ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(昏倒)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/11/ 4)




 ー終曲ー



 突然だが。
「ガフアッ!!!」
 彼は血反吐を吐いた。
「な、何食わしはるんですくゎぁぁ・・・」
 その言葉を遺して・・・彼の意識は混濁へと呑まれた。

 十分程前ーーー

「何じゃこりゃ・・・」
 ドアを開けた彼が口にしたのは先ずーーーその一言だった。
 眼前に広がる光景。
 床に敷かれているのは、絨毯だ。恐らくとことん上等な部類に入る逸品だろう。
 しかし・・・台無しだ。
 床に敷かれた絨毯のその更に上に、無数の酒瓶が無造作に置かれており、散乱しているのだから。
 だが・・・それ以上の要因が在る。
「くぅ〜〜〜!うまい!」
 要因は、端的に言って・・・
 酒臭い。
 実に酒臭い。とにかく酒臭い。これでもか!と、酒臭い。
 部屋全体にその酒気は充満し、居るだけで少し頭がクラクラしてくる程なのだが・・・とにかく声はかけねばならない。まともな返答など到底期待は出来ぬだろうが、それでも今は、この『酔っ払い』・・・いや『希望』に全てを託すしかない。
 それ程今の状況はーーー切迫しているのだ。
「なぁあんた、食い物持ってないか?」
 男がーーー振り向く。
「・・・お!気がついたのかよ!凄い怪復力だな!・・・で何だ?食いもん?」
 横島がその問いに頷くと、男は喜色満面で、手にした酒をこちらに投げつけてきた。何とか受け止める。
「そうこなきゃな!やっぱ一人で呑んでても・・・」
「違うっ!」
 投げ返す。男は酔いを感じさせぬ反応速度で、しっかりと酒をキャッチした。瞳に剣呑なモノが宿る。
『何だぁ、てめぇ・・・俺の酒がのめねえってのか?』
 酔っ払いのお決まりともいえる台詞を、男は吐いた。『あんたの酒でないだろ』などという正常な突っ込みをいれる理性は、頭の片隅で厳重に封印されているらしい。
 しかし。
 平時なら怯むところだが・・・今の横島は違っていた。
「俺が欲しいのは食い物!今すぐ腹に何か入れんと、う、飢え死・・・に・・・」
 限界はーーー唐突に。
「あ、おい!」
 横島はーーー倒れた。流石に男も言葉を失う。
「しゃーねーなぁ・・・ちょっくら何か探してきてやるよ!」
 そう言い残し、男は別の部屋へと入っていった。
 ーそれから五分後ー
「ほれ」
 死の手がじわじわと、近づいてくるのを実感し、半ば幽体離脱
していた横島が現実へと引き戻せたのは、男のその一言・・・ではなく、男が自分の顔の側に置いた5枚パンがのせられている、皿のおかげだった。
 取るべき行動はーーー一つしか無い。
 食う・・・喰いつくす!
 餓鬼を連想させる形相で、横島は無我夢中にパンを食って食って食いまくった。
 それをただジッと見ながら男は・・・思い出した様に一枚の紙きれをズボンのポケットから取り出した。
 横島の耳にも聞こえる様、紙きれに記された内容を声を出して読み始める。
「略式名、トリパン。材料は、バター、小麦粉、砂糖、脱脂粉乳、加工脂油・・・」
 それからも、しばらく男は材料名を朗読し続けたが、横島はとくに注意を払わなかった。一日ぶりの食事に満足し、至福の表情で床に寝転がり、眠たげな眼をして大あくびをする。
 男は気にせず読み続けた。
「ふむふむ・・・トリカブトとマンドラゴラの根の粉末?」
 ーーー瞬間。
 ビシッ!横島は口を大きく開けたまま、凍りついた。
 男は気にせず読み続ける。
「シリカケル、各種デンジャラス・ハーブ、禁制魔法薬品、改良自白剤、秘境で採取した幻覚キノコの品質改善版」
『ガフアッ!!!』
 横島は血反吐を吐いた。
『な、何食わしはるんですくゎぁぁ・・・』
 横島は立ち上がりかけてーーー昏倒した。
 ・・・男は気にせず読み続ける。
「効能として・・・このパンを食した者は、三日以内までの辛い事、恥ずかしい事、忘れたい事などを、昏睡状態に入った数時間
の間・・・独白し続ける、か・・・なるほど」
 男はチラリ横島を見た。早くも問答無用でうなされている。
 ポリポリと頭を掻いてーーー男はこう言った。

『ま、いい酒の肴が出来たと思えばいいか・・・』

 どれ程罵りたくとも、あるいは殴り飛ばしたくとも・・・そうする事叶わずに、横島は安らかに眠り・・・うなされ続けた。

『美神さ〜ん、ロープ無しでバンジージャンプはいや〜〜〜おキヌちゃんもそんな冷たい目してないで助けて〜〜〜・・・』

 ーその様子を尻目に、男は今度は日本酒での連続一気呑み記録樹立に挑戦し始めたー



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