ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(魔装)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/24)




 ー終曲ー



「何だと?」
 雪之丞は思わず、そう答えていた。

 場所は変わらず、オカルトGメンの会議室。
 『大切な話があるから』そう乞われて、不本意にも友達の捜索に加わらずに、ここに残る事となっていたのだがーーー
 陸奥季綾ーーー予想もしなかった彼女の言葉。
 それに続くかの様に、まるでこちらを困惑させる為だけに現れたのかと、そう問い正したくなる様なタイミングで涌いて出てきた神族と魔族。(その内一名は、山に還った)
 そしてとどめはーーー急患として、何故だかここに運びこまれてきた、Gメンの新米捜査官達。
 その連中の治療の為、ヒーリングを使える奴は残らず駆り出される事となる。当然ーーー神父やおキヌも、だ。
 次から次へと、大切な話とやらを聞かせない様にしようと、降ってわいてくる『要因』達。いい加減付き合ってられるか!と、雪之丞が場を切り上げようとした、その時。

「狼牙の事、勿論忘れてないわよね?」

 その行動を遮るように、美神美智恵はそう言い放った。


 許せなかった。
 彼の胸の内に在るのはもはや・・・その想いだけだ。
(どいつもこいつも・・・フザけた真似ばかりを!)
 この瞬間ーーー自分が風の刃、もしくは矢を放ち、攻めたてているこの瞬間にも、おちゃらけた態度のまま、のらりくらりと避け続けている三人の姿は、彼にとって、到底受け入れ難いものだった。
 思い出す。
 主が必要とされると言ったあの男・・・タダオ・ヨコシマ。
 そのタダオ・ヨコシマを、少なからず不本意な手段とはいえようやく捕らえようとしていたところを、割って入り、邪魔してのけた見知らぬ・・・名前さえ知らぬ、あの男。
 許せない。
 その二人も、今こうしてこちらを小馬鹿にし続けている連中も、実力はあるというのに、とことんふざけたやり方ばかりでこちらをまともに相手にしようとしない。
 バンパイアの能力で、身体を霧に変え・・・それを時にはもう一人の巨体の男と共に行い、身を守る金髪の男。
 自分の身に降り注ぐ刃、矢だけを・・・言いたくはないが、見事なまでの鞭さばきで弾いていく女。
 解る。いや、解らない。
 解る事。
 それはーーーこの三人は、能力は別にしたとして、技能においては確実に、自分よりもーーー上だという事。
 解らない事。
 それはーーーただひたすらにその回避を続けるのに、一体どれ程の経験、予知、予測能力が要るかという事。
 そして何よりこいつらは、それだけの力量がありながら、何故あくまで向かってこようとしない?
 そこまで考えが及んだ時、ようやく彼は気がついた。
 血が登っていた頭に理性が戻り、冷静な判断力が甦る。
 彼はピタリと攻撃の手を止めた。キョトンとして、やがてつまらなそうに鞭を片手にした女性が口開く。
「ふ〜ん・・・クールな外見と違って気が短いと思ったら、意外と早く立ち直るじゃない・・・このままの勢いで霊力使い果たしてくれたら、楽に監禁、そんで拷問出来たのに・・・」
 いかにも残念そうに言う彼女。
 彼女のその言葉に、銀髪の男よりもむしろ・・・彼女自身の仲間達の方がおののき、表情を強ばらせている。
「美神さん・・・」
「とことん恐ろしい人ジャナ・・・」
 美神はボソボソ言う二人を一喝し、次いで銀髪の男の方へと振り向いた。
「さて、予定通りに事は運ばなかったけど、あれだけ乱発したんだし・・・」
 鞭でピシィ!と足元を打ち鳴らし、挑戦的な瞳を向ける。
「覚悟はいいわね?そうじゃなければ今の内に・・・」
「ふ、ふふ・・・!」
 男の身体が、震える。
「今の内に、横島君の事を・・・て、な、何!?」
『ふふふ、ぐ、グオオオォ・・・ッッ!!!』
 美神の・・・否三人の目前で、異様な変化が起こり始めた。
 黒衣が盛り上がり、裂ける。その下から覗くのは、どう見ようとも人の肌とは思えないーーーまるで何らかの鉱物が如き、硬質さを感じさせる、何か。
 鎧。
 その鎧はしかも、霊力で物質化したモノだ。
 そう認識した瞬間、続けざまに思い浮かぶのは、一つ。
『魔装術!?』
 驚きの声を発する三人の視界の中で、黒き衣を完全に取り払った銀髪の男が、代わりに身に纏った鎧が、激しく発光した。
 その光の源は、紛れもなく霊力。
 先刻ペースを乱し・・・あれ程まで浪費したというのに、まるで底の見えぬ、そして尽きる事など無いかの様に強大な銀髪の男の霊力は、美神達の心に脅威を抱かせた。
 鎧の下から、声が洩れる。
『覚悟・・・?』
 口元まで強固な鎧に覆われた男が発した声は、それまでの声音と比べてどこか機械的な響きだ。
 続けて言い放つ。
『それは・・・そちらが決める事だ!』
 ビリビリと、放出するだけで相対する者を戦慄せしめる程、猛る霊波をもって、眼前に在る者達を屠る為に修羅が跳ぶ。
「く!誰に向かって!」
 しなやかに踊る鞭が、迫る脅威を捕らえたーーー次の瞬間。
『ーーーハッ!』
 鞭が、引き裂かれた。
「!」
 純粋に衝撃的。言葉を失う。
 その力任せに引きちぎられた『鞭』だったモノは、やがて微少な淡い霊力光となり、虚空に溶けて消える。
 驚きと焦りで、硬直する美神。
 その一瞬の隙を突き、魔の鎧に身を包みし修羅の豪腕が唸りをあげて迫る。そしてーーー

「ーーー美神さんっっ!?」

 響く絶叫。

 薄く照らす月明かりの下で、それはまるで糸が切れた人形の様に、美神の身体が宙に投げ出されたーーー




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