ザ・グレート・展開予測ショー

封除<アンロック>


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/11/13)

ザビュバッ、ギキョオォォォン
甲高い音を立て、突如床が細切れて抜ける。が、無論魔族は反射的に宙に浮いて難を逃れる。
「あれがかなわぬ敵?確かに刀が届かないのはちと卑怯……」
重力に抗う術を持たない人は、床が抜ければ当然下の階に落下する。そこにいたのは仲間。
「あー、ややこしいからシロは黙ってて。…とにかく、逃げ支度ぐらいしてあんのよ」
「……この僕をハメるとは恐れ入るね。どうだいミカミさん、僕の金剛剣を奪う気は無い?」
張り詰めた空気が支配した空間で、少年はさらりと言ったものだった。
「まさか。幾ら美神殿でも怪我した先生をほっぽって金儲けなど……」
「なによその「幾ら・でも」ってのは?っと、それはともかく、いい度胸ねアンタ?」
傍らの仲間と、真上に存在してる闇そのものとに言葉を送る美神。
「あなたの自尊心は相当高いと見たね。だが利発だ。安っぽい挑発には乗らないだろう」
「だとしたらそんなこと、言うだけ無意味だわ」
「そうかな?あなたには僕がそんな無意味なことを言うような輩に思えるのかい?」
「……何も無いくせに…思わせぶったって…」
「実に短慮な発想だよ、それが本音ならね。
それに、もし僕がハッタリをかけてるとしても、この剣が欲しくない事は無いんでしょ?」
「……そうね。確かに、治療費代わりに頂戴できるならそれに越したことは無いわ」
「………結局、安い挑発に乗るんでござるか?」
苦笑いしつつ、人狼は腕を前方に出し足をやや広げ腰を落とす。解り易い戦闘スタイルだ。
「つきあってくれなくたっていいのよ……戦い始めたらアンタの方が無鉄砲なんだから」
「それを決定するのはぼくの役目だと思うけど?だいたいあんたのその怪我じゃあね…」
闇が、再度蠢動し、光の世界を浸食し始める。が、その時、
<いいえ!断固として退いてもらいます>
声がこだまし、まったく間隙も無く、唐突に美神達が影の視界から掻き消える。
「この能力は……………そうだとするなら……何故だ?」
影の問いかけに答えるものは誰一人いなかった。

――我が力 我が身となりて
    共に滅びの道を歩まん
    神々の魂すらも打ち砕き――

三度目にもなると、流石に運命的なものを感じる……。
だからどうにかしようがあるかと問われれば、こたえる言葉はもちえないが。

「三人も抱えて飛びつづけるのは私には無理です。他の二人は近くにいるんでしょう?」
目の前の光景が瞬時に差し代わり、よこあいからの第一声がコレでは困惑せざるをえない。
「しょ…小竜姫!?ちょっと待って!アンタが出てくるなんてのはおかしいじゃない」
おかしいというのは他でもない、魔族絡みの事件に神が介入できる筈が無いということだ。
「おかしいのはあっちです。彼は………しまった!?追ってきてる!!」
「えぇ!?ちょ…なんでよ?超加速を追跡できる奴ならあんな回りくどいこと言って
私を足止めする必要が無いじゃない!!」
美神は問い詰めたが、小竜姫は神妙な面持ちを見せるだけだった。そしてやがて口を開く。
「時間移動……プロテクト外しておきます。コンパス代わりが見つかれば使えるように」
「ちょっと待って。それより先に私の質問に対する解答でしょ?」
「向こうがおかしいと言ったのは他でもありません。正体不明なんです」
言って、彼女は美神にかけた己の呪を取り払う。
「そうかしら?時間移動(そんなもん)の使用まで迫られてる時点でただの怪事件には…」
ザリッ
「やぁ、さっきはいいところで水差されちゃったね。しかし今度は安心だ」
どちらが先だったか、その言葉の真意を悟るのと、小竜姫がいなくなったのを知るのと。
「彼女の始末は完了した。さ、続きをやろう」
一瞬で何をどうやったのか?一瞬ほどもチャンスは無かった筈だ。
様々な疑問が過ぎり、それらの全ての秘密が、先刻の質問の答えにこそ隠されてると考える。
しかしそれももうどうでもいい。目の前の敵は、生存を看過できない存在に変わったのだ。
「アンタ…もう後には退けないわよ?支度をなさい、輪廻転生の旅支度よ……」
「………あなたが気高いのは解ってる。負傷しても強がるのも非常に立派なことだ。
しかし、僕に勝てないって現実に強がりは無意味な筈だ。何故そんなことを言う?」
「ロマンチストはお気に召さない?好かれたくも無いけどね」
その言葉が、さも引き金だったとでも言うようなタイミングで、突如虚無が生まれる。
『滅』
キュゴオォォォゥゥゥッ
影はそのまま負の空間に囚われ、飲まれる。
「あっけなかったわね。私に注意をひきつけて、ヒーリングの時間を稼いだのよ」
勝ち誇る意味で呟いて、あさっての方を見やると、
キヌとタマモがこちらを見つけたらしく近づいて来る。
だが、唐突に生まれ出るもう一つの気配があった。
ュオゥウウオォウウゥゥオニュグィク
影が、邪悪な魔物の最期が、時間を逆行しているのである。
「なによそれ!?」
「危機……一髪だった…やはり、仕込んでおいて正解だった……」
影が呟く、謎の言葉を。続けて猛る横島。
「きかなかったんなら…全部の文字かたっぱしっから試してやる!」
「そーゆー原始的な戦法は…」
「隙あり!!」
横島は素早い動作で、忠告をかける美神に文珠をぶつける。
『雷』
ピバシィッ
蓄えられた膨大な霊力が根こそぎ電気に変換され、迸る。
横島の算段ではもうここら辺が限界だった。それほど彼にとって過酷な戦いだったのだ。
ならば、小竜姫が最期に残した活路に、どんなに絶望的な航路でも、賭けるしかない。
いい意味でも、悪い意味でも、冒険できる若さがあったゆえの決断である。
「ちょ………」
バリバヂビギズシャ
電気の渦が周囲を包み、エネルギーが拡散しているにも関らず密度が上がりつづける。
――神滅<ラグナ>………
(声が…!聴こえるわ、ハッキリと?)
    ………斬<ブレェェェェェェェェド>!――
ギョルガジャベギ、バヅッ、ドヒュウウゥゥゥゥゥーーーン…………
その日、世界が欠け落ちた。そして、生きた魂もいくつか混沌の海に解き放たれた。
美神除霊事務所従業員五名:「暗き星の海」から完全消失

