ザ・グレート・展開予測ショー

あなたをScandal!【5】


投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/11/ 1)



(フッ。いいぜ、横島。やはりお前が一番俺を熱くさせてくれる。そう、悪霊よりも魔族よりもな!)
そんな事を考えながら、脳内のスイッチを切り替える。
視界がクリアーになり、雑念が消えていく。認識野内から余分な情報(主に呟き続ける半吸血鬼とか)が淘汰され、戦闘への興奮と期待、そして歓喜のみが彼の身中を満たしていく。
自分の本質が戦闘者である事をなにより実感する瞬間だ。

(相変わらず、なんつー嬉しそうな顔だよ。バトルマニアめ)
呆れたように、それでいて決して嫌ってはいない口調で呟く横島。
その彼の頭の中でも――

『んしょ、んしょ』

――ちびちびルシオラがちっちゃな両手に精一杯の力を込めて、自分の身長ほどもあるレバーをかっちょん、と切り替えた。
レバーの位置が【マジモード】を通り越して【鬼モード】に入っているが、ここは笑って許してあげるべきだろう。だって頑張ったんだし。

「いくぜ……」
言葉少なに戦闘開始のゴングを告げる雪之丞。

「ああ……」
こちらも短く答える横島。

「横島さん……雪之丞さん……」
心配そうに二人を見つめるピート。

「……………」
ピクリとも動かないタイガー。



――そして、唐突に戦いは始まる。

「はぁっ!!!」

軽捷な歩法で一気に間合いを詰める雪之丞。
半身になってやや腰を落とし、待ち受ける横島。
横島のマジ顔に見惚れるピート。
ピクリとも動かないタイガー。

「喰らいやがれぇっ!!」

渾身の拳撃を叩き込む雪之丞。
ダッキングでかわし、懐に滑り込む横島。
胸の高まりが抑えられないピート。
ピクリとも動かないタイガー。

「沈めっ!」

鼻先が雪之丞の胸元に触れるほどの距離から肘を顎に向かって放つ横島。
頬の部分の装甲を削られながらかろうじてかわしつつ横島の脇腹に膝を叩き込む雪之丞。
横島の身を案じてハラハラのピート。
ピクリとも動かないタイガー。

「ぐうっ!」

一旦間合いをと、膝を喰らった脇腹を抑えつつ後ろに跳び退る横島。
それを許さず更に間合いを詰める雪之丞。
失神寸前のピート。
ピクリとも動かないタイガー。

「貰ったぁぁぁぁっ!!!」

ほぼゼロの距離から霊波砲を撃ち放つ雪之丞。
あえて躰ごと突っ込む事で霊波砲をかわし、雪之丞の胸元にサイキック・ソーサーを叩きつける横島。
ハンカチを振って喝采を挙げるピート。
ピクリとも動かないタイガー。

――そして爆発。

「くうっ!!」
「かっ…はぁっ!!」

サイキック・ソーサーの爆発で互いに吹き飛ばされ、再び数mの距離をおいて睨み合う二人。
雪之丞の魔装術は胸部装甲にひびが入り、横島の口からは一筋の血が零れている。

「流石だな、横島……」
「ああ、お前もな」

ニヤリと不敵に笑いあう二人。お互いに大したダメージを負っていないのが分かる。

「やっぱり、お前をやるにはこれしかねえな……」
そう言って、魔装術を解く雪之丞。
今まで全身に張り巡らされていた霊力が一点――右手に集中していく。
収束された霊力は擬似的な物質化を起こし、水晶のような質感と篭手の形を持って彼の右手を覆い、具現化した。
「かおりの『水晶観音』にヒントを得てな。二人で色々と実験した成果だ。防御力を捨てた分、威力・貫通力は魔装術の比じゃ…………なんだよ?」

ふと見れば、彼の好敵手がジト眼でこちらを睨んでいる。

「…………のっ…」
「の?」
「惚気てんなぁぁぁぁっ!!」

いきなり大噴火する横島。

「彼女と色々やってますゆーて、そりゃ自慢か!? 自慢なのか!? 彼女のいない人間に対する嫌味か!? ひとりもんに彼女の自慢して楽しいのんか!? だいたい神聖なGSの修行をダシにしていちゃいちゃするとは何事か! 禁止! おと―さんそーゆぅの禁止!」

涙をだくだく垂れ流しながら雪之丞に食って掛かる横島。
もっとも、彼の妄想世界の中では既に「雪ちゃーん」「かおりーん」などとお互いを呼び合う二人が、彼女の作った手料理で「はい、あーん♪」なんぞとやらかしてくれているのだから無理もない。

「ちょ、ちょっと待て! い、今はそんな事関係ないだろうが!」

などと言いつつも否定はしない雪之丞。コイツもなかなかいい性格をしている。
実際、心当たりは結構あったりするし。

「――殺ル! 必殺と書いて必ず殺ス!」

何か悪い電波でも受信したのか、鬼火揺らめく視線に本気の殺気を込めて雪之丞を見据える横島。
雪之丞の背中に、ツツーと冷や汗が流れる。

(殺らなきゃ………殺られる!?)

と、こちらも本物の危機感を感じて身構える。
既に両者とも、当初の目的やその理由の追求はどうでも良くなっていた。







空宙にジャンプした雪之丞に、サイキック・ソーサーを投げつける横島。
だが雪之丞は、手足から霊波を放出する事によって空中で軌道を変え、横島の必殺の一撃を難なくかわす。
魔装術を纏わぬ今の状態では、攻撃はすべからく避けるしかない。水晶の篭手で薙ぎ払う手もあったが、叩き落すと起爆するのではそれも遠慮したい所だ。
それにしても――

「霊波刀はどうした! 文珠を出せよ、横島!」

未だに横島はサイキック・ソーサー以外の霊能を殆ど使っていない。せいぜい手足に霊力を込めた攻撃をして来たくらいだ。

――俺はナメられてるのか!?

雪之丞の頭にカッと血が昇る。

着地と同時に地面を蹴った。
低く低く上体を這うように屈めて突進する。
魔装術の無い状態で取るべき行動ではなかったと気づいたのは、自分の足元半歩先に地雷の如く転がされていたサイキック・ソーサーを発見した時だった。
「―――!!」
滑り出ようとする叫びを喉の奥で噛み殺し、直感的に判断する。回避は不可能。体勢が悪すぎる。突っ込んだ姿勢の為ウェイトシフトが間に合わない。防御も駄目だ。自分の霊力は今、全て右手に集中している。ならば――――跳ぶしかない!

跳躍。空に跳んだ足裏を追いかけるかのように爆光が膨れ上がる。
爆風に押し上げられた躰が、大気の濁流に揉みしだかれながら高く高く運ばれる。

「地雷とはやってくれ・・・・・・・・・・何ぃっ!?」

身を捻って地上に視線を転じた雪之丞が目にしたのは、視界いっぱいに広がる巨大なサイキック・ソーサー。
そして、巨大な霊盾を頭上に掲げてニヤリと口の端を吊り上げる横島。

「相変わらず化かし合いになると弱いな、雪之丞」

雪之丞の頭の中で警鐘が鳴り響く。

避ける事は? NO!
空が飛べない限り不可能だ。

耐える事は? NO!
たとえ魔装術を使っていたとしても耐え切れないだろう。

起爆よりも先に破壊すれば? NO!
破壊したとたんに爆発する。あれはそういうモノだ。

NO! NO! NO! NO! NO! NO!

「…………やられたぜ」

――墜ちてゆく。

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