ザ・グレート・展開予測ショー

チャーミースマイル&グリーンヘッド:act1[ケースバイケース]


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/10/24)

走行中の新幹線、黒いタキシードにシルクハットの男が凄絶な顔をしている。
「…………………どした?オイ」
連れの男が尋ねた。緑の頭髪は信じられぬことに天然の色艶だ。
「乗物酔いです」
黒い方の男が呟いた答えは予想どうりのものだった。
実際、聞かなくて良かった。というか聞きたくもなかったのだが、
気付いて欲しいと言いた気に隣で陰気をまき散らしているのである。
(うっとーしー奴………………)
根負けして尋ねてしまった以上、何か気の利いた事ができないか思いを巡らすが、
自分は医者でもなければ彼の保護責任もない。助ける必要など別にない。
「ってか、乗ろうって誘ったのお前じゃん」
沈黙が、時の断絶がその場に過る。緑の青年は続ける。
「あんたってホントその場のノリだけで生きてんのな」
「…………飲物でも買ってきます………」
「やめとけよもったいねぇ、腹にもの入れてもどうせ吐くんだから」
背中からかかる青年の声を、タキシードの男は聞こえない振りをした。

食堂車へ向かう道すがら、シルクハットの男はそれに遭遇した。
「あーっ!きっさま…今、唐揚げ撮み食いしたろう!?」
「………」
「間違いない!口がきけぬのが動かぬ証拠!!斬りすて御免ーーーッ!!」
「待たんかーッ!!」
「お弁当ならまた買ってきてあげるから、おとなしくしてぇ……」
「(ゴクッ)あたし、唐揚げなんて知らない」
「説得力がない!全然!!」
最後の言葉は三人見事に唱和する。そこへ……
「ぅやかましーーーーーーーっ!寝らんないでしょーが!!」
至極もっともな御意見である。叱りつける相手以上の大音声での説教も、全ては
自分の安眠の為であって他の乗客への配慮でとがめ立ててるわけではないので
理に適っている。素晴しい。しかしなにより偶然の出会いである事が喜ばしい。
タキシードの男は自慢の口ひげを一通り撫で回して落ち着くと急ぎ引き返した。

「むー、ぐにゅぐにゅ…………」
「起きて…………くだっさーーーーーーーーい!!」
ドグワッシャアァァァン
絶叫と全く同じタイミングで、タキシード男は何時の間にどこから取り出したか、
モーニングスターを寝てる友人に叩きつけた。
ザビュバァッ
瞬時にモーニングスターが真直ぐに断ち割られ、亀裂はそのまま男の右手を
かけのぼって頭に到達し、粉砕する。そして、吹き出すその血が虚空にわだかまり
どす黒く変色すると直ちに人の形を成してもとどうりの黒い男となる。
「お早うございます。ごきげんそうでなにより」
「ナメてんのか、テメー……ごきげんなのはそっちだろが」
「ふふふ、もうお解りとは話が早い」
「解ってねーから聞こうとしてんだよ。そうでなかったらあと二十ぺんは殺した」
「…………それはともかく、美神令子を偶然みつけてしまったのですよ!!」
「……………………………はぁ?」
「世界屈指のGSですよ!ほら、メフィストって呼べば解りますか?」
「あぁ?……おーおー!いたなぁ、そんなの。って、それがなんだよ?」
「この偶然の出会いを祝して彼女らと…………」
「頑張ってこいよ」
「…へ?…あのぅ……?」
「俺様は骨休めしにきてんだ。くれぐれも厄介事に巻き込むなよ」
言って、青年は再び寝る姿勢を作りはじめる。
「そんな!私は電車酔いで弱りきってて無理だから貴方に頼みにきたのに!!」
「そーゆー日は大人しくしてろ!俺様は知らん!!」
泣いて袖にしがみつくタキシード男をひっぺがして足で退かしながら怒鳴る青年。
「せっかく巡り会ったのに?」
「別に今じゃなくても会う方法は幾らでもあるじゃねーか」
「偶然会ったからロマンティックなんですよ!」
「この手のことにロマンも銀杏もねーだろ」
「意地悪!」
「おぞましい仕種は有罪だぞ……!!」
なんだかんだで結局タキシードを中身ごと細切れにする事七十五回、
青年はいい加減飽き飽きして友人が言うGSの姿を拝見しにいく事にした。
(ホンッッッットにうっとーしー奴だな)

