ザ・グレート・展開予測ショー

おなじ空 その2


投稿者名:みみかき
投稿日時:(01/11/ 9)



  鍵がはずれてゆく

  凍て付ついた時が、動き出す

  たくさんの昼と夜を

  確かな、それでいて微かな夢と共に

  振り返ってゆく


 氷の棺にその光が沈んでゆく。
 棺が光を受け入れると、水を樹木が吸い上げる様に
 全体に走り始める。
 棺は、最初は小さな皮が剥ける様に
 そのうち大小の破片を伴って、棺の大きさを縮めてゆく。
 ぼんやりとしていた、その中で眠る少女の輪郭が
 はっきりとしたものに変わってゆく。

 そばにいた早苗の身体が、ふいに膝から倒れ込もうとする
 のを、美神が抱き止める。
 おキヌの意識が早苗を離れ、あるべき所に還ったのだ。
 じきに早苗の意識も戻って来るだろう。

 横島の右腕から伸びる輝きは、普段彼等の敵に使うそれとは
 明らかに異なっていた。
 光の剣は、彼の意志を表し、伝えるかのように
 光の流れとなって、棺を押し削ってゆく。

 氷の大きさが、文字通り彼女の棺ぐらいになった時
 少女の右足のあたりから左片口に向かって
 大きな一本の亀裂か走ると、間もなく棺全体が
 堪えきれなくなったように崩壊した。

 氷の中から解放された少女は、彼女を解放した少年の
 わずかに高い位置から、するりと彼に倒れ込んでゆく。

 「おキヌちゃんっ!」
 横島がおキヌを抱き止め、呼びかける。
 思ったほど湿ってはいないが、彼女の巫女装束は冷たく
 少し堅く感じた。
 「おキヌちゃんっ!おキヌちゃんっ!」
 肩を強く抱き、あまり揺らさない様に自分の顔を近付けて
 横島は呼びかけた。
 反応は、まだ無い。
 まだ眠り続けている。

 「こらっ、ワンダーホーゲル!おキヌちゃん大丈夫なんか?
 これじゃ……」

 「チョット、落ち着くっスよ。横島さん」
 横島のやや上に浮遊していた山の神見習いが
 おキヌのそばに降りて来ると、彼女の顔を覗き込んだ。
 「フーン……。呪術は解放されてるし、霊体の増幅も成功
 してるっス。横島さん、顔に手をかざしてみるっス。」
 そぉっと、鼻のあたりに手を向ける。
 横島の手の、小さな産毛にかすかな風を感じる。
 規則的に、わずかではあるが、胸の上下の動きが
 伝わってくる。

 「美神さんっ!おキヌちゃん生きてます!生きてますよ!」
 身体中の細胞全部が震え出す様な衝動に、横島は駆られた。
 美神は早苗に肩を貸す形で、脱力した彼女を支えてる。
 「まだ安心するのは早いわよ!いくら仮死状態だからと
 いっても、300年も栄養の補給無しに身体を維持して
 きたのよ。体温の保持すらおぼつかないはずだわ。
 医療処置を施さないと、今度は肉体から死んでしまう」
 古代の発展した呪術は、肉体自体は凍結せずに霊的結界を
 もって、細胞活動を休眠させてきた。
 しかし生物が存続する以上、結界の中でも僅かづつではあるが
 熱エネルギーを消費してゆく。
 氷の棺を出た以上、体温や体内の機能を維持するのに
 通常状態のエネルギー量を消費するだろう。

 「外のコブラに乗って。とりあえず氷室神社に運ぶわ。
 アンタはおキヌちゃんを支えながら、ヒーリングを
 してちょうだい。」
 「早苗ちゃん、どうするんですか?」
 「ほっとく訳無いじゃない。アタシの膝に乗っけてでも
 運転するしかないでしょ?」
 「だからせめて4人乗り買おうって、言ってたのに〜」
 「ウダウダ言ってても、ワゴン車に変形しないわよ。
 それにね」
 「はい?」
 「それに、大変なのは、これからなのよ……」

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