ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(意味)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/22)




 ー終曲ー



 屋上から見渡せる空は夜の闇に覆われていた。
 時間を指し示す時計の針は、彼が標的を見失ってから既に・・・三時間程も進められている。
 現在の時刻は、午後、九時十七分。
 時間の経過する程に、一層冷たく感じられる風が吹き付け、ふと見下ろせば道行く人は皆、身につけたマフラーなどをグイと体に密着させて、それぞれの帰る場所へと急ぐのが見えた。
(帰る・・・場所・・・)
 僅かに、身震いする。
 一切の霊波を遮断する、この黒い衣とて万能では無い。
 寒さは感じるのだ。しかも、たった今自分はこうして特に強く風にさらされる場にたたずんでいるのだから。
 またも、震える。その寒さと冷たさ彼は思い出していた。
 ーーー過去を。たった数ヶ月の記憶をーーー
 クローン・・・幾度となくそう呼ばれる
 目を覚ました時、自分がいたのは、今思えばこの風よりも冷たく感じられた、何らかの液体が注ぎこまれていたカプセルの中だった。
 その時産声をあげたばかりだというのに・・・自分にはそこがどこなのか、そして何故自分がここに『在る』のか・・・それら全てが解っていた気さえする。
 そして、だからこそ、あの言葉を焼き付けてしまえたのだ。
「道具・・・か」
 待っていたのは、その一言。
 主と初めて顔をあわせた時に、何のためらいも見せずに放たれたその言葉は、彼の脳裏に、魂に、決して癒えぬ傷となって刻み込まれていた。
 急激に成長する肉体に追い付く様、知能もどんどんと発達していく。それでもその傷だけはそのままに、たった今この瞬間も、こうして彼自身を苛み続けている。
 抱え続ける苦しみ。刺さり続ける痛み。
 その痛みと苦しみの末に、彼は答を出した。
 余りに哀しい答を。
 道具というならせめてーーー誰よりも、何よりも、優秀な道具であろうと・・・そうして与えられた初任務は、彼にとって何としてでも成功せねばならない、特別な意味を持っていた。
『タダオ・ヨコシマ・・・!』
 銀色をした両の瞳に、怒り、不安、焦り・・・それらがゴチャ混ぜになった暗い輝きが宿る。
 その時。彼の背後でーーー何かが動いた。
 ビュン!と、背後から鞭の様なモノが、疾る。
 強い霊力の輝きを身に纏う一人の女性が繰り出したその一撃は、威嚇の意味をもって彼の肉体では無く、風にされされギシギシときしむフェンスを引き裂き、そして粉々にした。
「・・・・・・」
 ゆっくりと・・・振り向く。
 真紅。
 初めて目にしたその女性に対し、彼にはその言葉しか浮かばなかった。
 そうして向き合う内に、紅の女が口を開く。
「横島君は・・・どこ?」
 ーーー静寂が辺りを包む。
 女性の口から紡がれた言葉は彼にとってーーー余りに意外なものだった。
「答えなさい!横島君は何処!?」
 問いに答えずに・・・いやその問いに答えを持たずに、ただ黙り込む彼の態度に焦れたかの様に、彼女が叫んだその時。
 同時にゼェハァと息を切らしつつも、姿を現した金髪と巨大カブト虫がやってきたところでーーー
『フ・・・ハハ・・・ハハハハハ!』
 彼はーーー嘲った。三人が怪訝な眼差しをする中、構う事無く嘲笑し続ける。
 誰に?もちろんーーー自分に。
 三時間の時を、風を操り『標的』の居場所を探るのに費やしたというのに・・・こうしてわざわざ姿を見せてまで、手がかりを掴もうとしたというのに・・・

 全てがーーー徒労ーーーだったというのかーーー?

「!?」
 笑い続ける銀髪の男が、何気なく左腕を振りかざした瞬間ーーー向き合う形で場にいた三人が、動く。
 こうする事に意味など無い。しかし抑制がきかない。
 銀の髪をなびかせーーー揺れる思いを断ち切るかの様に、降り降ろした左腕から放たれるーーー疾風の刃。
 数瞬前に三人のいた空間を横薙ぎに斬り裂き、そのまま延長線上に在る某有名『・・・カメラ』の看板をまでもを、真っ二つに斬り砕いた。
「こ、こいつは・・・!」
 金髪の青年が着ていたコートを脱ぎ捨て、カブト虫のその巨躯から、一匹の蒼き虎が姿を現す。
 高まる緊張。そしてーーー・・・
 紅と銀が、動く。

「斬り裂け!」
「ナメんじゃないわよ!」

 互いに繰り出した『風刃』と『鞭』が、前方の空間で激しく激突し、やがて閃光を撒き散らして爆発、四散したーーー



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