ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(閃光)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/28)




 ー終曲ー



「美神さんっっ!!!」
 響くーーー絶叫。
 それが自分の発したものだと気づくよりも迅く、金色の髪たなびかせて、ピートは走りだしていた。
 目指すは一つ。
 頬をかすめていく夜風を感じながら、今やゆっくりと・・・降下し始めた美神の姿を見据えてーーー跳躍する。

 ーーー否、跳躍『しようとした』ーーー

 ドグァ!
「ーーー!?!」
 一瞬、呼吸が停まる。
 跳躍しようと、溜めに費やした一瞬。その瞬き数回程の僅かな瞬間に、まるでダンプカーに跳ね飛ばされた様な衝撃が、横からピートを襲った。
「が・・・がは・・・っっ!!ゲホ、ゲホ・・・!」
 灼けつく様な苦しみと、重く鈍く、間断無き痛み。
「・・・ガ・・・ッ!」
 無防備になったところを狙いすましたその一撃は、常人よりも遥かにタフな肉体を持つバンパイア・ハーフの彼にでなければ、まさに『必殺』のものだった。
「ピートッ!」
「!」
 グガシャァ!!
 かろうじてーーーとしか言えない様な、這うような形で、降りかかる『とどめ』の追撃を回避する。
 心の中で旧知の友に礼を言い、息荒いまま、顔を上げる。
 そこで、彼はーーー見た。
 咳込みながらも、濃密なる殺意を漂わす『敵』へとーーー目を向けた瞬間、その『存在』と視線が絡む。
 彼はーーー見た。
 月の光を受け、更に強く輝きを放つ、流麗なる銀の髪。
 美麗にして、力強さまでもを備えし、輝く銀の鎧。
 こちらを見下ろすその姿は、以前目にした神話の中にのみ存在する『英雄』の様に、雄々しく神々しい。
 息を呑む。
 もしーーーこの瞬間にーーーその銀の化身の後ろに、見知った女性が意識の無いまま、落ちゆく姿に気づけなければーーー
「っ!美神さんっっ!!」
 ーーー口惜しいが、恥じるべきだがーーー
『行かせはせん!』
 ーーー見惚れていた。
「邪魔だーーーそこを退け!」
 叫ぶ。
「退けぇ!」
 叫ぶ。
 見知った女性の窮地を救う為。先の感情を真っ向からーーー否定する為。
 精一杯、喉の奥からふり絞った叫びと共に、ピートは痛みを堪え、臆する事無く飛び出した。
『馬鹿が・・・格好の的だ!』
 修羅の腕が、更なる銀色に輝く。
 その輝きにより、向かってくる金髪の青年を打ち砕こうとしたーーーその時。
「させん!」
 注意を払っていなかったわけではないがーーー声の方向から飛来したのは、破邪の力を持つボウガンの矢だった。
『ち!』
 そんなものに貫かれない自信はある。それでも万が一の事態を想定した故の迷いが、隙になった。
 見逃すピートではない。
「精霊石よ!」
 その一瞬の隙をつくーーー先のお返しとばかりに、ピートは常時携帯している精霊石を投げつけた。
『!しま・・・』
 気づいた時は遅く、精霊石はまばゆく輝き、彼の視界を白く染める。
 苦し紛れに振り回した左の拳が脇腹の辺りをかすめ、舞い散る紅い飛沫。鋭い痛みを無理に堪え、ピートはーーー

「間に合え!」

 ーーー落下する美神を追い、己が躯を霧と変え、迷わず虚空へと舞ったーーー


 閃光は霧散しーーー再び銀光が場を覆い尽くす。
『やって・・・くれたな・・・』
 残されたのはーーー相対する『修羅』と『虎』ーーー
 光はそのまま、眼前の二匹の『虎』さえも覆い隠す程になり、周辺は真昼の如く化していた。
 流石に階下がーーー騒がしくなる。
 そんな事はよそにし、これまでにない『力』を前にしたタイガーは、それでも一歩も退かずにいた。うっすらと、蒼白く輝く『虎』が威嚇の唸り声をあげる。

 タイガーは、ぼやいた。

「またこうして・・・魔装術相手に戦りあう事になるとは、因果な巡り合わせジャノー・・・」

 ー憂鬱そうにそう呟いて、タイガーは構えをとったー




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