ザ・グレート・展開予測ショー

封翔界<レイ・ウィング>=えすけーぷ=


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/11/14)

「……え!?」
また何も言えなくなってしまう。言い返そうにも、周囲を見渡すとどこぞの山中らしい。
確かに自分の服装は登山にはおよそ向かない、場違いな格好ではあるし、
状況からいえば来訪者は自分である。
「で?あなた、いつからそこにいたわけ?」
どうも、少女の口調は質問というより詰問に近い気がする。
どれほど腕に自信があるのか知らないが、年功序列という言葉は彼女にはないらしい。
だが、この時代・この国をまるっきり理解してない状況は正直心許無い。
何とか波風立たずに済ますには、巧くこの問いかけをさばかなければならないが、
バカ正直に話したりすれば、嘘か病気に思われるだけだろう。つまりこの場合巧い嘘を…
「お嬢さん、私は時を越えて貴女に会いに来た王子。その名も横島忠お゛」
ドシャッ
健康すぎる連れの所為で、無駄に警戒させてしまったのは不幸な事だった。
「……あー、えー…ソレ…生きてる?」
指を差すのにも気乗りしない様子で、引き気味に尋ねる少女。
「ま、バカな男は沈黙させるに越したことはないでしょ?」
「質問の答えになってないけど、まぁそのとおりね。
でも「時を越えた王子」なんてのは役所に引き渡せば結構良い値になるわよ?」
未だ間合いは取りつつも、友達口調で少女が言うと、美神が眼の色輝かす。
「マジ!?」
流石にこの迫力には気圧される少女。美神自身、自分の形相が凄まじいのだなと思う。
「え?…ええ。ホントに過去や未来から来たんならともかくとして…王族詐称は極刑…
まさか実在の王子が「時を越えた」なんて戯言のたまうわきゃないし…
あの……知らなかったの…?まさか……」
その時、横島を売った金でこの時代に安住する算段が頭を過ぎる。
(えっと、最初にそのお金で働くツテを探して…ダメだわ!
物価を把握したうえで実際に報奨金を手にしなきゃ全部皮算用ね…)
「ねーちゃん、ねーちゃん、目がカネ色になっとるぞ」
「ハッ!?」
少女の冷めたツッコミに、どうにか正気を取り戻す美神。
「コレをシバキ倒したのは私なんだからね!?間違ってもアンタに取り分はないわよ!!?」
……取り戻してなかったらしい………
「どーでもいーけど…なんぼなんでも薄情すぎるぞ……連れに対して…」
少女が率直な意見を述べる。しかし美神は慌てず騒がず、
「犯罪者を連れや助手にしたおぼえなんかないわ」
それこそ薄情な台詞を言う。
「うあ、そ−ゆー論法か……あたしもよくやるけど………でも助手ってことは…」
「違うってば」
つけいる隙を与えない実神。
「冷たいッスよー!美神さーんッ!!」
ムクリと起き上がる横島。仰天する少女。
「復活早ッ!なんだか、人として超えてはいけない一線を超えちゃってない!?」
何もそこまで言うこともないと思うが、少女にはなにやらトラウマがあるらしい。
「いや、実はまだ死にそうでそれを癒すために乙女と熱い抱擁を……」
少女に再び飛び掛り、これまた再び美神に血だるまにされる横島。だが、更に
「炸弾陣<ディル・ブランド>」
ずばぼおおおぉぉぉん
「ギャーーーーーッ!?」
少女の意味不明な言葉に呼応して、横島の足元の土砂が飛礫となって噴き上げる。
「なんなの、イキナリこれは!?」
「なんなのって…炸弾陣はポピュラーじゃないにしても、特別珍しい術でもないような…
それとも、助手とか言うからてっきり魔道士だと思ってたけど違ってた?」
当惑する美神に、少女の方も困惑気味で答える。
「じゅ……術…」
少女の言葉を、声に出して反芻する美神。
理解してみればその程度、横島の文珠と大差あるまい。
魔道士という言い回しには違和感を感じたが、滞りなく理解できるというのも気味が悪い。
しかもどうやらこの術の系統は、
ポピュラーであったり珍しかったりするほど大衆に広まってることになる。
「なーんか……カッコといい、話してることといい、噛み合ってこないわね…」
これ以上ないくらい疑わしげな視線を投げかける少女。
「え!?そ、そうかしらねぇ…えっと……そうだわ!どうもおかしいと思ったら…」
「記憶喪失!……なんてのは、あたしでも思いつく誤魔化しよ」
美神の言葉を半ばで遮り、少女はズバリと言う。
「誤魔化すつもりはないわ。けど、あなたに理解してもらえない場合はあるでしょうね?」
怯まず美神は押し通す。
「……ふぅ…む…そこまで言うなら……それでいいけど。とりあえず報奨金……
じゃなくて、コイツ貰ってくわね。さっきの理論でいくと、倒したモン勝ちってことだし」
そう言って、少女は横島の足を掴んでひきずっていく。
「そうね。確かにそのルールを持ちかけたのはこっちだし、争いたくもないしね」
「うあわわわわ!?い…いやだぁぁぁぁぁ!!死にたくないよーーー!!!」
「はいはい。あんまし騒ぐと、致命的な術くれるわよ」
こうして、この奇蹟の邂逅は一人の尊い犠牲によって穏便に閉幕したのだった。一時的に。

