ザ・グレート・展開予測ショー

あなたをScandal!【4】


投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/11/ 1)



しまった、と気づいたときには既に手遅れだった。
おかしいとは思っていたのだ。次々にサイキック・ソーサーを投げつけてくる横島。それをことごとく回避して見せた自分。この時点で気づくべきだったのだ。

次から次へと投擲される霊盾の連撃を、何故一発も喰らわないのかを。

地上8メートルの宙空に浮遊するピートの周囲を、常とは形の違う五角形をしたサイキック・ソーサーの群れが、まるで包囲するかのように旋回していた。

いや、実際に包囲しているのだ。
その証拠に、ピートが移動しようとするたび、その進行方向を塞ぐように動き続けている。

「くっ……危険だけど、撃ち墜とすしかない!」

意を決し、自分を中心にワルツを踊る霊盾の流れに、光撃を撃ち込もうとしたその時。

「ダンピール・フラッ………なぁっ!!?」

一瞬にして、計十二枚全ての霊盾が同時に畳ほどの大きさに巨大化してピートを押し包み、周囲の空間と断絶してしまったのだ。

「こ、これは…サイキック・ソーサーの檻?」

十二枚の五角形が組み合わさって形作られた、正十二面体。
霧と化した半吸血鬼にすら逃亡を許さない、完全な密閉空間。
横島の職人芸とも言える匠の技である。

ピートは、自分が罠に囚われた事を自覚した。

「手荒な事はしない方がいいぜ。霧になっても無駄だしな」

地上で雪之丞と交戦中の横島が、視線だけを向けてにやりと笑う。

確かに彼の言う通りだった。サイキック・ソーサーは自壊の際、霊的な爆発を起こす。無論、爆発の有無は術者たる横島によって制御されるのだが、この場合は霊的な攻撃に反応し、自動的に連鎖起爆するのだろう。たとえ己が身を霧に変えていたとしても、爆圧の逃げ場のない密閉空間内で全周囲十二方向からの同時爆破を喰らってはひとたまりもない。

やられた、と思った。
同時に流石、との思いがこみあがってくる。

まったくなんて少年なのか。
自分はこれでも星霜を重ねたダンピールなのだ。
比べて彼は、一年前までは霊能の欠片すらなかった只の煩悩高校生だったと言うのに。
その彼が今現在、自分を凌駕する存在として目の前に立っている。
なんという成長力。なんという逞しさ。

(横島さん、あなたは素晴らしい・・・)

ピートは素直に、心の中で彼を賛美した。
横島の事を改めて認めると共に、彼を信じる心も復活してくる。

(そうだよ。だいたいあの横島さんがロリ○ンになるはずがないじゃないか。きっと何か理由があるはずなんだ。それを確かめもせずに決め付けるなんてボクってヤツは・・・・・・)

正十二面体の檻の中で、腕を組んでウンウンと一人頷く。
檻そのものは彼の浮遊能力が途切れたためにゆっくりと下降し、ふわりと地面に軟着陸した。

(こんな事をしてしまったボクを、彼は許してくれるだろうか? 友達のままでいてくれるだろうか? 嫌われたら嫌だな・・・・・・)

ふと、そんな不安が首をもたげてくる。

(そうだ。事が終わったらちゃんと彼に謝ろう! たとえ許してくれなくても、ボクの気持ちを彼にしっかり伝えるんだ! それに彼ならきっと判ってくれる。だって、あんなに優しい彼だもの)

――さて。
暗闇の中で服のボタンをかけた経験がお有りだろうか?
何処かでひとつかけ間違えたとしても、最後まで終わって裾の長さを確認するまで間違えた事に気づかない。

(やっぱり、あの優しさが彼の魅力だよな。うん。まぁ、主に女の子にしか向いてないのが残念だけど……。ちょっと、彼女達が羨ましいかな?)

自分の後姿を肉眼で見る事が無いように、誰しも己の心の内を100%把握出来るものではない。
しかし、本人が認識してるしてないに関係なく、見えざる真実というものは確かにそこに内在し、目覚めの時を待っているのだ。

(ああ、そういやこの檻って横島さんの霊力で出来てるんだよな。なんだか温かいなぁ。横島さんのヌクモリか〜。フフ、何だか抱き締められてるみたいだ・・・)

「・・・・・・って、なに言ってる、自分!!!」

危うく新しい自分を発見してしまいそうになり、一気に顔色が真っ青になるピート。思わず絶叫。

(いやいや、れ、冷静になるんだピート! さっき横島さんを逞しくて素敵で憧れると思ったのは、やましい気持ちからではなく、純粋にGSとして、男として感じたんだ。・・・・・・・・・・・・つ〜か、素敵ってなんだよ!? 危ないレベル増えてるじゃないか!!)

内なる思考中、いきなり増えてしまった「素敵」という単語に身悶える。

(冷静だ、冷静! 良く考えるんだ。今のボクの状況を冷静に判断するんだ。え、え〜と、ボクは横島さんの強さとあまりの成長速度にトキメキを感じてしまって‥‥‥‥だからトキメキってなんだ! いいんだ、いいんだ。無意識に考えた事だから他意はないんだぞ! ああ、そうだとも! 好きとか嫌いとかは関係ないからな!)

