変幻自在の鞭は、スピードで剣に劣るものの紙一重では避けられない。
鞭の到達点は先読み不可能ゆえ、結果として鞭の方が速く感じるわけである。
すなわち、相手が剣士一人なら美神には剣の間合いに入れずに勝つことができるのだ。
ギャウッ
光の帯が猛威を振るう。またまたガウリイは思い切り跳んで避けるしかない。
ブァオッ
空を裂く音と光。とうとう苦しくなってきたのか、ガウリイは鞭の間合いの外に跳ぶ。
してやったりとばかりに、退却しようとする美神。流石にそれには焦り追いすがるガウリイ。
すかさず振り向きざまに攻撃する美神。撤退はブラフだったようだ。
「おおおっ!」
ガキッ
ガウリイが吠え、彼の剣が棍の先端を真正面から突き返す!並みの腕で出来る真似ではない。
光がたわみ、美神は一旦引き戻す動作を余儀なくされる。その隙にガウリイが間を詰める。
「……こンのっ…!」
美神は強引に棍のにぎりを回してガウリイを戻る最中の棍で薙ごうとする。
バッ
前方に跳躍するガウリイ。美神が操る光の帯もそれを追撃した。
「はっ!」
ギゥン、ギャッギャギャギャッ
裂帛の気合と共に、ガウリイは光の帯を剣で打ち据え、
直後にそこより更に先端側の光に剣を押し当て滑らせることによって完璧に防御する。
こんな動作を雷光の如き速度で行えてはじめて剣で鞭と対等に渡り合えるのである。
「とんでもないわね………」
「今跳び込み損ねるってぇのは、ちょいと分が悪いな……」
二人は再び膠着状態に陥った。この間合いなら、
棍がガウリイに到達する速度と彼が剣の間合いに飛び込む速度は恐らく互角。
ザウ……
風が舞い、ガウリイの身は宙に投げ出された。
彼自身が読んだとおり、突撃を防がれた時の疲労が大きく彼の集中力を奪っていたのだ。
「あー、しんどかった……」
とりあえず美神はその場から逃げ出した。まだその辺に奴がいるおそれがあったからだ。
こちらは逃げてどうなるものでもないのだが、ここで騒ぎを大きくすべきではない。

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