ザ・グレート・展開予測ショー

獄炎招<アビス・フレア>


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/11/12)

――四界の闇を統べる王
   汝の欠片の縁に従い
  汝ら全員<すべて>の力もて
   我にさらなる魔力<ちから>を与えよ――

幻聴にしても、妙に物々しい詩だと思った。しかし、感じたのはせいぜいその程度だった。
彼女の手に余るほど強い悪霊など、普通いない。それは、疑いの無いところだ。
だが、皮肉なことに、この世に絶対など絶対にありえないのだ。
それゆえ、自分は戦う。
この世には運命というシナリオが用意されていて、はじめから抗うことができないらしい。
バカバカしい事だ。生きようとすることもバカらしい。我々は「生かされている」だけだ。
しかし、それほどまでに絶対的な運命ならば絶対に有り得ない。
ならば、彼女の手におえない悪霊などいないわけが無いし、
そんな相手を手におえないと決まったわけではないのだ。
「だいたい、隠れてるのは私を恐れてる証拠じゃない。違うんなら出てくりゃいいのよ」
彼女の声が朗々と闇に響く。そして生まれる殺気。彼女は反射的に身を捻りかけ…
「えッ!」
ガシュッ、キィーン、ころころころ……クワワワワァァァーーーン
先程の彼女の猛りと同様、驚嘆の声と、彼女の脇腹に攻撃が着弾した鋭い音、
更にその投射物が落下し、移動し、止まるまでに至る全ての音が闇に溶け、消える。
反応できなかったわけではない。身体が追いつかなかったのとも違う。
本能が、その飛来物の正体を悟った時、彼女は完全に避けることを失念していた。
「そんなッ!嘘よッ!!こんな……こんなはずが……!!でも、今のは……」
不自然な姿勢で攻撃を受けた彼女は、倒れこみながら顔面蒼白にして叫んでいた。
「僕の玩具がそんなに気なるかい?えー、と……『ごーすとすいーぱー』サン…だった?」
闇が震えたような感覚とともに、周囲から声が響いた。そして、闇が紡がれ人の影を成す。
「アンタが……いいえ!アンタの正体も今日の依頼も興味ないわ」
彼女――美神令子の思い切った台詞が、真っ直ぐ影に向かって飛ぶ。
「そう言うだろうと思ったよ。イヤ、そういう人間を求めた結果があなたなんだがね」
さらりと言い放つ影。その口調はまるで面白い遊びを見つけた少年のそれだ。
「思わせぶりな台詞も興味ない!!」
美神はまたも一言のもとに言い切る。それを見ていた影の態度を改めさせるほどの気迫で。
「それもそうだろうね。それじゃ……」
「アレは何ッ!?」
ビシッと伸びた指の先には、先程の投擲武器。影曰く、「僕の玩具」
「あなたは、それが解ったから避けられなかったんでしょ?」
はじめて、影の少年の声が困惑に染まる。
「いいから!!」
「金貨だよ」
存外ケロリと答える少年。
「なんでそんな物持ってるのよ!?現代日本バカにすんじゃないわよ!!
アレは私が察するところ、ただの古銭なんて甘っちょろい代物じゃあないわ」
「流石に、お金に対する嗅覚は並々ならないね。あれは考古学博士を自殺に追い込めるよ」
そこで、少年の双眸が細くなる。微笑んだのだ、影なる少年が。
「………!!」
「もっと出せるよ?あなたを苦しめる為なら幾らでも、ね」
「なん……!?」
ベギィッ
衝撃が、右胸を打つ。眉間を狙った黄金の凶弾を、美神が反応してかたびらで受けたのだ。
「うん。いいね、会話の途中だからって魔族(ぼく)と向かい合って気を抜いちゃいない」
「この野郎ッ!!」
猛って美神は、忍ばせていた神通棍を引き抜きながら霊気を込め、伸ばす。
「いいの?もっと出せるのに……」
「う!?」
瞬間、彼女の前身が強張り、硬直する。
「やっぱりね」
ズギャッ
再度黄金色の軌跡が生まれ、今度は的確に彼女の鼻っ柱を打つ。
「痛ッ!」
「そら」
ストッ
美神がうめいて仰け反ったその間隙を縫って、微かに虹色を帯びた虚ろな刃が、
強化セラミックを容易く貫いて彼女の脇腹に差し込まれていた。
「………ゴフッ……あ?」
「僕の方が強いことは解ってたでしょ?いけないなぁ、相手の不抜けた態度に騙されちゃ」
(そう…なのね…この剣…ダイヤモンド……そしてそれ以上に、天才的な腕の冴え…)
強化セラミックを上回る硬度の鋭利な武器と無駄の無いパワーとが実現させた悪夢。

