ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(追憶)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/11/ 7)




 ー終曲ー



「いい加減にしてほしいぜ・・・ったく!」
 吐き棄てる様に、男はそう言った。
 この場所は、以前に放火魔達が根城としていた地下下水道の中にある居住空間。
 その一室・・・そこでは飲み干した酒瓶が、びっしりと辺りを覆いつくしており、その部屋にたちこめている空気、いや、酒気といったら、十数人で朝まで宴会しようとも、ここまでにはならない・・・それ程のレヴェルである。
 とにかく酒臭い部屋。その部屋には今、二人の男がいた。
 一人は何やらうんざりした様な顔で、ただ酒を呑み続けており、もう一人の方は、床につっ伏しながら何事かを大声で喋り続けながらも、昏睡状態に陥っている。
 何と言うのか・・・一言で、奇妙。それに尽きる二人だ。
「み、美神さ〜ん、酸素ボンベ無しで深海に素潜りはいや〜〜〜・・・おキヌちゃん達も凍える瞳してないで止めて〜〜〜」
「だ〜〜〜〜〜!」
 もう我慢がならない!と、そう言いたげに、ガシガシと男は頭を掻きむしりつつ、立ち上がった。叫ぶ。
「てめぇっ!さっきからっ!何っ!回っ!同じ様な台詞繰り返してやがるっ!?『美神さ〜ん、それはいや〜〜おキヌちゃんも〜・・・』こればっかりっじゃねえか!それも細部が違うだけだから余計腹立つ!ていうかいつも一体何やらかしてんだ!!?」
 叫ぶのを止め・・・肩で息をしながら、やがて男は一層うんざりとした表情で呟く様に言った。
「酒の肴になんぞ、なりゃしねぇ・・・つまみも無くなっちまったし・・・・・・寝るか」
 そう男が妥当な結論を出したーーー丁度その時。
「や、やめろぉぉお!」
「あん?」
 突如として、独白を続ける男・・・横島の声調が変化した。
 その表情も・・・先程までの<どこか余裕のある身内同士の些細な?喧嘩>をしている風では無く、苦悶の色しか見てとれぬ形相へと変わっている。
「小鳩ちゃんっ!ま・・・間に合ってくれえぇ・・・!」
 横島から、目を離さぬ様にし、男は腰を下ろした。

 ー瞬き一つに等しい、ほんの僅かな時間ー

 その間に横島の思考は、超精密なコンピューターにもひけをとらぬ速度で、いくつかの打開策を脳裏に浮かび上がらせていた。
 しかし。そうは言っても、この数の風の矢から、背後で何も察する事が出来ずにいる見知った少女を救うのならば、とれる方法はそう多くはない。
 まず一つ目。
 今すぐ『アイツ』を、戦闘不能までに追い込む事。
 すぐに打ち消す。無理だ。例えそうできたとしても、最後のあがきで矢を直接彼女に向けられたら・・・
 ならば、二つ目。
 これを選べば、その後アイツを撃退するのは難しくなるが・・・やむをえない。
 指向性のある攻撃手段。それならこの『盾』で、それで足りぬ部分は自分の身体で・・・防ぐ。
 覚悟は決まった。走り出した瞬間。
 矢がーーー降り注いだーーー
 数任せの為、貫通力もそれ程ではないし、急所を狙いすましているわけでも無い。
 文珠の『盾』を発動させ、彼女の身は安全となった。盾で覆いつくせぬ自分の身は、急所だけをサイキック・ソーサーでガード。致命傷だけは免れるものの、まさに苦肉の策だ。
 ゾス、ゾス!ゾスッ!
 矢が己の身をえぐるーーー耐え難い苦痛ーーー
 その苦痛に、横島は根性でもってーーー
(何でこんな思いしなくちゃならんのじゃ・・・ま、小鳩ちゃんのあつ〜〜い看護が待ってると思えば・・・)
 否。煩悩でもってーーー耐える。
 その最中。小鳩が横島にしがみついた。うつむきながら、小さな躯を小刻みに震わせている。
 横島は無理に笑顔を作り、小鳩に笑いかけた。
「小鳩ちゃん!後少し・・・後少しの辛抱だ・・・!へへ、そしたら、さ・・・」
 必死に苦痛をごまかし、軽口を叩く横島。ふいに小鳩が顔を上げる。
『アリガトヨ』
 彼女の口から囁かれたその声は、しかし決して『彼女』の声では無かった。その意味を横島が把握するより、先にーーー
 後頭部に衝撃が疾りーーー横島は意識を失った。

 ーーー沈黙。
 横島の独白はそこでーーー途切れた。
「なるほど、ね・・・したたかなこった・・・」
 男がポリポリと頬を掻く。
「自分達の気配、つまりは足跡を消すのにこいつの部屋を消した時にでも、姿を見られたんだろう・・・しかし、それをすぐさま利用するたぁな・・・」
 男は横島を抱え上げた。先程彼が気づいたベッドまで運び、その上に放る。
「こっちもいつまでもこうしちゃいられねぇな・・・よし」
 そう言い、男は携帯を取り出し、電話をかけた。ややあって、つながる。
「もしもし・・・美智恵さんか?」

「美神さ〜〜〜ん!!火口だけは〜〜〜ブギュ!!!」

 ー男は無言のまま、横島の顔面に拳をめりこませたー


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