ザ・グレート・展開予測ショー

君がいるだけで(13)


投稿者名:JIANG
投稿日時:(01/10/27)

「まあ、良かったじゃないの忠夫。この程度で済んでさ」
 話が一段落付いたところで百合子がのほほんと横島に言う。
「人ごとだと思って、気楽に言いやがって……!」
「ああ、人ごとだね。でも一週間というのは好都合じゃないか。どうせ明日からナルニア
に行くんだし……」
「え!? 横島さん、ナルニアに行っちゃうんですか?」
「ちょっと、どういうことよ。横島クン!?」
 おキヌと令子が驚きと非難の声をあげる。
「い…いや、今回のはちがうんです……! それにまだ俺も行くって決めた訳じゃないし
………」
「まだそんなこと行って……! 一週間だけ、母さんたちと一緒に過ごすだけなんだから
いい加減に承知しな!」
「あ…あの、一週間というのはどういう……?」
 おキヌが不安に耐えかねて百合子にどういうことか訊ねる。
「いえね、ちょうど忠夫も夏休みだし、一回くらいは私たちが住んでいるナルニアを見せ
ておくのも悪くないでしょう? それで今回は一週間だけ家族水入らずで過ごそうかと思
って忠夫を連れに来たんですよ」
「ああ…そうなんですか……」
「ビックリした。私、てっきり……」
 百合子から答えを聞き、2人は安堵の声を上げる。しかし、当の本人である横島はいつ
の間にか自分のナルニア行きが話の流れ上、決定しつつあることを意識し焦りを感じてい
た。
「いや……あのう、まだ俺は行くとは………。それに、あんなジャングルしかないような
ところに行ったって面白くも何ともないじゃないか。」
「そんなことはないよ。近頃じゃあ外貨獲得に力を入れ始めたみたいで観光名所もいろい
ろと整備されてきているみたいだよ。ほらこれを見てご覧よ」
 百合子はバックの中から観光用パンフレットをいくつか取り出すと机の上に広げた。
「これがナルニアって国の風景なんですか。私、始めてみました」
「ここが先生の母上が住んでいるところでござるか。大きな木がいっぱいあるところでご
ざるな」
「私たちの家はちゃんと街の中にあるのよ、シロちゃん。でもちょっと街を離れると森が
ずっと広がっているのよ」
 みんなでわいわい言いながらパンフレットを回し見る。
 横島も「やっぱり緑ばっかなとこじゃないか」と悪態を付きながら最新版と書かれたパ
ンフレットを一つ手に取る。
 そこには、国立自然公園(非常に広大なもの)や旧王国時代の遺跡、ヨーロッパ植民地
時代に建てられた寺院の写真や説明文が載っている。
「こんな寺院とか遺跡とかじじむさい所に行ったって退屈なだけやないか―――」
 ブツブツと横島は文句を言っていたがあるページのところでピタリと目線が止まった。
「先生、鼻血が出ているでござるよ」
「は―――!?」
 シロに注意されて鼻を急いで押さえる。
「だ…大丈夫ですか? 横島さん」
「大丈夫よ……。どうせ、横島クンのことだから欲求不満がたまってたんでしょ……」
 令子の言葉に、美智恵は苦笑を漏らす。百合子は息子の様子をジト目で見つめ
ている。
「いやー、まいったなー」
 ヘラヘラと笑ってと照れ隠しをする横島だが、おキヌから手渡されたティッシュを鼻に
詰めながら先程まで見ていたパンフレットをクッションの下にさりげなく隠す。
「よく考えたら、母さんたちとは高校に入ってからほんの少しの時間しか会ってなかった
よな。せっかく母さんが迎えに来てくれたことだし―――。一週間でいいなら俺、母さん
と一緒にナルニアに行くよ」
 突然ナルニアに行くと言い出した横島を、ここにいる全員が不振そうに見つめる。
「ふーん、さっきまでグズっていたのにどういう風の吹き回しだい」
 百合子はなんとなくその理由を察している様子で息子に理由を聞く。
「いや……たまには親孝行するのもいいかな――っと……」
「……まあ、私は最初からあんたを連れて帰るつもりだったから別にいいけど?」
 そういって令子たちの方に視線を移す。
「あ―――、今は別にたいした仕事もないし、それにシロやタマモがいるから横島クンひ
とりぐらいいなくても何とかなるわよ」
「それじゃあ、明日から一週間ですけど休みもらっていいッスか?」
「しょうがないわね。夏場はGSにとって書き入れ時だけど、まあいいわ…。そのかわり
帰ってきたら、それまでの分もコキ使ってやるから覚悟してなさい!」
 横島の様子になんとなく納得いかないもの感じたが特に止める理由もないので承諾した
が、最後に一言横島に対する令子らしい憎まれ口を忘れない。
「ありがとうございます! じゃあ、そういうことで明日から休みますけどよろしくな、
シロ、おキヌちゃん、タマモ」
 横島は令子に了解をもらって、ウキウキしながらシロとおキヌに声をかける。ちょっと
前までナルニアには行きたくないとグズグズ言っていたのが嘘のようだ。
「えー、一週間も先生とサンポが出来ないでござるか? 寂しいでござる」
「いいなー。お母さんと海外旅行か」
 シロとおキヌは寂しそうな様子で横島を見る。
「一週間なんてアッという間だよ。おみやげ買ってきてやるから、我慢しろよ、シロ」
「クーン………先生。わかったでござる……」
 シロは情けない声を出してしぶしぶ答える。
 声をかけられたタマモもようやく起きあがると、観光用パンフレットが手近なクッショ
ンの下から顔を出しているのを見つけて、なにげなくそれを取り出して見始めた。
 そして、あるページに来ると不思議そうな顔で誰とはなく質問する。
「ねえ……ヌーディスト村って何? 夏期限定の開村って書いてあるけど………」
「あ…タ、タマモ……それは……!?」
 それは、横島が見ていたパンフレットであった。実はこのパンフレットだけはナルニア
で大樹がもらってきた今年の最新版であり、これだけにヌーディスト村の案内が書かれて
いたのだった。それを偶然にも最初に横島が手にし、クッションの下に隠したのだがタマ
モによって発掘されたのだった。
 息子の思惑の全てを理解していた百合子は苦笑して首を振る。その時に彼女と目があっ
た美智恵もなんとなくわかった様子でやはり苦笑して肩をすくめたのだった。
 横島はというとなんとかごまかそうとするが、すでに部屋の空気がそれを許さなかった。
「横島クン……。なるほどネ、それがあんたが急にナルニアに行くって言った理由なのね」
「あ、いやそれは……」
 令子の言葉にしどろもどろになる横島。
「横島さんっ、不潔…!」
 次いで、おキヌからもきつい一言を言われた横島は…。
「しかたないんやー! 少年のちょっとした好奇心なんやー! 若さ故の過ちなんやー!
男なら誰でも一度は見たいもんなんやー!」
「はいはい、わかったわかった………。それじゃあ、失礼しますね。明日空港で……見送
りに来てくれるんだったら、その時にまた会いましょう」
 百合子これが潮時だと令子たちに挨拶すると騒ぐ横島の耳を引っぱって事務所を出てい
ったのだった。

*** つづく ***

次はやっと空港に行きます。
いよいよ、横島は期待を胸に日本脱出します。
果たして少年の夢は叶うのか?(笑)
次回、日本編完結!(確定)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa