ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ復活の日々 最終章 前本編


投稿者名:アルフレッド・トンプソン
投稿日時:(01/11/18)

新幹線を除く電車は構造上、見事な三拍子を刻む。

電車はワルツを奏でている。
「ねぇ」
「なぁ」
全く同じタイミングで二人は問い掛けた。
笑いが零れる。
「なぁ、覚えているか?一緒に戦った事」
「当然じゃない。生き返ってすぐでしょ?私、足手まといになるかと思っていたわよ」
「そんな事、ねぇってば」

電車はカーブしワルツが狂う。
「ねぇ」
「なぁ」
全く同じタイミングで二人は問い掛けた。
二人に笑みが零れる。
「ねぇ、東京タワーって外にでちゃいけないんだよね」
「そりゃそうだよ。ルシオラ。あぶねぇじゃんか」
「あはは、私は飛べるけど、人間は飛べないもんね」

電車内に駅を告げるアナウンスがワルツを狂わせる。
二人の顔に笑みが零れる。
「なぁ」
「ねぇ」
全く同じタイミングで二人は問い掛けた。
「なぁ、ホントいい天気だよなぁ、絶好の行楽日和だよな!」
「そうね。ほんと、抜けるような空。今日だったら、飛行機手でつかめるんじゃない?」
「へへ。でも飛行機に乗ってる人が困るって」

電車はワルツを止めて急停止をする。
「なぁ」
「ねぇ」
全く同じタイミングで二人は問い掛けた。
二人の顔に笑みが沢山零れる。
「なぁ、そういやさ、シロとパピリオって、案外いい友達になれそうじゃん?」
「そうかも。だって二人ともまだまだ子供じゃない。きっと仲良く御散歩するわよ」
「そうだろうな。夕日に照らされてさ」

電車は何事も無かったかのように発車して再度ワルツを流す。
「なぁ」
「ねぇ」
全く同じタイミングで二人は問い掛けた。
二人の顔に笑みが沢山止めど無く零れる。
「ねぇ、あの公園、なんて名前だっけ。私すごーく気に入っちゃった」
「ありがとよ。そう言ってくれると俺も嬉しいよ」
「だからね。今日は御礼に私が好きなトコに案内するわ」

電車は一心不乱にワルツを刻む。
「ふわっ」
ルシオラの瞳に涙が出る。
「ど、どうしたんだよ?」
「なによぉ、慌てちゃって。眠くなっただけ」
壊れ物を扱うようにしているのが、可笑しくなってしまう。
「なんだ。慌てちゃったよ」
「ねぇ一眠りしていい?私・・」
「あぁ」
肩に顔を乗せて、もう一度欠伸。そして目を瞑る。
「・・ねちゃったかな?」
試しにちょっと、肩を揺さぶるが起きる気配はない。
この電車には二人だけ。駅もまだ先。
首を横にして、唇を眺めて、それから。
「キスって、甘くはないよな」
とやや失礼な感想。
だが、
「・・馬鹿・・」
起きていたようである。
電車は止めど無くワルツを詠っている。
ワルツとは優雅にして繊細。そして何処か哀愁が漂う。まるで今の二人のように。


風は昨日に増して更に強い。
二人は田舎特有の駅の出口にたっている。
「危なかったわ。起きたらもう目的地だったじゃない」
「ゴメン。おれもつい寝ちゃってさ」
デジタルの腕時計だと、洒落た物には目覚まし機能がついていようが、
二人とも時計を持っていない。
「でも!問題無くこうやって目的地に着いたんだもん。いいわ。許してあげる」
「ん。すまねぇなぁ」
「キスが甘くないなんて、いったのも含めてね」
なんともはや。
「えっとぉ。先ずは買物をしないとね。御飯食べるでしょ?」
「あたりまえじゃん」
駅前にあるのは、みやげ物も扱うコンビニだ。
「これ気彫りの人形だって、可愛いじゃん」
「そうねー。どうだろ、一つ買おうかな」
「あぁ。そうしろよ、コレぐらいなら大丈夫さ」
「うん!でも食料の方が大事よ。えっと、この御弁当がいい?ヨコシマ」
「おう、あとコーヒーでも買ってさ」
「えぇ。いいわよ。でも私は・・」
販売飲料水を手にとって、
「こっちの方が、好きなのよ。私にはとっても甘く感じるの」
「そっか。歌にもあるぜ『蛍来い、あっちの水は苦いぞ。こっちの水は甘いぞ』ってな」
「あー、ひどーい」
軽く叩いた積もりでも、ルシオラの力は怪力の男にも勝る。
「だ、大丈夫?ヨコシマ」
「て、手加減してくれよぉ」
「ゴメン・・痛かった?」
特に額を強く打ったのか、ジンジンと痛みがする。
「はい。痛いのが飛んでいくおまじない」
ルージュをしていないルシオラだからこそ、出来るおまじないだった。
「!おい、人が見てるって」
「あら、そんなこといいながら、目が」
目じりが下がってるのは誰が見ても、である。
買物が終わる。
「えっとさぁ。これから何処へ行くんだ?」
「あら、いったじゃない。アジトだって」
「タクシーでも使うのか?」
「そうねぇ。でも多分」
と、ジャリの駐車場へと向う。その一つに、奇妙な光景がある。
およそ青空駐車場に似付かない、古いボディーをした高級車。
二人が近付くと、ライトが光る。
「あの車って・・まさか!」
「そう。おーよしよし、ご主人様の御帰りを待ってたのね」
不可思議な燃料を使う車は、冬眠をしていたのだ、と車に乗る時に説明を受けた。
車上の人なった二人は一路アジトに向かう事になる。
駅に後発の電車が止まる。又一人誰かが降りてきた。
「ふん。ワシも酔狂な、態々小僧が落した文珠を届けるために、僻地まで来るとは」
カオスである。
「しかしな、何処へ行けば小僧にあえるかのぉ」
階段を降りて、タクシー乗り場へと向うと、
「おい、爺さん乗なよ」
普通自動車から顔を出しているのは、べスパである。
「・・御主、どうして?」
「ルシオラに頼まれてさ、昔のアジトをちょいと掃除してきたのさ」
「いや、そんな事じゃないわい。御主免許証は?」
「携帯してるよ」
本物かどうかは問題ではない。カオスも車上の人となった。
「聞かせてくれ。どしてここへ?」
「小僧に返さねばならん物があってな」
「いや、違うどうして、ルシを復活させたんだ?」
「小僧が望んだからじゃ、というのもあるがな。これは・・ワシの独り善がりかもしらんが・・」
べスパはともかく、ルシオラとパピリオの延命処置は自分がやった。だからこそ、長く生きて欲しいし、
「・・・、もっと突き詰めれば、ワシは何かに挑戦したかったのかもしらんな」
「成程。だが、完全な成功ではないようだな」
「あぁ、八方、手を尽くしたがな、言わずともじゃが、クローン技術の限界なんじゃ」
クローンをある固体X(A歳)から取り出したとしよう。
当然、X’は赤ん坊の状態なのだが、母体Xと同じ年齢でしかないのだ。
つまり産まれながらにしてXのクローンX’はA歳なのだ。
「元々、おぬし等は一年しか生命をな。それを反則でワシが処置した」
「じゃあ、今度も同じ処置をすればよかったではないか」
「無理じゃ。体が持たん・・」
「・・・。それでもルシはそれを受け入れてきた。それは爺さんの尽力だ。だがな、」
「だが?」
「礼は言わん」
「言われる事でも無い」

夜になった。

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