ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(水芸)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/11/12)




 ー終曲ー



「し、し、仕方が無かったんすよ〜〜〜!!!」
 狼狽しきった声が返る。
 その声を耳にしつつ、彼女はひたすら、ミシミシ音をたててる携帯を持つその手を震わせ、ひくつくこめかみには青い筋。そして背負うのは、近寄るのを躊躇させるほの暗いオーラ。
 静寂。物音一つしない。無数の視線が彼女に注がれている。
 彼女を見つめる者は皆、固唾を飲んで見守っていた。
 その内大多数は、戦慄すべき矛先が自分に向けられぬ事を祈り・・・またそれ以外のごく小数『一部の者』は、おののく『彼』と話をしたくて仕方が無いといった様子だが、その携帯を手にする女性のあまりの剣幕に二の足を踏んでいる。
 更にそれ以外として、毎度のやりとりに呆れ顔で嘆息しつつも、どこかホッとした表情の少女がいた。

 ここはオカルトGメン本部の第二看護室。
 
 言うまでもないが、そこはあくまで臨時の看護室だった。
 ただし臨時とはいえ・・・本来の看護室同様・・・新米Gメン達で埋めつくされている。
 何者かに襲われたらしい彼らの容態を聞きつけ・・・『早期にヒーリング治療を施す必要がある』・・・と、GS協会会長がそう判断した事により、昏睡状態のGメン達は皆、通常の病院ではなく僅かながらもヒーリング能力者がいる・・・ここGメン本部へ運ばれてくる事となった。
 そうした経緯で、誰もが望まざる形で本部に帰還したGメン達の数に対し、本来一つの看護室にあるベッドだけでは到底足りず、やむなくそれまで使われる事の無かった空き部屋に、かき集めたソファを並べて即席のベッドを幾つか用意する事となる。
 その後、会長にネクロマンサーの少女、人狼の少女を始めとするヒーリングの使える者達による必死の治療によって・・・新米Gメン達は意識を取り戻した。
 しかし。
 医者の不養生。相次いで疲弊し倒れるヒーリング能力者。
 今度は、その時点でまだ起き上がれぬ者を除いたGメン達がベッドを譲り看護する側に回る事となる。
 そこで更に混乱に拍車をかけるが如く、トップクラスといえるGSの三人までが運び込まれて、騒然となる看護室(仮)。
 しばらくしてヒーリングを使える者達も、各々個人差はあれど全員意識を取り戻し、ようやく収拾のめどがつき始めたところに・・・誰かの携帯の呼び出し音が鳴った。

 ーそうして現在に至るー

『だ、だから〜!その銀髪野郎に襲われて大変だったんすよ〜〜〜!美神さんだって三人がかりで苦戦したらしいじゃ・・・』
 下手な弁解は、時には更に相手の不興を招く。そして彼にとってはその場合、気がつくのは大抵手遅れの時だった。
「何か・・・言った?」
 怒るでも無く、落ち着いた声。しかし彼にとってその声は心臓に打たれる杭にも等しい。
『あ、あの・・・い、今のは・・・』
「ねえ・・・さっき何て言ったの?」
 絶望的な心境で彼は、横島は理解した。
 今は沈黙するより他に術はない。弁解はーーー不可能だ。
 実際は、彼が何を言おうとも、彼女が仕置きを取り止める事などありえないのだが・・・それが何故なのかを、そして彼女の心中を、今の横島にはまだ推し量る事は出来ない。
 何にせよ・・・それきり進展する事を止めた状況に、彼女らがしびれを切らすのは、むしろ自然な事といえた。
「美神さん!あのっ!私・・・!」
「拙者も先生とお話するでござるーーー!!!」
 意を決し、行動を起こす少女達。
 しかしそれより先にーーー
『だぁーーーーー!!!さっきから見てりゃあ、何をてめえは怒鳴り返そうともしねぇでびくびくしてんだ!!?きっちり根性据えて言いたい事言わねえかっっ!!!』
 少女達より更に、しびれを切らした男の声が響き渡る。
『貸せっ!もしもし!?』
 どうやら携帯をひったくったらしい。喧嘩腰そのままに、男は彼女に言う。
『あんたな!とある理由で色々聞いちまったんだが、こいつが言うには、あんたは血も涙も無ぇブリザードみてぇな・・・』
『わーーーーーーーー!!!!!!?』
 争う様な音。次いで罵声が響く。やがて弱々しい声がした。
『あの、み、みかみさ・・・』
『サッキノヒトト、カワッテ』
 聞かぬ場合はヤるーーー彼は即座理解し、従った。
 先程の男に代わる。
『何だ?』
『水芸、見せてあげる』
 簡潔な一言。次の瞬間。
『ギニャアアァァァ!!!!?』
 悲鳴。絶叫。断末魔。
 彼女が携帯の謎のスイッチを入れた瞬間、ソレは看護室はおろか、本部中に響き渡った。
『燃えてるでしょ?喋り方からして外人らしいあんたには初耳だろうけど水芸ってのはそいつが水求めて右往左往するという芸なの。お代はそいつからもらってねそれじゃ』
 そこまで一息に喋り、一方的に彼女は電話を切る。
 その一部始終を、見守る二人がいた。

「美智恵君・・・」
「言わないで!言わないで下さい・・・!」

 ー二人は看護室の外で、さめざめと泣いたー


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