――世界<そら>のいましめ解き放たれし
  凍れる黒き虚無<うつろ>の刃よ――

ヤバい時にも聴こえるなんて……本格的にヤバいなぁ……とだけ、思った。

「ふぅん……どこも人間はこんなものなのかな…楽しめなかったけど、まぁいーや」
「……こ…し…」
「うん?」
バシュウゥゥゥゥゥーーー
突如、虚空に烈光が生まれ、影の頭部左半分を侵蝕する。
「うぁがあぁぁぁあああーーッ!?」
その瞬間、空中に小さく『隠』の形に光が走り、砕けて消える。
「やった!?美神さんがやられかけてた悪魔を、俺が倒したのか!!?」
(隙見て斬りたおせっつったのに、呼ぶまでビビって出てこなかったわね…?)
よっぽど怒鳴り散らしたかった美神ではあったが、生憎傷は浅くない。
「美神さん!文珠で癒してあげますから身体でのボーナスを期待する俺を裏切らないでね」
取引にしたいのにそこまでする度胸がないのか、イマイチ半端な要求をする少年。
「この…バカタレ……気を、抜く……のは…早い…」
「え?」
「あがががが……!殺してやる!!
貴様のようなガキには勿体無いほど完璧な絶望を抱いて死にやがれッ!!!」
その言葉を紡いだ主の体を蝕むのは、もはや霊気でも苦痛でもなく、憎悪のみ。
「こ…この野郎…重症のくせに随分強気ですけど……まだ戦えるもんなんスか?」
腰が引けつつ、雇用主の美神に首だけ向けて問い掛ける。
「そうは……見えないん……だけど、ね…一応……キッチリ…」
美神の言葉が終わるのを待って、室内に異変が起こった。空中に無数の光が生まれ、舞う。
「これは……な、なんだこりゃ……」
横島は喘ぐように声を絞り出した。
「今、答えを飲み込んだでしょ?君は答えを知っててそれを伏せたよね?何故?」
いつの間にか、影は闇に溶け、新たな声を室内に響かせた。明るい、印象は女性に近い声。
「いいよ?忘れたフリ、知らないフリなんかしたって、辛いのはボクじゃない…」
「知るも知らねぇもこんなん蛍の群れに見えるってだけじゃねぇか!!」
堰を切ったようにまくしたてる横島。なるほど、揺らめく光の粒たちは蛍にも見える。
「そぉうだよ?でも、せっかく見せてあげたボクの玩具を「こんな」や「だけ」は酷いね」
「うるせぇッ!知るかッ!たかが光だッ!!」
「じゃあ壊せば?言っとくけど、放っとくと君達を撃つよ」
「けッ!当り前だ、こんなモンで一々ぐらついてたら……」
「たとえ幻でも…………自分を慰めるには充分なのにね……」
「……!?…お前…?」
「気にしないでよ…人の想いなんて、元々不確かなものなんだしさ……」
影が何を言いたかったのか?それは解らなかったが、横島は自分が戦えないことは悟った。
「横島ァァァァーーーッ!!」
「うぁ!?」
ヒュッ、シャッ、シュオゥッ
隣から大音声の呼びかけを受け、横島は間の抜けた声を上げつつ、迫りくる光弾をかわす。
「状況見て…呆けていいかどうかぐらい……自分で判断…なさい……」
「す……すんません…!!」
謝るしかない。大声出すのはさぞかし傷に障った事だろうし、プロにあるまじき失態だった。
「しょうがないなぁ……でもね、次は絶対にかわせないよ?ボクは命を賭けるからね」
「なんだと?テメー、後一回ぐらいどうにかなんないと本気で思ってんのか?」
「勿論!君が後一回完璧に避けきったなら、ホントに死んであげるよ。これは勝負だ」
(良しッ!信じらんないが文珠もあるし、二回ぐらいは避けられると思ってたトコだ。)
「くすくす♪やる気マンマンだね?そーだよねぇ、自分の手を汚すのはヤダもんねぇ?」
「あんだってぇ!?」
「あらら冷たいんだぁ?やっぱボクみたいな下級魔族は誰にも愛されないんだねぇ…」
「野郎…!!」
「ゲームスタート☆」
「ま……待ち…」
ドスゥッ、ザジュッ、ジャウッ
横島の背中、胸部、右肩にそれぞれ、白光が突き刺さる。
「わお☆やっぱり優しいじゃん♪ボク、君を信じてよかったぁ。そういや名前なんてった?」
「てめぇ……」
「ウフフ♪まだまだ元気そうだから、もう一回命賭けようっと」
「……!いい気んなりゃがって…」
「避けるんだったら…ボクのこと忘れないでね…」
言って、涙を拭う仕種をする影。
「この…!!」
ザウッ、バシュッ
再度、背中と肩の「同じ傷口」を光が灼く。
「アッハッハッハー!ユカイユカイー♪コレでいい気になるなというほうが無茶だよねぇ。
ねぇ、絶望した?もう生きるのがヤになったりした?君にぶたれた顔を癒すのに、
君の絶望と恐怖を使うのは当然だよね?もっともっと絶望してよ!ねぇ!!」
ガスッ
閃光が、ついに動くことかなわなくなった横島の胸に突き刺さる。
「…かふっ…」
「魔族風情が…調子に乗って……」
言って、身じろぐ美神だが、身体は満足に動かない。
「ゴメンねー。調子に乗るつもりは無かったんだけど、面白いくらい弱くってサー☆
でも、足らないね、傷を癒すのに。バカな子供だよ、なまじバカ霊力でボクを殴ってさ。
この傷が癒えるにはもう、この子の心が死ぬまでの絶望が要るよ」
「ハッ!そんな真似、させると……思って…るの?この…」
「へぇ?ボクを止められるって?お気の毒だけど、不可能だね」
「全く、こんな…苦労する…くらいなら……横島君…保険入ってもらってりゃ…」
「…?……なんだって?」
「あのお母さんだもんねー……万が一にゃ……ふんだくられちゃう…」
「おいおい、話が全然見えてこないぞ」
影は苛立って、美神のそばまで歩み寄り、そこで違和感に気づく。暑い。
「殺しても死なない奴としか思わなかったもの……予想外よねぇ…」
チリチリチリ………
その場を支配するは微かな異音と乾いた熱気。
「あ…熱いぞ!?バカな、火の気かッ?この感じはッ!?廃ビルだぞ、ここはッ!!可燃物など…」
「残念だったわねぇ……念発火能力で燃やせない物は有り得ないのよ…」

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