ザ・グレート・展開予測ショー

FORCES(11)―三叉路―


投稿者名:二エー
投稿日時:(01/11/10)

 事務所での一悶着の後俺とおキヌちゃんは電話をかける美神さんに邪魔だからと応接間を追い出されてしまった。もちろんベヘリットも没収されている。明り取りの窓から入り込む光がだいぶ赤くなって・・・もう夕方か。
クソッ。美神さんは一体何処に電話を?何とかしてベヘリットを取り返さねえと・・
今の俺は狂ってるのかもしれない。少なくとも二人にはそう見られてることだろう。
確かに自分から望んで化け物になろうなんてイカれてらあな。
でも・・・理屈じゃねえんだよ。この「思い」は。
俺はスキをうかがう野犬のようにドアの前をウロウロしていた。人工幽霊一号の所為だろうか、部屋で美神さんが誰に電話しているのかは全く解らない。

「横島さん・・・ちょっといいですか?」

「ん?あっああおキヌちゃん。どうしたの?」
唐突に・・どうしたんだ?何か気になることでも?
俺もめっちゃ気になることがあるから早く開放してね?

「その・・・ええっと」
やけに俯きがちだな・・?

「何?さっきのこと?あ、あれはその。何と言うかできればいいなーってさ。」
おキヌちゃんはちがう、と言う風に首を振る・・やがて覚悟を決めたように口を開く。

「私や美神さんといっしょにいるのは・・つらいですか?」

な・・・・
「何を唐突に・・・こんな楽しい職場、ほかに在るわけないじゃないか。つらいなんて・
・そんな・・」

確かに、以前とは事務所の雰囲気が違っている。今日もそうだ、先程の事務所でのあのやり取り。お互いの心がかみ合ってない。そんな感じだ。それが苦痛で無い・・というなら嘘になる。

ふと、柔らかいものが顔にあたる。俺はいつのまにかおキヌちゃんの胸に抱かれるような格好になっていた。不思議だ・・・こんなおいしい状況なのになぜか邪な気持ちは沸いて来ない。
「もう・・・隠さなくても、無理しなくてもいいんですよ?私はもう・・・自分に嘘つくのに、疲れちゃった。だから、だから『私』にだけは本当の事を言って下さい・・」

え・・・
俺の聞き間違いか?なぜだか不安になった俺はおキヌちゃんを見上げる。
「お、おキヌちゃん『私にだけ』ってどういうこと?」

「そのままの意味ですよ。美神さんには知らせないでってことです」

うわあ、すげえ攻撃的。なんかこう・・・

「私らしくない、ですか?」
おキヌちゃんはさっきまでの弱弱しい姿が嘘だったかのように強い、毅然とした目をしている。そう・・俺はおキヌちゃんのことだから「悩みがあるんなら私達に話してください」
っぽい感じで責めてくると思ったんだが。

「いいんです。最近の美神さん、まるで横島さんを殺そうとしてるみたいに酷い仕事の割り振りしてますから。話したって・・・」
いや、それは俺が自分で望んで・・・まあ確かにハードスケジュールのおかげで霊力はいつもエンプティ状態だけど、その分頭をつかって戦わざるをえないから・・そうかんがえればそれも美知恵さん譲りの弟子に対するシゴキの一環じゃねえの?

「ともかく、私の質問に答えてください。」
言い逃れたり出来る雰囲気じゃねえな、これは。俺は改めておキヌちゃんの黒真珠のような瞳を見つめ、気力を総動員して真剣な顔を作る。

「だから、さっき言った通りだって」

「本当・・ですか?」

「本当だよ、おキヌちゃん。俺は別に無理もしてないし、みんなと一緒に居るのが嫌なんて事も無いよ・・大体どうして俺がおキヌちゃんを嫌わなきゃならないんだい?俺が嫌われるならともかく。」
ごめんな・・・おキヌちゃん。俺、また嘘ついてるよ。

「自覚してたんなら改めたらどう?」
げっ・・・美神さん。何時の間に・・・
普段にも増して不機嫌そうな顔をしてドアに寄り掛かっている。
おキヌちゃんは・・・こちらも負けず劣らずきつい目で美神さんを見ていた。やがて・・何かを言おうとしたその時、美神さんがそれを塞ぐように口を開く。

「おキヌちゃん。二人だけで話したい事があるんだけど・・顔貸してくれる?」

二人の間に電流のようなものが走った・・気がした。

「いいでしょう。私も美神さんには言っておきたい事がありましたから。横島さん、また後でお話しましょうね?」

ピクッ
美神さんの頬が引きつった。何で?一体二人ともどうしちまったんだ?

「・・・横島君。あんたはもう今日は帰っていいわ。その代わり、明日妙神山に行くからその用意をしておきなさい。」

ってことはさっきの電話は小竜姫様に?俺はてっきり西条あたりにでもかけたのかと思ったんだが・・・

「なに、何か文句でもあんの?」

「いえ・・ただ、何で急にまた。」

「あんたがご執心のそのベヘリットの事を聞きに行くのよ。ひょっとしたらあんたが魔族にならなくてもルシオラが生き返る方法があるかもしれないしね。」

ほ、本当に!さっきまであんなに反対してたのに・・・
「あ、有難うございます!美神さん!」
視界が歪む・・・いけね。涙が・・・

「ま、まあ、あんたに勝手なことされてうちの事務所から化け物出すわけにはいかないし」
「そうじゃなくて美神さんは横島さんが心配なんですよ。自分を置いて何処かに行っちゃうんじゃないかって。私も・・・同じ気持ちです。・・・横島さんが、好きですから。多分美神さんも。でもそれなら何であんな無茶を横島さんに・・」
「なな何言ってるのおキヌちゃん!いいから来なさい!」

真っ赤になった美神さんがおキヌちゃんを部屋に引っ張り込み。廊下には俺一人が残された。
確かに、小竜姫様ならベヘリットの使い方を知ってるかもしれない。例え俺が魔族になるしかあいつに会う方法がなくても、あれの使い方さえ解れば・・・
ともかくそうと決まれば早く家に帰って準備しねえと。こんなに気持ちが湧き立つのはあの時からずっと無かったような気がする。俺はほとんど走り出すように事務所を後にしていた。


・・・・俺はこの時浮かれ過ぎていたのかもしれない。「妙神山に行く」と言った時の美神さんの表情がとても強ばった物であった事にも気が付かなかった・・・

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