ザ・グレート・展開予測ショー

FORCES(12)―まどろみの中で―


投稿者名:二エー
投稿日時:(01/11/12)

 俺が何時ものボロアパートに帰ってきた時にはもうすっかり夜になっていた。はやる気持ちを押さえて登山用リュックにさまざまな道具を詰め込んで行く・・とにかく明日だ。
ふと、嫌な臭いに気付く。
ああ、この服か・・・これはもう、駄目だな・・結構愛用してたのによ。
俺の何時ものあのGパン上下は煤とあの化け物の死臭にまみれていた。道理で帰りの電車の中で回りの視線が痛えと思ったよ・・えーっとほかに何か着るものは?

俺はただでさえ汚い部屋を引っ掻き回すように漁り始める。
何せ明日の妙神山行きは普段の仕事とは訳が違う。あいつとの再会になるかもしれない・・・めかし込んであの山登るわけには行かないが、せめて人格を疑われるような格好だけは避けたい。そして・・・その夜は・・・・

「ヨコシマ・・・会いたかった。もう・・・離さない。」

「馬鹿・・・俺もだよ・・・」

「ヨコシマ・・」
「ルシオラ・・」

なんて、なあんてな・・・・ウエヘへへ。
気がつけば俺は布団を抱きしめ狭い部屋の中を転がり回っていた。ハッ・・・無駄ウチはいかんな・・・それに今度こそあいつを真剣に・・・
と、ともかく服だ服・・・

ピンポーン

「だ、誰だ!」
俺は後ろめたさも手伝ってつい声を荒げてしまう。
少し待つが返事が・・・無い。間違いか?
とりあえずドアを開けてみる。そこには・・・誰もいなかった。・・ただ、ドアの前に何かが入った紙袋が置いてあるのを除いては・・・

なんだこりゃ・・・一体何が入ってるんだ?爆弾とか・・・まさかね。俺は身に覚えが無い訳では無いのでそうっと袋を開く。ああっこれは・・・

紙袋の中には登山者が愛用しているブランドの服が入っていた、それも上下で・・・

一体誰が?いや待てよ・・・登山用の服をおいていった・・と言う事は明日の俺達の予定を知っている奴だよな・・・おキヌちゃん?すげえひょっとして美神さん?でもそれなら何でドアの前に置き捨てていくような真似を?・・・・さっぱり解らん。・・ま、いいか。明日ききゃあ解るしな。とりあえずはありがたく使わせていただこう。

その服は着てみると、まるであつらえたように俺にぴったりだった。上下ともに黒一色というのも何故だか今の俺には「ハマッてる」感じがした。それに、重たい荷物を担ぐ俺のことまで考えてくれたのか、肩から胸、背中の当りにかけて何かゴムラバーのような素材が入っている。明日はこの格好で決まりだな・・・名も知らぬ人、ありがとう・・・

ん?
服の胸ポケットに何か紙が入ってる・・・おおっ「ずっと前から好きでした」とか書いてあったりして?・・ちょっとコワイな、それは・・・

「ごめんなさい」

紙には、ただ短くそう書いてあるだけだった。
・・・・・ほかに服は・・・在る訳ねえか。ま、服着て死ぬ訳じゃねえし・・
これで準備終わり、と言うことにしておこう。

布団に入ったあと俺は遠足に向かう前夜の子供のようにもぞもぞしていたが・・前日までの疲れも手伝ってすぐに眠りに落ちていった・・・



夕日が目にまぶしい。ここは?ああ、東京タワーの上か・・・俺達の、思い出の場所。
なんだ?この手は?
俺は自分の手を見て愕然とする。・・・それは人間の持つそれとは明らかに違っていた。
それに、視点が妙に高い。こんなに俺は大きかったか?それになんで俺の背中には昆虫みたいな羽根が生えてるんだ?全身も・・何だかえらいごつい骨格に覆われている。

「あ、あれ?私・・確か・・・」

誰だ?・・・・ああ、そうか、そうだったよな。思い出したよ。俺が何をしたかを・・・
目の前の魔族の女の子―ルシオラはまだ自分に起きたことを理解できていないようだ。
俺は彼女を恐がらせないよう、この歪な手で傷つけないようそっとその頭に触る。