漆黒の刃に、いまだかつてない重く鈍い、異様な手応えが加わる。
それを支える魔道士の細腕は、年の頃十五、六の少女のもの。
彼女の脳裏に、あってはならない結末の予感が走る。すなわち、術の暴走――。
他の術ならいざ知らず、この術の根源は世界の根幹そのものである。
そんな存在の力を借り受けてこの世界に現出させるのは、
喩えるなら、卵の中に、その卵を産み落とした雌鳥を引っ張り込んでるようなもの。
それが魔力という、この世界の理屈を超越した力ゆえそんな無茶も通るのだが、
それにしたって限度がある。少なくとも、この世界を十回滅ぼせる程の力を振るっている。
「ま……まづひ………も…もちなお……せるわきゃないけど……」
不毛な努力とは知れても、自分のミスで世界を消し飛ばしてしまうのは最悪である。
……ゅおう゛
刃を織り成す闇が揺らぐ。
――ここまでか?
ぢゅあん
暗い刀身が先端から根元までざっくりと無数に割れ、中心に金色の光の塊を抱く。
「く……!」
少女はせめて、世界の終焉を招く存在から目を背けずに戦った。
それが彼女の強さは並々ならぬことを意味していたことは想像に難くない。
……ウゥゥゥゥゥゥゥドゥッ、ズバババババッ、バシュッ
塊が膨張、スパークし目を灼く、最後には漆黒の刃だったものともども霧散する。
「……暴走じゃ………なかっ…た……………?」
そうとしか考えられない。魔力の暴走は、たとえ「眠り」のソレでもバカにできない。
まして、人間に扱える術の中でも間違いなく最高峰のこの術ならば、世界消滅は確定事項。
だとすれば、あの異変はいったいなんだったのか?
「う……いつつつつ………まったく、取り返しのつかない真似をしてくれたわね…」
足元からの声は、事実をいえば少女のことも指していることになるが、実際には別だった。
驚くなかれ、さきほど消えた美神一行の美神令子である。
「うぁだ!?ちょ、ちょ、ちょ……いいいいいいいいつからそこに?」
パニくる女魔道士。……まぁ、驚く状況じゃなかったら「驚くなかれ」などいらんわな…。
因みに、ここまでで疑問に思った方のために女魔道士について説明させてもらうと、
女性の魔道士である。男性との相違点は一ヶ月周期で魔力が下がったりする程度で、
魔力の行使も研究も別段差し障りなくできる。「女のくせに」はナンセンス。
したがって彼女のように、
年端も行かぬ娘にも、才能と修練次第で旅の傭兵なんぞつとまったりするのである。
しかもこの彼女、超一流の魔道士にして一流の戦士でもあるというのだから只者ではない。
そこいらのならず者程度なら、腰にさげたショートソードで軽く叩き伏せてしまう。
そんな彼女に声をかけられ、振り向いた美神はその姿を見止め、言葉につまる。
「……………え?」
ソフトな髪質なのか、緩やかに伸びた、どうやらナチュラルっぽい栗色のロングヘアに、
大きくて丸い瞳が印象的な、童顔ではあるもののそれなりに整った顔。それはいい。
問題は、前述の瞳が、その幼い見た目に反して
相当な修羅場をくぐり抜けた歴戦の猛者の眼をしていたこと。
そしてその眼が物語るものに相応しく、また小柄な少女には不相応な物々しい服装。
漆黒のマント、それを留める大仰な肩当て、使い込まれたロングブーツ、そして、
デザインからしてセットのものであろうベルトのバックル・両手の手袋の上にはめてる
ブレスレット・首からさげたペンダント……色違いの、握りこぶし大の宝石がついている。
「随分みょうちくりんなカッコ、してるのねぇ…」
だがしかし、物珍しそうに言葉を発したのは少女のほうだった。

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