ザ・グレート・展開予測ショー

人間と少女と妖怪と【3】


投稿者名:眠り猫
投稿日時:(01/10/17)

理科室の前・・・白い扉がなんだか今日は重く見える。
愛子は後ろの除霊委員に合図をすると、ドアを開けた。
・・・いつも通り、そう、いつも通りの理科室だ。少女の霊がいることを知らなければ全く気付かない、静かな理科室。
「タイガー!」
「よしっ!」
横島の声に答えてタイガーは棚に意識を集中させた。
すると、なかなか見えなかった、子供の姿がハッキリと見えるようになる。
『!』
薬品棚に座ってこちらを見ている少女。ただの人間じゃないことに気付いたのだろう。驚いたように眼を開いている。長い黒髪。二つ赤い小さなリボン、髪の大半は残しつつ、耳の上で結んでる。まだ、小学生、8、9歳くらいだろうか。
『なーに?あっ、さっきの人達だぁ。アナタたち、私が見えるの?』
楽しそうにキャッキャッと話しだす。まるで、イタズラを自慢するように。
『ミンナねぇ、私に気付いてくれなくってね。でもアナタ達には見えるんだー。へぇ。』
その時、ちくん、と胸が痛んだ気がした。
(あ・・・なんか似て・・・る?)
なんだかこの少女を見ていると自分を見ているみたいで・・・。
(どうしたんだろ・・・私・・・)
「なんでこんな所にいるんだ?それに人を怪我させようなんて・・・」
『あ!そっか、さっきケガしたヒトかー。あのね、ここ高校でしょ?私、高校生になるんだもん、なったんだもん。でもぉ、せっかく高校生になれたのにー皆気付いてくれないから。それにトモダチをつくるのー。それに私、ここしかいられないもん。』
その幼い無邪気な笑顔からは罪悪感の一欠けらも見られない。多分、成功するまで何回も繰り返すのだろう。笑いながら薬品を落として。
「まずいなー地縛霊になりかけてら。どーする?・・・ん?愛子、どーした?具合悪いのか?」
さっきからずっとうつむいたままだった。元気がない・・・とはまた違うような。
まるで何かに耐えているかのように。歯をくいしばって。
『あっ、ううん!なんでもないの!どうしよっか。』
「んー、ムリヤリ除霊すんのも気がひけるよな。相手は幽霊とはいえガキだし。」
『あんまり油断しないで。子供だからこそ恐ろしいこともあるんだから。』
いつになく真剣に愛子は横島を見た。やっぱりいつもの彼女と違う。奇妙な違和感を抱きつつ横島は少女の方を見た。
「ま、説得しかないか。」
ふぅとため息をついてなるべく穏やかに話しかけた。
「なぁ、やっぱずーとココに居るわけにもいかないだろ?」
『え?』
さっきまで明るかった少女の表情が変わった。
「辛いだろうけど・・・お前・・・もう幽霊になっちゃったんだし、成仏・・・できないかな?」
『ジョーブツ・・・?』
「高校生にはなれないんだよ。だから・・・!?」
その言葉は最後まで言われることはなかった。その一言で少女の霊破が変わったからだ。今まではそこらの浮遊霊と変わらない、特に強いわけではない霊破が急に勢いをつけた。
『ウルサーイッ!!』
叫ぶと同時に薬品棚に置いてある、ありとあらゆる薬品が除霊委員に向かって飛んできた。中には食塩なんていう害のないものから塩酸まで。
『私は高校生だよっ!ココにいるじゃない!なれたんだもん!!』
「うわああぁぁぁ!!?」
パリーン!ガシャーン!ガラスの割れるBGMを聞きながら理科室を出て扉を閉める。
その瞬間音がやんだ。どうやら範囲は理科室だけらしい。
「あー、ビビったー!」
「しばらく入れそうにないノー。」
「驚きましたね、あんなに強い霊破をもってるなんて・・・。」
『それだけ高校に対する気持ちが強いのよ。』
ポツリと小声で愛子が答えた。いつもの元気もない、座り込んだままで。
「おい、ホントどーしたんだよ?大丈夫か!?」
『・・・・・・。大丈夫。先に教室に戻るわ。』
有無を言わさず小走りで廊下を曲がった。
うつむいたままで、表情が見えない。
「どうしたんでしょう・・・?」
「むー、よくわからん。・・・なんかアイツがあんなだと調子でないな・・・。」



(あの子・・・私に似てる・・・似てるんだ・・・)
人気のない廊下。愛子の耳には生徒たちの明るい声は届いてなかった。

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