「………と、いうわけで私達、若干人数が減ったけど四人でなんとかして…って、キャッ?」
美神の説明の末尾を待たずに、三人は三様の反応を示した。
「どおおおおおおおおおおおおしてそんな簡単に見殺しにするんですかぁぁぁぁぁ!?」
美神の両肩を引っつかんで、がっくんがっくん前後に振り回すおキヌ。
「先生がッ!先生がーッ!!」
力の限り取り乱すシロ。そして、タマモの様子も……
「……………くあ……」(……ねむ…)
たまらず、美神は強制ヘッドバンキング地獄から抜け出して声を荒らげる。
「もうッ!ちょっとは落ち着いてよッ!!横島君は役人に突き出されるまでは無事なのよ?
それまでにとりかえしゃいーんでしょうが」
「だからって……」
「そっちの議論は後回しの方がいいわよ?追跡するなら早い方がいいもの」
まだ物言いたげなおキヌに待ったをかけ、シロとタマモに視線を送る。
「そういうことなら……」
「狼のお家芸だったわよね?めんどくさいから任せるわ」
張り切るシロと対照的に、大欠伸をかいてそっぽ向くタマモ。
「キッサマ……!」
シロがくってかかろうとするのを、美神が手で制す。
「あーもー、一々もめないでよ。そうね、シロだけの方がいいかもしれないわね」
「へ?なんでですか?」
「だって横島君が相手ならシロの方が断然相性いいじゃない」
単独の方が、タマモと二人で並んで捜すより余程集中できるだろう。
「お互い、まだ手の内明かしてないわ。どっちが上手か、白黒つけてやるわよ!!」
(そんなこと言ったって、相手が上手だった時のことは考えてないのよね、どうせ)
タマモの危惧をよそに、今、未開の地において美神達の追跡行が開始された。

一方こちらは横島をひきずる少女。
「ま、万が一見捨てたのがハッタリって場合に備えて……翔封界<レイ・ウィング>!」
またしても彼女の掛け声が自然界に干渉していき、二人の周囲に風の障壁が生まれる。
そして、その風が二人を空に舞い上げ、凄まじい速度で進行方向へ運ぶ。
「そ…空飛んでるぅぅぅぅ!?」
「うっさいわね!人がちょいと珍しい術使ったぐらいで、驚くの禁止!!」
「ちょいとスか…」
実を言うとそうでもない。空中浮遊ならまだしも、高速飛行の術となると使い手は少ない。
ただ、「類は友〜」なのかどうか知らないが、彼女の周囲にはやたら多いのだ。
制御困難ゆえに廃れつつある筈のこの術の使い手が。
(お…俺の命運もここまでの気がしてなんねー……)
もはや、横島の涙は流し尽くされていた。

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