ザ・グレート・展開予測ショー

おなじ空 その4(前編)


投稿者名:みみかき
投稿日時:(01/11/13)




  「お願いします。おキヌちゃんを氷室家の一員として
   迎えては頂けないでしょうか。」


 ……… ちょっと待ってよ、美神さん ………

 あの美神が、慇懃に人に頭を下げた驚愕よりも
 横島は先ず混乱してしまった。

 「み、美神さん、ここじゃぁ通勤は、ムリッすよ。
  ふもとの駅までだって、2時間くらい……」

 「待ちなさい、……横島クン」
 頭を下げたまま、美神が静かに答える。

 「俺達が会いに行くったって、そうそう毎日は………」
 「横島クン」
 頭を上げると早苗の父に向いたまま、横島を制する様に
 呼びかける。
 少しムッとする、横島。

 「なんでなんスか? 何でおキヌちゃんがここで
  暮らさにゃきゃあ、なンないんスか!
  俺達と一緒に来りゃあいいでしょう?
  おキヌちゃん1人くらい、養えないワケないでしょう。
  記憶が戻るまで、俺達と一緒に………」

 「いいから、黙って」
 なおも、視線を向けない美神。

 「美神さんがイヤなら、俺か倍働いて、おキヌちゃん食わせ
  ますっ!だいたいなんで一緒じゃダメなんだよ!
  せっかく、みんなで暮らせるんやないか!
  一緒に仕事して、話して、茶ー飲んで、
  普通に俺達、生活できんねや!何で今更おいてきぼり
  喰わさにゃならんねん!アンタ、おキヌちゃんと……」



    「待ちなさいて、いってンでしょ!!」

 美神の吐き出す様な叫びと、焼けつく視線に思わず黙り込む。

 肌を刺す様な空気を和らげるため
 早苗の父が口を開く。
 「横島君、だったかね。ここは落ち着いて、美神さんに
  理由を聞いてはどうかね?」

 まだ、承伏しがたそうな横島をほぐしてやる。
 「ウチのが、今から夕めし準備をするとこだ。
  今夜、ここに泊まっておキヌちゃんと一緒でも
  かまわんだろう」
 「 …………………… 」
 「時間はたっぷりある。じっくり話を聞くのもいいだろう」

 「……はい」

 早苗の母は3人分のお茶を入れ直すと、奥に引っ込んでゆく。
 立ち上がり際、生涯の伴侶に全てを任せるのだろう
 父親を見つめ、微笑んでいた。

 「おキヌちゃんが目覚めても、おそらくすぐには
  私達の事は、思い出せないでしょうね」
 美神は湯飲みを口に運ぶが、すぐに食卓に下ろした。
 まだ彼女の飲める温度ではなかったらしい。

 「でも、私達がそばにいれば、あの子は思い出そうと
  苦しむでしょう。
  それが1年先か、10年先か。もう思い出す事も
  ないかもしれない。
  それでも彼女は、私達の”縁”を感じて
  必死で思い出そうとする。
  そんな人生、おキヌちゃんにさせる訳、いかない」

 美神は食卓の一点を見つめ続けている。
 「あの子には幸せになってもらわないと、ダメなの」

 「普通の女の子でもいいじゃない。
  たとえ私達の事、思い出さなくても友達になれる。
  きっとなれるわ!
  アンタ言ってたじゃない?
  ”私達、何も失くしたりしてない”って!
  ”また出会えばいいだけだ”って!
  おキヌちゃんは、おキヌちゃんよ。何も変わらない。
  もう一度、出会えばいいだけよ!」

 美神は泣いてはいなかった。
 ただ、時々大きく息を飲み込んでいた。

 「………ごめんなさい」
 横島が詫びた。

 「それにね、おキヌちゃんには家族が必要だわ。
  私達じゃ無く、本当の家族。
  彼女に現在(いま)を教えて、支えて、守って
  温め合う家族。私達じゃダメなの」

 今度は早苗の父が、湯飲みを口に運ぶ。
 まだ冷めないお茶を、一口喉に流し込む。

 「今のおキヌちゃんは、肉体とシンクロしきれていない。
  しばらく”生がわき”の状態が続くでしょう。
  ここの強力な結界の中なら、彼女の幽体も癒着まで
  安定する事ができるわ」

 「その、氷室さんちは、かまわないンですか?」
 ようやく、落ち着きを取り戻した横島が尋ねた。
 手の中で、湯飲みのお茶を、くるくる回している。

 「君達とおキヌちゃんに”縁”がある様に
  これが私達とおキヌちゃんとの”縁”じゃないかな。
  私は、少なくともそう感じているよ」

 ”おキヌの”父親は、2人を安心させる様に
 ゆっくりと、そう答えた。


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