ザ・グレート・展開予測ショー

あなたをScandal!【3】


投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/10/22)



――警戒セヨ。
頭の中で囁いた声の意味するところを悟るよりも早く、GSとして鍛え上げられた肉体が勝手に地面を蹴っていた。

ドゴォォン!!!

一瞬の半分ほど遅れて、今しがたまで彼が歩いていた位置の地面が、閃光と共に大きく抉られる。

(霊波攻撃!?……この感触…人間か?……二人…以上はいるな…)

敵の攻撃を頭の片隅で冷静に分析しながら、彼は危険感知に秀でた己の第六感に感謝した。

ちなみにこの場合の第六感とは、彼の頭の中を「危険〜♪ 危険〜♪」と歌いながらチョコチョコと走り回る、二頭身体形がちょっと素敵な『ちびちびルシオラ』のことである。
ちっちゃな頭に乗っけた赤い回転灯がぷりてぃだ。
さらに目覚まし機能付き。

「そこに居るんだろ? 出てこいよ」

姿を見せぬ敵に声をかけながら、己の内なる霊力を高めていく。
素直に出てくるとも思えないが、牽制の意味を込めての挑発だ。
何にせよ、何がしかのリアクションの一つでもあればやりやすくなる。

だが、予想に反して路地の暗がりから姿を現した敵の正体は、あらゆる意味で彼の思考を硬直させるのに十分な存在だった。

「ゆ、雪之丞? ピート?」

わけがわからない。それが正直なところだった。

先ほどの霊波攻撃に、彼は確かにある種の『匂い』を感じていた。
それは死の匂い。いわゆる、必殺の気迫とも言うべきものだ。

「おいおい、なんだってんだよ。シャレになんね……」

へらへらとした口調で言いかけて、続く言葉を思わず飲み込む。
彼の数少ない男友達二人の瞳の奥に、鬼火のような殺気が揺らめいていたからだ。

本気なのだ。紛れも無く。

(ちっ、しゃーねぇ…)

胸の内で舌打ちしつつ、掌中に出現させていた文珠の中から『眠』の文字を消し去る。
どうやらギャグ調でごまかして不意打ち……ができるノリではなさそうだ。

(しかし、まずいな)

待ち合わせの場所に近すぎる。と、苦々しく考える。
万が一にも、彼女を巻き込むわけには行かない。

なにはともあれ、さっさと――

「終わらせる!!」







「横島さん! ボクは! ボクだけは信じていたのに! あなたのことを信じていたのに!」

知らない人が聞いたら……いや、知ってる人間でも十分に誤解しそうなセリフを絶叫しながらピートが突っ込んでくる。

「なにを血迷っとるんじゃ、オノレは!」

思わずツッコミを入れようとしたその瞬間。

「バンパイアミスト!」
「何ィッ!?」

目前で霧と化したピートに、一瞬、完全に視界を奪われる。
そして膨れ上がる光。

「―――!」

気がつけば宙を飛んでいた。硬いアスファルトに全身を叩きつけられ、二度三度とバウンドしてからようやく自分が攻撃を喰らったことに気づく。

分かってみれば単純なことだった。霧と化したピートを眼くらましにして放つ雪之丞の霊波砲。そいつを自分は喰らったのだ。
霧となっている間はまともな攻撃を受けつけないピートの特性を生かした、まずまずなコンビネーションと言えよう。

ま、それはともかく。

「よっ、と」

「な、なんだと!」
「そ、そんな…」

あっさりと起き上がった横島に驚く二人。
特に、さっきのがフルパワー攻撃だった雪之丞のショックは大きい。
実際、半殺しのつもりで霊波を叩き込んだのだ。

「ふっ。毎日のように美神さんの神通棍を喰らっとるこの俺に、今更そんな攻撃が効くか!」

決して自慢にならないことに、大威張りで胸を張る。

「やっぱりな、この常識外生命体め…」(←誉めてるつもり)
「さすがです…人間じゃない…」(←誉めてるつもり)

「ほっとけ!! んなコトより、なんで俺を襲ってきたんか、訊かせて貰おやないか。ああん?」

眉間に皺を寄せ、ドスの効いた声で二人に詰め寄る。こういう時こそ、関西弁のイントネーションがものを言うのだ。

「やかましい! 貴様のような外道に語る言葉はねえ!!」
「その通りです! 断罪の刃こそが今のあなたにはふさわしい!」

問答無用で突っ込んでくる二人。
雪之丞は魔装術で身を鎧い、ピートは空中に舞いあがって頭上から横島を狙い撃たんとする。

雪之丞の拳を半身になってかわし、同時に真上から放たれるダンピール・フラッシュを、2m大のサイキック・ソーサーを傘のように広げて防いだ。攻撃をすかされた雪之丞の躰が大きく泳ぐ。

瞬間、横殴りの一撃が即頭部に飛んできた。
己が身にも降りかかる半吸血鬼の光撃を魔装術の装甲で跳ね返しながら、崩れた体勢から強引に半身を捻った雪之丞が後ろ回し蹴りを叩きつけてきたのだ。
頭を振ってかろうじてかわしたそこへ、再びピートのダンピール・フラッシュが雨霰と降りそそぐ。

「くっ!」

とっさに全身を投げ出して地面を転がり、攻撃をかわす。

どうにもこうにも分が悪い。
前衛に雪之丞。後衛支援にピート。
この組み合わせがここまでの力を発揮するとは。

(…だが弱点も見えたぜ。いや「見つけた」って言うべきかな?)

横島の口元が、笑みの形に歪む。

「そこっ!」

鋭い声とともに、横島の手からサイキック・ソーサーが放たれた。

「ぐわっはぁあああっ!」

蓋の吹き飛んだマンホールから、小山のような大男が息も絶えだえに這い出てくる。タイガーだ。

「…やっぱな。タイガーのテレパス中継あってこそのコンビネーションだったわけだ」

横島の指摘に、雪之丞とピートの顔が鼻白らむ。

「うぅ、横島さん。ひ、酷いんじゃないかノー…」
「わりぃな、タイガー。男には手加減できん体質なんでな」

ぱったりと意識を手放したタイガーを確認すると、横島はゆっくりと振り返った。

「さぁて、第二ラウンドだな」

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