ザ・グレート・展開予測ショー

おなじ空 その4(後編)


投稿者名:みみかき
投稿日時:(01/11/13)



 私は残酷な事を押し付けている。

 もし、おキヌが自分達の事を思い出したら
 家族を離れ、自分達の元へ帰ってくるかもしれない。
 たぶん私達は、彼女を拒む事をできない。
 できはしない。
 それは、たとえ仮初めの家族だとしても
 別れる事に変わりは無い。

 おキヌちゃんはこの家族に愛されるだろう。
 おキヌちゃんも家族を愛するだろう。
 それははっきりした根拠はなくても
 絶対の確信をもっている。

 かぐや姫
 あの月からの使者達は、どんな気持ちで
 彼女を迎えに来ただろう。
 彼女が、彼女を愛してきた家族の幸せ。
 それを自分達の都合だけで、踏み潰してゆく。
 自分達の都合で、その子を押し付けたくせに。
 それでもなお、彼女の帰還を喜ぶのだろうか。

 早苗の両親は、あらためておキヌを我が家の次女として
 迎えさせて欲しいと言ってくれた。
 しばらく彼女と融合していた早苗は、おキヌの気持ちを
 じかに感じていたのだろう。
 えらくデキのいい妹ができたと、喜んでくれた。
 美神は、生涯二度目の土下座をした。

 もうすぐ休もう。
 暗い縁側に腰掛けて、美神は思った。
 今日一日の戦闘の疲れ、そして身体の傷。
 なにより、いろんな事がありすぎた。
 おキヌの300年の人生を一日で触れてきた様な
 とても永い日だった。

 気配に振り向くと
 Gジャンのポケットに両手をつっこんで立っている
 横島がいた。
 「美神さん………」

 彼もそれ以上の言葉は見つからなかった。
 疲労もあるだろうが、今の互いの心境は
 わかりつくしていた。

 ふと美神が思い出す。
 「横島君、おキヌちゃんに、おやすみを言おう」

 暗い部屋のふすまをゆっくりと
 ゆっくりと開ける。
 部屋の四隅には、彼女の幽体を安定させるための
 お札が張ってある。
 静かに2人がおキヌの枕元へ近づく。
 かすかな彼女の寝息だけが、八畳間に聞こえている。
 2人は何も言わず、しばらく寝顔を見つめている。

 「…………っく」
 コロリと小さく寝返りをうった。
 目覚めるかもしれない。
 美神達は互いの視線で合図をして、部屋を出ようとする。


 「………ムニャムニャ、もう食べられませ〜ん……」

 2人は力の限り歯を喰いしばっていた。
 涌き出る呼吸は、出来るだけ静かに鼻から逃がす。
 肩を細かく震わせつつ、部屋を出てゆく。
 できるだけ静かに、早くここを離れなければ。
 もっと遠くに。
 おキヌの部屋の、反対側の庭に2人は着いた。
 限界は近い。
 まるで示し合わせたかの様に、庭石と灯篭にしがみついた。



 「ア〜ハハハハハハッ!タハハハハッ!ハハハハハハァ!」

 「キャハハハハッ!クククッ!アハアハ、アハハハハハ!」

 爆発する様に笑いだす。
 腹筋が壊れるほど笑いがでる。
 最初は滲み出ていた涙が、そのうち滝の様に流れ出す。

 「アハッ、アハハハッ!や、やっぱ、おキヌちゃん
  最高っスよ、ハハハハハハハ!」

 「クククッ、キャハハハハ!もう、もうこれは
  絶対っ幸せになんなきゃ、ダメよねぇ〜、ハハハハハ」


 闇がその深さを増すころ
 残りの体力が尽きるまで、横島と美神は笑い合った。



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