ザ・グレート・展開予測ショー

あなたをScandal!【1】


投稿者名:黒犬
投稿日時:(01/10/22)



「おかしいわ」
「おかしいですね」
「おかしいでござる」
「……どうでもいいけど…やっばりおかしいと思うわ」
「あ〜、だぁ〜」

夏の夕日の差し込むいつもの事務所に、ガン首突きあわせた女傑陣。発言順に、美神・おキヌ・シロ・タマモ・ひのめの5人である。

「と、いうわけで、最近の横島君の行動は明らかにおかしい、という事でいいわね?」

議長役の美神が決を採ると、ソファーに座った3人が一斉に頷きを返す。ちなみにひのめはおキヌに抱っこされていた。
一人だけ立ったまま指示棒を振り回す美神の背後にはホワイトボードが設置され、達筆な明朝体で『第一回横島対策委員会会議』(by おキヌ)と大書きされていた。

「そうなのでござる! せんせいは最近おかしいんでござる! 拙者が朝の散歩に迎えに行っても「昨晩遅かったんで今日はパス〜」とか言って、ちっとも付き合ってくれないんでござる〜〜」

きゃんきゃんあお〜んと悲しそうに吠えるシロ。
どうでもいい事だが、狼には吠え声鳴き声というものが無く、口から発するのは唸り声と遠吠えのみ、というのが定説である。
シロ、『実は本当に犬』説、急浮上。

――閑話休題。

「まず、その事からよね。ここ一週間の横島君、仕事が終わったらさっさと帰るようになったわよね。前は仕事が無い日でも遅くまで事務所に入り浸って、夕飯をたかったり、あたしの入浴タイムを狙ったりしてたのに」

美神の言葉に頷く一同。
しかし、それが判ってて横島を追い返さないところに、素直さを母親の胎内に忘れてきた彼女の本音がちらりと覗いている。

「帰った後、また出掛けてるみたいなんですよ。お夕飯届けに行っても、いつも留守なんです」

怪しんでいるというより心配しているのか、不安のちらつく表情のおキヌ。
どうでもいいが、自分がかなり大胆な行動をしているのを分かっているのだろうか?

「そういえば、繁華街を歩いてるのを見たわよ。夜の十時くらいに」

無関心を装いながらも、両の瞳に底冷えのする光を宿らせているタマモ。
実はタマモ、最近横島の事がお気に入りなのであった。
惚れたはれたと言うつもりは無いが、交友関係の狭い彼女にとって、横島は貴重な遊び(からかい)相手なのだ。
シロでは単純すぎるし、おキヌは真面目すぎて向かない。美神はそもそもタマモが喜ぶような遊びには興味を示さない。少なくとも、ゲーセンに足繁く通う美神の姿というのは想像もつかなかった。

「だー! あだー! うー!」
「…………ママ」
「ハイハイ」

たまたまひのめを連れて遊びに来たところで件の『第一回横島対策委員会会議』の場に出くわし、そのまま観客よろしく静観を決め込んでいた美智江であったが、長女の懇願の視線を受けて、仕方なくひのめの通訳を買って出ることにした。

「えーと、『ヨコにぃがおかしいのは、きっと令子ねぇに飽きたからでちゅ』…ですって」

実の姉に向かって辛辣なセリフを吐く美神ひのめ、0歳。
彼女は横島を虐げる姉の事を、前々から苦々しく思っていたのだ。
そう、実は彼女、横島の「ボクはばうわ!」の大ファンなのである。

「よ、横島君があたしに飽きたぁ!? ど、ど、ど、どういう事よ、ひのめ!!」
「あぁー! ばぶー! うー!」
「あぁ、はいはい。そんな事はどーでもいいから。それより今は横島君でしょ?」

美智江の言葉に再び深く頷く、美神を除いた一同。
敬愛する実の母から「どーでも」扱いされた美神は、ソファーの後ろで膝小僧を抱えながら、絨毯の毛を毟ったりしている。
小さな声で漏れ聞こえてくる「ドナドナ」の歌声がもの悲しい。