「‥‥‥って! 無意識の方がヤバイじゃないかっ! しかも、好き嫌いまで出てくるしっ?!」

ピート、激ヤバである。ある意味、大ピンチ。

「ち、違うぞ!! 愛なんて芽生えてないぞっ!! 誓って絶対だっ!! そう、強敵と書いて“とも”と呼ぶ。まさしく横島さんは“とも”だ!! だけど“とも”って“ホ○”と似てるな〜‥‥‥‥‥‥‥‥って?! どうして其処に行き着くんだよ、ボクは〜っ?!」

それは決して気付いてはいけない、デンジャーな事実だった。
もう精神崩壊一歩手前のピート。
新たなる世界への扉は、既に彼のすぐ目の前にあった。







「――状況は?」

ごちゃごちゃと機械で覆い尽くされた戦闘指揮車両の中で、それだけがやたらと異彩を放つ学校机に肘を突いて顔の前で指を組んだ少女――愛子が、この作戦におけるパートナーにして共犯者たる少女に現状の報告を求めた。

「タイガーさんに続いてピートさんが無力化された模様です。雪之丞さんはまだ交戦中」

スクリーンを見つめていた少女――小鳩が淡々と答える。その能面のような表情の中には、友人の身を案ずる様子は何処にも見つからない。

「そう。でも、時間の問題ね……」

スクリーンに釘付けのかおりと魔理に聞こえないように気を使いながら、小さくひとりごちた。
続いて、軽く舌を打つ。
男連中が思ったより使えない、というのは誤算だった。
どうやら横島は、文珠も霊波刀も使わずに彼らを下すつもりのようだ。
そんな彼に、まさかダメージすら与えられないとは。
これではせっかくこの薬を盛った意味も――

「その薬壜、なんですか?」
「あ、これ? メタンフェタ………ゲフンゲフン! た、只の栄養剤よ。その……ちょっとだけ容赦なく攻撃的になったり、ちょっぴり無意識の欲求に素直になっちゃったりする以外は……」

いきなり投げかけられた小鳩の質問に思わず正直に答えそうになり、大慌てで誤魔化す愛子。
そんな愛子の肩を、小鳩が「おうよ、全部わかっちょるけん」とでも言うようにポン、と叩く。

「大丈夫、愛子さんは間違ってません」
「小鳩さん……」

愛子の瞳をまっすぐに見つめ、力強く断言する小鳩。

「少なくとも、雪之丞さんはともかく、ピートさんやタイガーさんには必要な処置だったでしょうし」
「そ、そうよね。あのヘタレ共、いざとなったら攻撃を躊躇いかねないもの。こういう時にこそ、普段役に立たない連中を有効に使わなきゃね」
「全ては横島さんに更生してもらうため。目的は手段を正当化するんです」
「ちょっと後でブースター効果が心配だけど」
「大事の前の小事です」

お互いに手を取り合い、にっこりと微笑みあう。

「……それニ、どうせ捨てゴマじゃないデスカ」(ニヤリ)
「……そうネ、消耗品ヲ気ニする事モ無いワネ」(ニヤリ)

いきなり黒いオーラを立ち昇らせ、昏い笑みを浮かべあう二人。
言動もいきなり電波っぽくなって、実に怪しい。

そんなほのぼのと邪悪な空気の流れる中――

「こ、小鳩〜…お前、どないなってもうたんや〜…」

その様を見ていた福の神の貧ちゃんが、部屋の隅で耳を塞ぎながら二人のあまりのえげつなさにガタガタ震えていた。







「そんな! ウソだ! ボクはっ!! ボクはーーーーーーーーっ!!!」

なにやら壊れた様子で、抱えた頭を檻の内壁に叩きつけているピート。
傍で見ているとかなりヤバ気でアレな光景である。

「こ、これで一対一だな、横島!」
そんなピートをなるべく視界に入れないようにして、必死に無視を決め込む雪之丞。もっとも、額をダラダラと流れる油汗が彼の努力を全て台無しにしているが。

「そ、そうだな、雪之丞。GS資格試験の時を思い出すな!」
と、こちらも視線を懸命に逸らしながら横島。
二人とも完全に腰が引けている。

「まぁ、とにかくだ。いっちょ、サシの勝負といこうじゃねぇか」
愛子に投与された薬物のせいか、それとも単に地なのか。
既に当初の目的をすっぱり忘れて、格闘マンガなノリの雪之丞。
不敵な笑みを口の端に浮かべながら、魔装術に包まれた右腕を挑発するようにぐいっと突き出す。

「ああ! いつでも来い!」
こちらもノリノリで答える横島。
普段の彼ならば「嫌じゃー、なんで俺が男なんぞとマンツーマンでビシバシやらんとアカンのやー」とでも言いそうなものだが、そこはそれ、傍らから流れて来る「…そんな…ボクが横島さんを…」とか「…愛?…これは愛なのか?…」といった呟きを聞こえないようにするために必死なのだ。



――かくして、なんとなく腰砕けの状況ながら、横島と雪之丞の決戦の時が到来した。

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