ザ・グレート・展開予測ショー

過去独白 (マーロウ美神令子を語る その11)


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/10/27)

人間の女の子は、今、置かれている状況に馴染んで、その役割を果たそうとするらしい。
嬢ちゃんも高校生時代も御多分に漏れずでね。だからこそ、悲恋の話しが生まれたんだ。
最も、
この話は二人の間で無い事になっている。だから、嬢ちゃんに尋ねても否定するさ。
いいか、今回の話しだけは、誰にも絶対言うな。
嬢ちゃんも、美智恵のママさんにも、公彦のヤロウにも、そして唐巣神父にもだ。
約束出来るか?
・・・・・。
・・・いいだろう。俺も腹を括ろう。
前日から風も無いのに雨が降り続く嫌な天気だった。
「まったくもぉ。貧乏でいやねぇ」
この頃の口癖だよ。雨漏りがそこかしこにあって、自然の文様を床に作っている。
そこにモップをかけているがね。際限無く思える滴りは後から後からだ。
「もぉ!やってらんないわ!!」
柄を放り投げたのも、当然だと俺は思う。
そのモップが唐巣神父の顔面にストライクさ。
「きゃぁ」
眼鏡が割れなかったのが不幸中の幸いであったらしいな。
「令子君。もうすこしおしとやかに行動できないのかね?」
無理だな。
「わ、悪かったわね。でもこの安普請がいけないのよ!」
な。こんな事を言うようじゃ、おしとやかとやらは、嬢ちゃんに求めない方がいいな。
「さて、と。バケツを持ってきました、もうモップはいいですよ、と言いたい所ですが」
にやっと、笑って、
「バツですよ。もう少しやりなさい」
「え〜〜〜〜」
そら、そうだろうよなぁ。
「何がえ〜〜〜〜〜ですか、教会なのに、礼拝を免除してもらってるだけでも感謝なさい、それから食事ですよ」
食事ってアレかぁ・・・こらとっとと帰りたい所だが、
「もぉ、こんな雨が降ってるのに、モップがけなんて意味ないじゃない・・」
そうなんだよなー。春雨じゃ濡れて帰ろう、なんて状況じゃなぇしな。
濡れるか肉か、そこが問題だ。
風邪を引いてもしかたがないか。1日ぐらい、魚の骨で・・。
今日は停めてもらうか。という事を伝えたくて、俺は嬢ちゃんの足元にいくわけだ。
嬢ちゃんにとっては、俺がじゃれてるようにしか思えないだろうな。
「こらっ、くすぐったいよ、マーロウ。甘えんぼさん」
はぃ?あまえんぼさん、って嬢ちゃんどーゆー心境なんだぁ?
「今日も教会に停まる?そうなると食事は・・ゴメン!野菜の残りくずしかない」
ほ、本当かよ、唐巣神父?
「そ、そうなんですか?令子君」
神父が頭を掻いていると、
「神父?私は今日、買物を頼んだハズよ。それなのに、ほっぽらかして」
「いや、ほっぽらかした訳では・・・」
「喜捨したのね」
言葉に詰まってるなぁ。唐巣のオッサン、貧乏人に金をくれてやったのか。
モップ越しに嬢ちゃんだが、怒るでもないのが意外でね。
「まったく。いい性格してるわよ」
にしても、野菜の残りくずかぁ。選択間違えたかな。
でだ。
野菜の残りくずてぇのは俺の食事だけかと思ったら、大間違いでね。
嬢ちゃんの作った料理は、野菜の残りくずにブイヨンのスープ、人間様はパン付き。
これじゃ俺、文句は言えねぇなぁ。
「神父、ワインはどうします?」
「頂きましょう。せめてこのぐらいの、ささやかな贅沢ですよ」
「私も飲んでいい?、ささやかな贅沢よ」
ワインってのはアルコールだろ?嬢ちゃんは飲んじゃいけない歳のはずだよな?
「いいでしょう。味わう程度ですよ。マーロウ君はどうしますか?」
おっと、犬の俺にアルコールを飲ませるんじゃないよ。
だが、嬢ちゃんの味わう程度とは、グラスで一気にあおる事らしい。
酒に強いのは、ママさんの遺伝かな?
「こら、もうやめなさい、飲みすぎですよ」
「はーい」
そして、食事が始まる。俺は早速皿に口を、と思ったら、
「待てッ、マーロウ。御祈りをしないと駄目よ」
えーと、嬢ちゃん何時の間にクリスチャンに?
俺の疑問を余所に、天にましますナントカ様、今日のどうたらこうたら・・
と、唱え始めて、
「アーメン」
と、唐巣神父が決めてから、食事になる訳だ。
まぁ、俺がアーメンといった処で、『ワン』にしか聞こえないだろうから、
こればっかりは、許してもらおうか。
