ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(灰瞳)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/11/15)




 ー終曲ー



「・・・どうです?」
 背後からかけられた声に、目前でただ眠り続けている『銀色』の髪と瞳をした男の精神を探る事に意識を集中していたヒャクメは、慌てて振り返った。
 そこに立っていたのはーーー・・・
「え〜と・・・お疲れ様なのね〜〜〜」
 そう。
 そこに立っていたのは、先程見た時と比べて、実年齢より一気に老けこんだ感のある、教会の神父様だった。
 いつもかけている眼鏡には、あちこちヒビ。髪の毛は乱れて、服装にいたっては、引っ張られたところ、破かれたところが目立ち、とにかく『お疲れ様』というべき有様だ。
「なんだか・・・看護室でそのまま、手当をうけるか休まれた方が良かったんじゃないですか?」
 ベッドに横たわる銀色の髪の男が目を覚ました時に、ヒャクメに危害が及ばぬよう待機している魔族の青年、ジークがそう言ってくる。
 神父は沈痛な面のまま、答えた。
「いや・・・気持ちは有り難いんだがね・・・実はやっとの事で美神君を宥めたところで、エミ君と、魔鈴君と腕を組んだ西条君が三人の見舞いにやってきてしまって、ね・・・」
 ーーー舞い降りる、沈黙。
「もはや・・・あそこは人の休めるべき場所ではないよ・・・あそこにいたオカルトGメンのみんなも、おキヌ君やシロ君、タマモ君も・・・即刻退避してしまったし、流石の美智恵君もお手上げといってどこかに行ってしまってね・・・」
 そこで言葉が終わる。
 空気がーーー重い。とてつもなく。
 苦しいまでの沈黙を強いられる二人。それは神父の屍の如き眼に射すくめられたからというだけではない。
 今、この瞬間に、この同じ建物の中で・・・憤怒、嘲笑、困惑、悲嘆、思慕。それら混沌とした思念が渦を巻く場所が在る。
 それは想像するだけでも、背筋を何かが疾り、肌が粟立つ程に戦慄すべき事実だ。
 とりあえず、ジークが無難なフォローを入れる。
「・・・ま、まぁ、逃げてこられただけでも良かったじゃないですか!看護室は絶対破壊間違い無しでも、幸いにして誰も被害者は出なかったんですし!」
 どんよりとした声で、返事がされる。
『ピート君がね・・・エミ君に捕まってしまったんだよ・・・私は・・・私に向かって必死に手を伸ばし、助けを乞う自分の弟子を私は・・・師としてあの異界から救い出す事を放棄してしまったんだ・・・』
 言葉が、途切れる。
 空気の重さ、百倍増し。
 もはや、ジークもそれ以上はフォローする事が出来ず、神父から放たれる圧倒的な自責の負のオーラに、次第にこの部屋は呑み込まれつつあった。
 完全に呑み込まれし時。
 それはーーー更なる異界の誕生だ。
 このまま、このオカルトGメン本部は、常人では瞬く間に異界から溢れ出る負のオーラに神経を蝕まれ、床に『の』の字を描き続けるだけの生ける屍を生産する地として、全世界に名を轟かせる事になってしまうのか?
 嫌だ。例えこことは直接関係無くとも、そんな屍工場なんて嫌すぎる。ある意味この日本の、いや世界の危機だ。
 何が悲しくて知人の人間関係から、そこまで追い詰められにゃならんのか、というかなんで自分はそんな連中と知り合いになってしまったのか、それらの現実を考えるだけで、疲弊しきって倒れてしまいそうになるのをひたすら堪えながら・・・ジークは第二の異界発生を防ぐべく、神父を元気づけようとーーー・・・
「これは・・・!?」
 ・・・したところで、その足を止められた。
「み、見てなのね〜!髪の色が・・・!」
 ヒャクメの狼狽した声に、神父の目にも光が戻った。
 顔を上げる。
「こ、これって・・・」
 三人の見守る中、銀の髪はどんどんその輝きを失っていく。
 やがて、まばゆく映った銀色の髪は、遂にその輝きを完全に失った。もはやその髪は銀色というより・・・
『灰色?』
 期せずして、同じ言葉が三人の口から漏れたーーーその時。



 ーーー銀色の、いや・・・灰色の眼が開かれたーーー




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