ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(真実)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/29)




 ー終曲ー



 夜の道を独り、歩く。
 すれ違う者はこちらの不快な思いが現れてるであろう眼差しやら、身を包むオーラやらに気づいて足早に去るだけ。
 コツコツと、自分の足音だけが妙に大きく聴こえる。
 既に陽は落ち深夜ーーーそう言ってもいい、こんな時間でも、この付近一帯に人の姿が見えなくなる事は無い。
 いや、違う。
 向こうに見える、特に何の変哲も無いであろうビル。
 そのビルが今はーーーこの夜の宵闇を押し退ける様に、銀色の光で覆い尽くされている。
 あそこなのだろう。
 きっと、間違い無く、あのピルの屋上で顔見知りの連中が、例の写真に写った銀髪の男と戦りあっている。
「・・・ち・・・」
 彼はそこから目を背けた。
 助太刀に行く事は出来ない己が置かれた立場を苦々しく思い、歩きはじめる。
 そうする内にーーー脳裏に甦る言葉。
『狼牙を、Gメンに譲り渡してもらいたいの』
 その場にいた、たった五人。
 神族、魔族をも含むーーーその五人しか知る事の無かった会話を、彼は、思い出していた。


「・・・何語がいい?」
 即座に彼は、そう言い放っていた。
『・・・は?』
 それについて応えたのはーーーこちらを静かに見つめ続けている女性では無く、後ろにたたずむ二人だった。
『果たして一体こいつは何を言っているのか?』と、正解でなくともそれに近い意味を込めていると知れる一言を口にしたのは、魔族のジーク、神族のヒャクメ・・・その二人。
 そちらには向きもせずにーーー続けて言う。

「日本語がいいか?ま、俺の語学力だと、後は英語と中国語でしか『嫌だね!』たぁ言えないが」

『雪之丞!』
 そこでようやく、彼の言いたい事が理解できたらしく、ジークの眼差しが険しくなる。
『貴様、話もちゃんと聞かずに・・・』
 その言い様は妙に彼の気に障ったらしく、ジークは険しい表情のまま近づき、雪之丞に掴みかかろうとーーー・・・
「ジークさん」
 割り込むのはーーーどこまでも落ち着いたーーー声。
 掴みかかろうとしたジークの手が、それを払い横面を殴り飛ばそうと身構えていた雪之丞の拳が、それぞれ動きを止める。
 割り込んだ声のーーーその女性は疲れた様に、一つ息を吐き、やがて再び口を開いた。
「雪之丞さん、今から話す事をよく聞いて下さい」
 答えない。雪之丞は沈黙し続ける。
 その女性ーーー美智恵は、その沈黙を了解と受け取り、更に言葉を続けた。
「狼牙は・・・」
 そこからは・・・語るに難い内容なのか、珍しく彼女が言い淀む。静寂が覆う。
「狼牙は・・・何だよ?」
 雪之丞の言葉を受け再度、彼女が口を開いた。しかしどこか・・・その表情は暗い。少なくとも雪之丞の目にはそう映った。
「狼牙は・・・元々は廃棄される予定だったの・・・」
 彼女はそう言い、そして・・・

「もう一度言うわ、よく聞いてほしいの・・・あの時何故エミさんとタイガー君があの屋敷の付近にいたか、何故月神族の彼女が貴方に接触したのか、そして・・・貴方達を襲った黒装束達は一体何者なのか・・・」

 ーそして、あの時に雪之丞が結局、知り得なかった真実が、彼女の口から紡がれはじめたー


「美神さん・・・美神さんっ!」
 必死にそう呼びかける。
 幸運だった。
 あの時ーーー落下する彼女を追うのが、身体を霧に変え飛翔する事が可能な自分で無かったら、間違い無く彼女は重傷を負うか、あるいは・・・ピートはその考えにゾッとした。
 横島の文珠やマリア、魔鈴のホウキ・・・ピート以外にも飛行が可能な者はいるが、他者を霧に変える事も出来るピートでなければ、この場合彼女を救う事は難しかったろう。
 実際・・・ピートは美神に追いついたのではない。
 ただ地面スレスレでーーー彼女も霧に変える事が可能な距離に入る。ただそれに成功しただけなのだ。
「美神さんっっ!!!」
 再度、自分の腕の中の女性の名を呼ぶ。
 応えはーーー返らない。
「駄目なのか・・・くそっ!」
 いつまでもこうしてはいられない。この辺りの人達が騒ぎ始めている。ましてやタイガーが一人であいつと・・・
 やむなく美神をソッと横たえ、屋上に向かおうとした時。

「待・・・ちなさい・・・っ!」

 驚き、ピートが振り向くと、足元もおぼつかない・・・しかしそれでも闘志だけは呆れるほどに衰えぬ瞳で、真っ直ぐにこちらを射抜いてくるーーー


 『美神令子』が、そこにいた。





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