ザ・グレート・展開予測ショー

FORCES(13)―濃霧―


投稿者名:二エー
投稿日時:(01/11/18)

瞼が重い。
・・・朝か。昨日もごたごたしてて・・あまり・・眠れなかった・・それに、何だったんだあの悪魔見てえなのは?人を名指しで・・・夢にしちゃあリアル過ぎだしな。

そういえば、あの虻の化け物が言っていた・・・「あの方達」と。あいつらがひょっとしてあの虻野郎に「力」を・・・そして次は俺に・・・飛躍し過ぎか。

枕もとの時計を見る。
「ああああああああああああああああっ!!」

ヤバイ、完全に遅刻だ。
俺は昨日手に入れた服にあたふたと着替える。クソッこんな大事な日に・・・
最後にトレードマークのバンダナを締め、荷物を引っつかんで駆け出す。

事務所でせっかんだな、これは・・・


事務所の前では美神さん、おキヌちゃんが待っていた・・・遠目にも解るほど不機嫌な顔で。

「す、す、すんませんッ」
平謝りする俺を一瞥した美神さんは・・・
「・・・じゃ、行くわよ。」

え・・・それだけ?折かん無し?おキヌちゃんも無言だ。

「あ、は、はいっ!あ、後ベヘリットも忘れてませんよね?」

「あんた、それだけはしっかり覚えてんのね・・もっと肝心なものがあるでしょうに。」
当然です。・・・今の俺にはあれだけが全てですから。

言われた美神さんはポケットをまさぐる。
「あら・・・忘れたみたい。おキヌちゃん悪いけど取ってきてもらえる?場所は解るはずね?」

「あ・・・は、はい!」

何だよ、自分だって肝心な物忘れてるくせに・・・・



ふうっ、流石に冷えるな・・・昨日の服にしといてよかった・・・・

俺は今、美神さん、おキヌちゃんといっしょに妙神山の小竜姫様の所に向かっている。伊達に霊山と言われてるわけではないのは四六時中濃い霧が視界を塞ぎ、1歩踏み外せば滑落という細い道がずっと続いていることからも窺える。

でも今の俺にとってそんな事より気になるのがこの二人・・美神さんとおキヌちゃんだ。
朝から二人ともえらく張り詰めた表情をしている。それに、あまり口を聞いてもらえない。
俺はこの緊迫感の所為で昨日の服の一件も切り出せずにいた・・
やっぱり朝の遅刻が効いてんのかな?

「い、いやーやっぱりここは何回来ても凄いところですねえ」
「そうね。」
「そうですね」

あ、あかん・・こりゃ。変な事口走ると崖に叩き落されそうだ。

そういやここに来るのも三度目か・・・俺は未だ見えない山頂を見上げる。

一度目はただ丁稚として。そしてきっかけを手に入れた。

二度目は力を求めて。そしてはっきりと目に見える「力」を手に入れた。これで何もかも守れると思っていた・・・・

そして今は「あいつ」を・・・守れなかったものを、もう一度。

・・・・らしくねえこと考えちまった。とにかくこの妙神山は行き詰まった俺の転換期になった場所だ。ここを訪れるたびに俺はいつも新しい何かを掴んできた。そう、小竜姫様ならきっとあの人間を「変える」目鼻口付きタマゴ―ベヘリットのことも知ってるに違いない。そう、使い方さえ解れば・・・

何となく予感がする・・・恐らく俺が化け物になる以外にルシオラを取り戻す手段は無いと言う事が。そして、世界を敵に回した挙句に惨めに・・「虫」のように殺されるだろうということも。それは昨日あの悪魔?に指摘されてからより確信できるようになった。確かにタダで失ったものを取り戻そうなんて虫が良過ぎるよな・・・それでも、それでも俺の心は沸き立っていた。

たった一目でもあいつに合えるかもしれない。もっと上手く行けばまた同じ時を歩む事も・・・夢じゃあない。ま、これは望み薄だが。ともかく、償うことは出来る。・・・それだけで充分だ。後は美神さん達に任せればいい。ルシオラのことも、その後の「俺」の処理も。


俺達三人は黙々と歩きつづけた・・・たしかもうじき霧が晴れて、広い道に出られるんだよな。

・・・ふと、後の事を頼んでおきたくなった。俺は隣を歩くおキヌちゃんに声を掛ける。
「なあ。おキヌちゃん。」

「な、何ですか?横島さん・・」
どうやら考え事でもしていたらしい。俺もだけどな。・・・いつからだろう。こうやってお互いの考えてることが全く解らなくなったのは?ここ二、三日・・・いや、もっとずっと前からだったかもしれない。

「少し、悪い予感がするんだ。もしものとき・・ルシオラのこと、頼んでいいかな・・・?あいつ、いきなり生き返って戸惑うだろうしさ。」

「そ、そんな・・・」

「大丈夫よ横島クン、その『もしも』は無いわ。『絶対』に。」
美神さん・・・?
俺達の前を歩いている為に表情を伺うことは出来ない。でも、それはひょっとして・・

「それは何か方法があるって事ですね!・・そっかあ・・俺はあいつに『人間』として会えるのか・・いやあ俺の予感なんて当てにならないモンですね。美神さんもそれならそうと早く言ってくれればいいのに。ほんとに性悪なんだから。」

・・・・前を歩く美神さんからはパンチはおろか、返事すら返って来ない。

何でだ?なんでこんなに不安になるんだ?美神さんが「大丈夫」って保証してくれたはずなのに悪い予感が拭えない・・・どころかどんどん大きくなる・・・

俺の不安と反比例するように周りの霧が薄くなり、道幅も広がっていく。・・・いつのまにか美神さんの姿が見えなくなっていた・・・先に行ったのかな?

「横島さん・・・引き返す気はありませんか?」
おキヌちゃん・・・ここの所変だぞ・・俺が、何の為にここに来てると思うんだい?

「俺はね、絶対に引かないよ、おキヌちゃん。あいつを、ルシオラを取り戻すまでは。」
つい口調がきつくなる。

「そう・・・ですよね」

やがて視界が開けて行く・・・霧を抜けたみたいだな・・・美神さん、待っててくれるといいんだが・・・!!!!!

な・・・何でこの人達が・・・

「来たわね・・横島クン。」

そこには、美智江さんとGメン数十人が待ち構えていた。
全員がアシュタロス戦の時のようにフル装備をしている。
美神さんは・・・?

「おキヌちゃん、下がってなさい。」
後ろ!?何時の間に・・・

「これは・・・これはどう言う事ですか、美神さん。」

頭の中ではもう結論が出ていた・・・美神さんの「大丈夫」の意味も・・・そして今までのハードスケジュールやここに誘い出された訳も。今朝のことさえ。・・・だが・・・認めたくなかった。
始めから・・・ずっと前からこうするつもりだったのかよ!

「どうもこうも無いわ・・・見たまんまの意味よ。」

俺は、全身の血が逆流するのを、はっきりと感じていた。

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