ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(因果)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/11/13)




 ー終曲ー



 常時崩す事など無く、ただ微笑を浮かべる。
 それが、それこそが彼の特徴の一つなのだが、現在の彼の表情はどこか悲愴感が見てとれた。憔悴してる様にも見える。
「因果応報・・・というやつですか」
 うつむく。視線を汚れた床へと向け・・・幽かに開かれた口からは、そんな呟き声が漏れた。
 やがてーーー顔を上げる。
 とにかく、こうしてても始まらない。
 そう自分に言い聞かせて、『彼』は以前からの旧友、そしてこの火事の張本人二人に、全額弁償させる決意を固めたーーー

 ここでーーー『彼』について、語ろう。

 容姿。
 端麗だが、年のわりに童顔ともいえる顔立ち。眼差しはどこか、鋭さを感じさせる。
 体格はそれ程では無い。いやそれどころか小柄といえる。
 もしサングラスをかけておらず、スーツではなく普段着を着て、髭を生やすなどしていなければ、周囲から本来の年齢よりも5つは若くみられる事は確実だろう。
 そして本人はそれを、この上なく嫌がっている。

 肩書き。
 日本GS協会副会長。(及び現在休止中の放火魔軍団首領)
 恐らくは策謀に次ぐ策謀により、得た地位と思われる。

 性格。
 一言で言うなら、大胆にして姑息。トラブルメーカー。
 とにかく策略を好む。基本的に、味方に(だけ)は、極力被害は出さぬ様に配慮はするのだが、もしそれにこだわる事により、本来の目的を果たせぬ様なら、その時点であっさりと敵も味方もまとめて陥れる。
 当然ーーー恨みや反発を買うのは日常茶飯事。
 敵を作り、更にその敵の敵まで味方にはせず、敵に回す。そうして得た状況を好むところが、尚更余計な敵を生む。
 
 以前に、善人かどうかを確かめるマジックアイテム(一枚の白いハンカチを模した物で、邪心をもって触れると、墨汁を落とした様に黒く染まってゆく)を試させたところ、白くも黒くもならず、迷彩色に変化した事は記憶に新しい。
 試させた某神父はその日、『何故自分の周囲に集まるのはこの手の連中ばかりなのか!?』と、神に問い続けたという。

 余談として、守銭奴で悪名高い、神父の一番弟子にも試させたところ、ハンカチにはどうしてだか、そうなる理屈も原理もブッチギリで無視して、『福沢』さんの顔がくっきりと現れた。

 神父大絶叫。即日カウンセラーに相談。

 話が逸れたが・・・とにかく、そんな『彼』は、放火魔時のアジトへ無事到着した。
「ここも久しぶりですねぇ・・・」
 下水にあるが故、横長に広がるアジトは、部屋一つ一つの面積はそれ程でも無いとはいえ、総合的に見るならば、とてつもない程の広大さを有してるといえる。
 当然、出入口も一つでは無い。
「私です。開けてください」
 入口には全て、声紋により本人か否か識別されるという、霊的な警護システムが施されている。
 間をおいて、扉がーーー開く。
 一見した限り、下水の壁としか思えない場所に、アジトへの扉は隠されていた。
 自動的に開閉する扉をそのままにし、目的の部屋まで真っ直ぐに、進む。

 やがてーーー到着した、その瞬間。
 彼はーーー目を剥いた。

 耐火性が完璧な壁や床、それに天井には(汚れてはいるが)焦げたところなどは一切見当たらない。
 それはーーー当然だ。ここはあらゆる災害にもビクともしない様、想定して造りあげたのだから。
 その為、この部屋から他の部屋へと、鎮火するまでに火災が広がる事は無かった。それについては非常に幸運といえよう。
 しかし。
「よ!久しぶ!?」
 朗らかに挨拶をしてきやがった旧友の、その右頬に即座に拳を叩きこむ。
 もんどりうって、倒れこむ旧友。その側には夥しい数の酒瓶が散らばっていた。
 想像するにーーー難くない。
 彼の先輩にあたる『美智恵さん』からの連絡により『娘の仕置きで、貴方のアジトが火の海になったかも・・・』と、知らされるや否や、即刻駆けつけた次第だが・・・時既に遅し。
 もう一度言う。想像するにーーー難くない。
 酒は燃える。それはアルコールの度数にもよるが、勝手に戸棚から引っ張り出された、これだけの(キープしておいた酒までもを含む)酒に一気に火がついたとすれば、この惨状も当然だ。
 ヨーロッパ、イタリアはミラノの高級絨毯。スウェーデンやスイスで手に入れた、価値ある置き時計や数々の家具。
 それにーーーお気に入りの絵画。
 灰、灰、全てが灰。それは火だるまになった青年も含む。
 付け加えればーーー今現在の自分の心も、だ。
 放火魔として、いくつかの家屋を灰にしてきた自分のアジトが、この様な事になるとは・・・

『因果応報・・・というやつですか』

 ため息混じりに・・・彼はそう呟いた。


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