ザ・グレート・展開予測ショー

BRAND-NEW DAYS 〜タマモの朝〜 W


投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/10/25)



「おはようございます、美神さん」
「ん〜、おはよう、おキヌちゃん。ねぇ、なんかさっき地震がなかった?」

「あ、それ、タマモちゃんですよ」
「タマモ?」
「屋根裏部屋の窓から、庭にいた横島さんの上に飛び降りたんだそうです」
「飛び降りたって……」

タマモはあれでも妖怪だからいいとして、受け止めた人間は普通、死ぬ。
でも、まあ。

「横島君だからねぇ」
「横島さんですしねぇ」

それが、彼を知る者全ての認識であろう。
本人が納得するかどうかは別として。

まあ、それは別に良いとか悪いとかいうことでもない。

「それであの騒ぎな訳ねー」

呆れたような口調で、窓外の喧騒に視線をやる。
その眼差しにほんの僅か、寂しさとも羨ましさともつかぬ揺らめきが踊るのを、おキヌは見逃さなかった。

「混ざりに行きたいんですか、美神さん?」
「えっ!?…………や、やーね。なに言ってんのよ、おキヌちゃん」

頬に朱を散らしながら、慌てたように言う美神。
おキヌはそんな美神の様子に、

「ふふふ…」

と、笑った。










        BRAND−NEW DAYS 〜タマモの朝〜 W










「…タ、タマモ……なんでいきなり空から…降ってくる……」

頭から煙を噴いて地面に転がる横島。
シロを庇いさえしなければ、もう少し当たり所が良かったろうに。

「フン、だ。バカ犬なんか庇うからよ」

焼きもちの少し入った声でタマモ。
内心、ちょっとマズかったかな、なんて思っていたり。

比べて、心配なのと庇ってもらえて嬉しいのとが半々なのがシロだ。

「ああ、せんせい。しっかりしてくだされ〜」

そう言って、倒れた横島に手を伸ばす。

「ちょっと、勝手に触んないでよ」

その手をタマモがガシッと掴んだ。

「散歩中はせんせいに触れても、文句を言わない約束でござろう」

 反対の手を伸ばす。

「もう散歩は終わったでしょう」

 素早くそっちの手も掴む。

「玄関に入るまでが散歩でござる!」
「勝手なこと言わないで!」

 両の手を掴まれたままのシロと掴んだままのタマモは、至近距離で睨み合う。二人共両腕にぎりぎりと力を込めて、互いを制圧するべく口撃を飛ばし合った。

「独り占めは良くないでござる!」
「コイツはあたしのなの! ベタベタするのもイチャイチャするのもあたしだけの特権なの! 勝手に触るのは違反行為よ!」
「拙者とせんせいが仲良しなのを悪いとでも言うつもりでござるか!」
「ええ、悪いわ! それは悪よ! 社会悪よ!! テロルよ!!!」

言いたい放題であった。

今や、事務所の玄関前は戦場だった。そこへ通りがかった一般人は、不気味な二人組みを目にした途端に関わってなるものかと回れ右する。
何事かと覗き込んだ警邏中の警官も、グルルル……と昏く唸り続ける二人に見て見ぬ振りを決め込んだ。恐いし。

「あ、あのな…シロ、タマモ…もうそのぐらいに……」

ぐりん

ホラー映画のように二人の首が同時に回り、座りきった目がこちらを見据えてくる。肉食獣そのものなその眼光に、正直言って腰が抜けかけた。

「ご、ごゆっくりどうぞ……」

撤退。
生きてこそだ。

「そもそもせんせいは拙者の飼い主なんでござるから、仲良しなのは当然でござる」

ふんぞり返って胸を張った。だが、そこは自慢するところなのかは疑問が残るところだ。 
横島も、つっこむべきかとちょっと首を捻る。が、まあ天然だからなと結論付けた。シロだし。

「飼い主とぺっとのすきんしっぷは必然でござる」

フフン、と得意げ鼻を鳴らしてみたり。

「スキンシップね。ならいーわ、あたしもスキンシップするから。ただし…」

冷たい声のタマモ。ぐいっと横島の上体を引き起こした。

「……恋人同士のね♪」

両手で横島の顔を挟みこみ顎を上に向けさせると、彼が驚きの声を上げる前に、開きかけた唇を自分の唇で塞ぐ。

横島は一瞬だけ驚いた様子だったが、流石は煩悩少年というべきか、すぐに両手でタマモの肩を支え、更に強く唇を押し当ててきた。一瞬開いた歯の間から素早くタマモのの口内に舌を侵入させてくる。

タマモの目が大きく見開かれ、やがてゆっくりと閉じられてゆく。
彼の唇が熱い。
まるで、唇を通して彼の温もりがそそぎ込まれてるかのようで。
なんだかとろけてしまいそうで。

「あぁーーーーーーっ!!!」

シロがなにやら絶叫しているが、とりあえず聞こえないことにする。

おそるおそる横島の背中に手が回された。温かく、柔らかな身体が横島の胸に預けられる。

「あぉーん! ズルいでござるぅ〜、美神どの〜〜」

聞こえない。なぁんにも聞こえない。
バカ犬には後で謝ることにして。

今は。今だけは――

やがて唇の別離の時。横島はいったん顔を離し、改めて唇を重ねるだけの軽いキスを名残惜しげなタマモの口元に贈った。
ふわり、と優しく甘い、綿菓子みたいなリキュール・キス。

彼の優しさに直接ココロが触れたようで、タマモの胸に暖かさが溢れる。「好き」って気持ちが溢れる。

こつん、と額を横島の胸に当てた。
嬉しさがこみあげてくる。幸せな気持ちがこみあげてくる。

「…そういえば…まだ言ってなかったね……」

百とひとつの恋をした。百回の恋をして、たったひとつの恋を見つけた。百人の男と巡り会い愛し愛されて、最後の最後にたったひとりの君を見つけた。

「横島…あの……あのね……」

偶然と必然。
様々な要因が重なって今現在此処にいる。

「…横島……」

この弱い手を、君と繋いでいれたなら――

「おかえりなさい」

さよならのない、旅をしよう。






―END―

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