「で、その横島君なんだけど……」

そこで言葉を切り、皆の反応を確認する。
全員が全員とも、釣り込まれるように自分を凝視していた。
ソファーの向こう側でイジケ中の長女も、さりげなく耳をダンボにしてこちらの話を伺っている。
美智江は内心で“ニヤリ”と笑うと、己が作戦の成功を確信しつつ、最大級の爆弾を投下した。

「彼、夜遅く女の子と手を繋いで歩いてるところを見たわよ。それも、十歳くらいの女の子とね」

「「「「「!!!!!」」」」」


次の瞬間、事務所は混乱と混沌の支配する狂宴の地と化していた。







き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

チャイムがなる。それは学校という閉鎖空間からの解放を告げる自由への凱歌だ。
クラスのあちこちからも無事一日の勤めを果たし終えた戦士たちの勝利の歓声が聞こえてくる。
珍しく登校していた横島も、決して小さくない開放感の味を噛み締めながら、椅子の背もたれに体重を預けて思いっきり背筋を伸ばす。

「う〜ん・・・」

放課後、というのは特殊な時間かもしれない。学校と家という二つの檻を繋ぐ優しい時間。
そんな特別な時間を愛しい人と過ごしたいと考えるのもまた人の常である。ここにもその例に漏れない人物たちがいた。

「横島さん、一緒に帰りませんか」

『アパートのお隣さん』こと“小鳩は横島さんと結婚したことがあります”花戸小鳩と、

「横島君、喫茶店にでも寄って、一緒に青春を満喫しない?」

『青春のパイオニア』こと“クラスメート同士って、やっぱ青春の王道よね♪”机妖怪の愛子。

・・・の二名である。

二人の少女は奇しくも全く同じタイミングで意中の彼に声をかけ、さらに同時に互いの存在に気づいて顔を見合わせた。二人ともに、自分が相手の浮かべているのと全く同じ表情をしているのを悟り、苦笑と照れ隠しを兼ねてあははと笑う。

ところで、一般に女の子に誘われるというのは男にとって嬉しいことである。

ねえ一緒に帰ろう、うんいいよでもなんだか照れちゃうね、うふふ、あははーなどという青春ど真ん中な遣り取りを不特定多数の第三者の前で繰り広げることを人として許せるかどうかという議論はともかく、大多数の男にとっては女の子から――特に美人――のお誘いは嬉しいものだ。ましてや彼は『あの』横島なのだ。

一も二も無く餌に喰らいつくと思いきや、

「悪ぃ、先に約束入ってんだ。また今度な」

どこか慌てた風にそう言ってカバンを手に席を立ち、そそくさと教室から出て行く。
ビシリ、という効果音つきで二人の美少女は石化した。

「…………」

しん、と静まり返る教室。
いつの間にか、クラス中の視線が、今しがたの三人のやり取りに集中していた。


 ――こと…わった?
 ――あの横島が…
 ――女の子からの誘いを……
 ――断っただと!?


「……ぅ…」

誰かの呻き声。誰の、というのは重要ではない。

「…ぅ…ぅ……」

それは呼び水だ。怒涛の奔流を呼び込むための最初の一滴。

「……ぅ…う……嘘だぁあぁああぁあああぁああああっっ!!!」

その叫びを合図に、パニックという名の洪水が教室全体を飲み込んだ。


――ある者は神に祈る。
「かみさまおれなにかわるいことしましたかかみさまごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

――ある者は幼子のように助けを呼ぶ。
「お母さん! 助けてぇ! お母さーん!」

――ある者は欺瞞の中に平穏を探す。
「これは夢…うん、夢なんだ…俺はまだ布団の中に居て……ぶつぶつ」

――ある者は少々危険な方面へと転がり落ちていく。
「神は死んだ! 世界は終焉の時を迎えている! 今こそ革命の時ぞ!」

ちなみにその後の調べによるとこの事件の後、ノイローゼで入院した者二名、急性アルコール中毒で入院した者四名、登校拒否に陥った者三名、同性愛に走った者二名、恋人と別れた者三名、印度に旅立った者一名と、被害は甚大なものであった。


そしてそんな恐慌状態の教室に片隅にて、

「…………」
「…………」

二人の少女の石像は、日が暮れてもなお静かに佇んでいたという・・・







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