青年は仕事を純粋に愛していた。彼にとってはそれが唯一無二の真の愛なのだ。
だが、決して嫌いではないその職務も、時には忘れてみたい時もあったというのに
(それをあのバカがッ!アホがッ!ヒゲがッ!!自分で言い出しといてこのザマか?)
例のGSがいるという車両に入ってみると、向う側から売り子がやってきた。
「えー、おせんに〜キャラメル〜」(一昔前の知識による車内販売の定番台詞)
「ハーイ、ハイハイ!おねーさんをテイクアウトーーーー!!」
なにやら喧しい少年の声にそちらを向くと、なるほど確かに霊圧が高い一団。
(本命の女も寝てんじゃねーか…それと、妖怪が二匹と…霊能者が二匹…)
どう判断したものだろうか?人数は多いようだが、地上育ちの連中である。
(難しくもなさそうなんだよな。粘るにしても、一匹潰しちまうまでだろ)
考え倦ねて立ち往生してると、すっかり売り子を遮る格好になってしまっていた。
「お客様?なにか御入用でしょうか?」
「…………カツサンド二箱……それと、オレンジジュース」
青年はとりあえず食べながら考える事にした。そうした事によって、考える時間を
<食事中のみ>と、自ら制限できるからだ。食べ終わるまでに攻め方を決める。
彼は仕事で迷った時、よくこの手を使う。飯時じゃなかろうと、とりあえず喰う。
仕事しながら迷っていると簡単なヘマを踏む。なら、休憩したほうがよい。
(そういうドジだけは勘弁してもらいたいんだよな、直接命に関わるし)
そう、彼の仕事には常に死の危険がつきまとう。なぜなら彼は、殺し屋だからだ。

(最初に殺すのはやっぱ一番強ぇ奴だろうな、残った奴の反応がよさそうなのは)
ハクッ、ムシムシ、ヂュー、ンクンク
連結器付近の、公衆電話が据え付けられてる空間に陣取って、青年は食事にした。
彼にしてみれば、気乗りしない仕事で更にケチつけられたのではたまらない。
然るに、タキシードが所望するのは憎悪と絶望である。
人の死の悲しみに、戦力としての価値など無関係だが、絶望は別である。
(蜘蛛の子散らすように逃げられんのだけはフォロー不可だな。さてどうする)
モクモクモ……、ザッ
(ザッ?)
流石に食事中まで気を張りたくはなかった。接近を許したのは仕方がない事だ。
「アンタいったい何?言っとくけど、人じゃないって前提で話しかけてるから」
眼前の金髪の少女は、敵意とはいかないまでも明らかに警戒している様子だった。
「知ってどーする?俺様は別に何も悪さしちゃねぇし人間に化けてるわけでもねぇ。
お前こそ妖怪のクセに人間に成り済ましてるじゃねーか」
「ふぅん?人を殺すのは悪さじゃないの?」
この少女、どうやら死臭やら血の匂いやらを敏感に感じ取ったらしい。
「あのな、人間だって生き物殺して喰ってるんだ。
いや、俺は人肉は喰わんよ、だけどこのサンドウィッチを喰うにも金がいる。
そして人を殺せば金をくれる人間がいるんだ。それでも俺様は<人より>悪か?」
「…………解らないわ……ただ、必要に応じて人を殺せるような奴には警戒する」
何故か、少女のこの答えは気分が良かった。思わず顔が綻ぶ。
「…ククッ………良い答えだ。俺様はなぁ、悪魔だよ」
「……………!!」
身の危険を悟ったのか、少女の全身に緊張が走る。
だが、相手が単独で向かってきたからにはそれなりの考えがある公算が高い。
探りを入れたという事はこちらの力量がどうだろうと無関係にこちらを出し抜ける
自衛手段なり逃走経路があると考えるべきである。伏兵の可能性は恐らく、ない。
バサァッ
それは、唐突というか、突飛というか、なんにせよ意表をついた。
その閉ざされた空間には青年と少女の二人、ただ在るのみ。
真っ赤な布が足下から這い出し、瞬く間に視界を覆うと、その紅い世界が、
途方もない彼方まで延々延びてることに気付かされる。
こんな不条理な現象が引き起こせる者が車中にいるとするなら、それは……
「あンの大ボケマジシャン……いらん世話焼きやがって…とんだ興醒めだ」
「これ…………は?」
呆気にとられ、少女がうめく。無理もない、有り得ない空間に放り出されたのだ。
「多分、俺様の連れがワザワザ広い決闘場を都合してくれたんだよ」
「都合って……そん…な…」
少女の言いたい事は解る。無茶苦茶だ、なにもかも。自分は驚くのに慣れたのだ。
「チッ!俺様は踊らされんのは大嫌いだって口を酸っぱくして言ってあんのに……
上等じゃねーか!!あのクソバカに一泡吹かせてやるぜ!!」
「へ?それってどういう………」
聞き返す少女。この状況を把握するのは一筋縄ではいかないのは無理もない。
「決まってンだろ!こっから這い出て奴に一発ぶちかますんだよ!!お前も来い」
「ど、どうして?」
「俺一人じゃ止められねぇからさ。手ぇ貸してくれたら俺様もお前を助けてやる」
この時、彼女は思考を最大限に働かせて状況と真実を探った。
(罠……は、必要無いわ。こいつ強いもん。それに………)
「ここに取り残されるよかマシ……恐らくは、ね」
「それだ。ほいほいついてくるような奴よりはアテになりそうで良かったぜ」
「臨時とはいえ仲間だからね、先ずは名乗ってくんない?あたしはタマモ」
「……休業中にコードネームもねーだろうし…碧でいい」
青年はなんとなく、クリエイターにつけられた名前を伏せて偽名を考えた。
創造主が彼に望んだのはまさに殺戮のみだったからだ。今回の仕事はパスした。
休業でも確かに殺しはするし、自分の仕事は趣味と限り無くボーダレスなので、
この辺に逆にこだわっておかないとそれこそ分別がなくなってしまうのだ。

つづく

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