彼女はビクッとして身構える。だがこちらに敵意が無いと解ったんだろう。反撃したりはしてこない。
・・・無理もねえよな。これじゃ俺だなんてわかんねえよな・・・
だが・・それでいい。今度こそ、お前には他人の為じゃなくて・・・自分のために生きていってもらえる・・・第一今の俺じゃあ、お前とつりあわねえしな。

じゃあな・・・ルシオラ。ベスパたちと仲良くしろよ。

俺はルシオラの頭から手を離し、自分の「羽根」をホバリング状態にして飛ぶ準備に入る。

ルシオラが何かに気付いたように目を見開く。
「ヨコシマ・・・?ねえ!ヨコシマなんでしょ!待って!待ってよ!美神さんは?おキヌちゃんは?みんなを置いて何処にいこうってのよ!」

ルシオラ、その二人なら・・・もう・・・・いねえよ。

俺のこの身体にもいいところはある。・・・それはその気になればルシオラも追いつけないほどの超スピードで飛べるって事だ。

羽ばたきながら思った。
結局、俺のやったことは皆を・・・不幸にしただけだったな。ルシオラとも一緒にはなれなかった、いや、なっちゃあいけねえよな。

涙は、出ない。
「昆虫」が泣くわけねえか・・・
それどころか、後悔や、懺悔の気持ちすら沸いて来ない。まさに「虫」って奴だ。

今はそんなことよりただ、ただひたすらに・・・腹が減った。何処かで食事を取ろう.



「・・・・・・・!!」
俺は跳ね起きていた。夢の中では流れなかった涙で顔が濡れていた。
ちきしょう、何て夢だ・・・大体こんなことにならねえように妙神山に行くんじゃねえか!時計を見る、まだ夜中か・・・
俺は台所に行き、水を蛇口から直接浴びる。気持ちが落ち着いてきた・・・あの夢は何だったんだ?何で美神さんやおキヌちゃんが居ねえ事になってるんだ?
だけど・・・最悪の場合、おキヌちゃんと美神さんが居なくなるって部分はありえねえとしても、あの夢のようになっちまう可能性も在りうるんだよな・・・

それでも、いいさ、俺が居なくても後は美神さんとおキヌちゃん、それに皆がルシオラの面倒は見てくれるだろうし・・・

ザ―ッッ

何だ?・・・テレビか・・・あれ、俺テレビなんてつけてたっけか?・・・最近の俺疲れ気味だからな・・・
砂嵐になっているテレビを消そうとスイッチに手を伸ばす。・・?
突然、画面が受信状態になる。緊急放送か?

画面には巨大な空間に階段が上下左右、重力を無視して縦横無尽に配置された悪夢のような光景が映っていた。・・・気持ち悪ぃ。だが俺は何故かその画面に強く引きつけられていた。俺の心の何処かで、テレビを消せ!早く!という声がしていた。
やがてその上下左右の階段に染み出すように人らしき影が浮かび上がる・・・4人だ。4人か4匹か解らねえが・・・何かが・・いる。輪郭がはっきりしてきた。

一人は・・・女?浅黒い肌に・・・おおっ大胆な格好!
もう一人は・・なんだありゃ?長身で・・・脳味噌みたいな頭部が剥き出しに・・それに目鼻口が縫い合わされて・・・やっぱり、コイツも死人のような肌をしている。
跡二人は何か「ずんぐり」と「むっくり」って感じだな・・・
そして全員が黒い、コウモリみてえな服?を着ている。
4人とも「悪魔」という言葉がピッタリといった感じだ

一体何の番組だ?こんな夜中に特撮って訳でもないだろうに・・・
浅黒い女がこちら―つまり俺の方を見て微笑む。

ゾクッ・・・美人に微笑まれて寒気がしたのはこれが始めてだ。

「フフ・・虫のいい事考えてるのね・・・上手く行くかしら?・・・楽しみにしてるわ。『横島くん』」

「!!!」

声が出ない。・・・やがてテレビはもとの砂嵐に戻っていった。慌ててスイッチを消す。

アカン、ほんとに疲れてるな。もう寝よう・・・きちんと寝ねえからあんな幻覚を・・・

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