「そういえば」
嬢ちゃんがパンをほおばった後、唐巣神父の胸元を見て、
「そのロザリオって私が修学旅行の御土産に買って来た奴でしょ?」
「えぇ。そうですよ、大きくなく、小さくなく、手頃ですし、でも・・」
胸元に光るロザリオ、つまり十字架を手に持って、
「これは、単独でなく、二対でワンセット造られているロザリオでは?」
「あたりー、へへ。波紋されても流石は神父ね」
何か嬉しそうな嬢ちゃんだったな。
「そうですよね。もう一つはどうしました?、誰かと分け合って買ったのですか?」
「ううん。そんな高価な物じゃないし。私が持ってるわよ」
「へぇ。令子君クリスチャンになりたいのですか?この所食事の前に御祈りをしてるし」
「うーん、どうなんだろ、でも取りあえずはアクセサリーよ。それより神父、もう一杯」
「駄目です!」
そら、未成年にアルコールを飲ませるのは御法度だからなぁ。
夜も遅い時間で有った事も加味して、後片付けは神父がやっててね。
それから、夜の御祈りを、というのが今日の日課予定らしい。
「マーロウ君、今日は冷えるでしょうから、教会の中でどうぞ」
親切ありがとうさん、ってトコだな。
襤褸毛布まで用意して頂いて、寝床には何の不満は無い。
俺はウツラウツラしていた頃だ。雨の様子がちょいと変った。
風が出てきて、遠くで雷鳴がなっているようだ。光はまだ、見えないがね。
「さて、今日はこのぐらいに」
聖書を閉じる音を耳にしたとき、二階から階段にかけて、照明が付いた。
階段を降りる足音は紛れも無く、嬢ちゃんのだ。
「あれっ?令子君。寝てなかったのかい?」
体にはアルコールが残っていたかもしれねぇが、意識は絶対にハッキリとしていた。
「あの、唐巣神父、私、わたし」
「?どうしたのです」
嬢ちゃん、ゆっくりと、息を吸いこんだ。
「神父、私クリスチャンになります。貧乏にも耐えます。だから」
俺は、この場にいていいのか、だが・・・。
「だから・・。ううん。私、唐巣神父、いいえ唐巣和宏さんを・・・」
稲光だ。何時の間にやら、この町内が雷神の標的になっているようだ。
俺の耳に残っている嬢ちゃんの口にした言葉は『愛し』という所までだ。
立続けに何発も雷が落ちている。
だから、嬢ちゃんと神父の詳しい会話は聞こえなかった。
俺は耳を塞がねば、鼓膜がいかれちまうほどの雷鳴だったんだ。
「駄目です」
という唐巣神父の厳かな言葉、これが雷が終わった時、俺の聞けた単語だ。
「令子君!!!!」
顔を隠しつつ嬢ちゃんは玄関を開けた。風雨が教会を一瞬舐めた。
何故だ?俺は神父か嬢ちゃんの世話をしてくれる物と思っていた。
だから、歳は離れてるかもしれねぇ。だが、・・だが、どうして?
「令子君に対しては、父親代理の積もりです、それに」
風雨で付着した眼鏡を拭いて、
「私は神に身をささげているとは、言いませんが。私が本当に愛をかんじた女の人は」
その時、美智恵ママさんの名前が出た時はさすがの俺もびっくりした。
びっくりしたと同時に俺は納得した。
なぁ、嬢ちゃんは、俺に任せてくれ。すまねぇがドアを。
「えぇ」
外は雷雨から暴風雨でね。しかも向い風。
「マーロウ」
雨なのか、涙なのか、俺にはわからなかった。
「また、ふられちゃった」
あぁ、そうだな。
「私って男運、ないのねぇ。プロポーションだって・・」
まっ、犬の俺には堂でもいい事だが、人並み以上だよな。
そして、俺にもたれかかった。食事の前、俺にあまえんぼさんと言った嬢ちゃんだが、
今だけは嬢ちゃんがあまえんぼさんだな。
しばらくしてから、ドアがあいた。
「雨はやみそうにありません。部屋に戻りなさい」
いつもの笑みで嬢ちゃんと俺を教会の中に入れた。
階段を一段登った時、
「嫌ね、貧乏って、私だったら、GSでガンガン儲けてやるわ」
これは俺の勘だが、恋心を誤魔化すために貧乏を嫌うようにしていったんじゃないかな。
次の日、何事もなかったかのような、天気のいい朝だが、
朝食の終わった後、嬢ちゃんの座っていた椅子には、唐巣神父がしているロザリオの、
もう一対が置かれていた。
アレがどうなったのかは、知らねぇな。吸血鬼ハーフの坊やならしってるかもね。

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