ザ・グレート・展開予測ショー

君がいるだけで(10)


投稿者名:JIANG
投稿日時:(01/10/15)

 その少し前、横島たちが心配で探しに来た美神一行は公園で話し込んでいる横島母子を
見つけたが、深刻そうな話をしているのを見て公園の植え込みの陰に隠れて様子を見てい
たのだった。
「横島さん、まだルシオラさんのことを……」
「まったくあのバカは……ルシオラなら自分の子供として転生出来るっていうのに……い
つまでも引きずっているなんて……」
「でもね、令子。あなたの話では横島クンが結晶を壊したんでしょう? それで世界は救
われたのだけど、彼にしてみれば自分の手で恋人を殺したようなものよ。心が傷ついてい
ない方がおかしいわよ。」
「それはそうだけど……」
 横島たちの様子を見ながらひそひそと話す3人の後ろでシロが不満そうな顔をしている。
「なんで、すぐに先生の処に行かないでござるか。それにルシオラとは誰でござるか。拙
者だけ仲間外れみたいでイヤでござる。教えてくれないのなら先生に直接聞いてくるでご
ざる」
「シロちゃん、待って!」
「シロ! 待てよ…待て!」
「ちょっとお待ちなさい、シロ。……しょうがないわね。今、教えてあげるから」
 すぐにでも飛び出していこうとするシロを3人は何とか押しとどめる。
「あのね……ルシオラはね、魔族の少女で横島クンの恋人だったのよ」
「ええ!? 先生に恋人なんていたのでござるか? 信じられないでござる」
 弟子としてはかなり失礼な言いぐさである。
「まあ、あんたが驚くのも無理はないと思うけど……。簡単にいうと横島クンが死にそう
な程の大怪我をしたときにルシオラは自分の霊力のほとんどを使って横島クンを助けたの。
でもそれが原因で逆にルシオラが死ぬことになってしまったのよ」
「そ…そんなことがあったでござるか……」
 詳しいことはほとんどすっ飛ばしたのだが令子の話にシロはショックを受けたようすで
うなだれている。
 そんなシロを見かねたおキヌは慰めるように、
「あ…でもね、シロちゃん。横島さんの体の中にはルシオラの霊体(魂)が大量に入って
いるから、もしかしたら横島さんの子供として転生出来るかもしれないのよ。だからそん
なに落ち込むことはないのよ」
「そうでござるか。それはよかったでござる! 先生はそのルシオラどのの父上になるの
でござるな――。でも、そうすると母上は誰になるのでござるか?」
シロの何気ない、それでいて鋭い指摘は令子とおキヌを慌てさせるのに充分だった。
「な、何を言っているのよ、シロ! なんで私が横島クンの子供の母親にならなければな
らないのよ。」
「ええ!? わ、私…そんな、横島さんのお嫁さんなんて……。」
「ねえ、ふたりとも――何をそんなに慌てているのかしら? シロちゃんはただルシオラ
のお母さんは誰になるか聞いているだけなのよ。」
それまで黙って聞いていた美智恵にクスクスと笑いながらあきれ顔で指摘され、令子とお
キヌのふたりは自分の勘違いに気づき顔が真っ赤になる。
「…………」
「シロちゃん、横島クンは結婚するにはまだちょっと早いのよ。それに彼自身は自覚がな
いかもしれないけれど、結構女の子にモテるみたいだし、怖いお目付役もいてなかなか誰
とは決められないかもしれないわね。ね、令子」
「なんでそこで私に聞くのよ! ママ!」
「べつに〜、あなたがこの中では横島クンとの付き合いが一番長いから聞いてみただけよ。
……でも、ちょっと待って令子! 何だか横島クンの様子が変よ……!」
美智恵は文句を言いそうな娘を制して、横島たちを見るように促した。

「うおおおん……ルシオラー。俺がもっとしっかりしていればあいつは死ぬことはなっか
たんだー! ううう……、もうちょっと、うまく立ち回っていれば、結晶を使ってよみが
えらせることもできたかもしれないのに……! ごめんよー、ルシオラー! 勘弁してく
れー!」
横島はそれまで抑えていた感情を一気に吹き出させるような勢いで泣きわめいていた。
「うおーーーーん! るしおらーーーー!」
「ちょ……ちょっと忠夫……。おまえがルシオラって娘をどんなに大事に想っていたかわ
かったから、もう泣くのはいい加減にお止め!」
 朝の通勤通学の時間を過ぎたとはいえ、人通りがまったく絶えているというわけではな
い。百合子は泣きわめく息子を何とかなだめようとするが、横島は嘆き悲しむのをやめよ
うとしない。

「みっともなく泣いているだけじゃないの。あんなのいつもの横島クンじゃないの」
 母親に言われ横島に注意を向け直した令子だったが、ただ泣いているだけの横島にうん
ざりしたような声で言い返す。
「もうわからないの、ほらこれを使ってもう一度見てみなさい」
 美智恵は取り出した霊視ゴーグルを娘に渡す。令子はゴーグルを通してもう一度横島を
見る。
「あ、あれは……!」
 横島の体に覆い被さるようにして若い女の霊が取りついている。しかも横島と一緒にな
ってシクシクと悲しそうに泣いているのが見えた。
「……泣き女だわ!」
「ええ!? なんですか、それ? 悪霊なんですか? 横島さん大丈夫なんですか」
 おキヌが驚いてたずねる。
「泣き女……別名バンシー。人の哀しみにつけ込んで取りついて、人をより深い悲しみに
引きずり込んで、最後はその人を衰弱させて取り殺してしまう悪霊よ」
「た、大変でござる。先生が死んでしまうでござる。早く助けないと…」
「ええ! いくわよ。おキヌちゃん! シロ!」
 令子たちは植え込みから飛び出すと、横島母子のもとに駆け寄った。
「うおおおおん、ルシオラー……しかたなかったんや……かんにんやー……」
「ええい、いいかげんに泣きやみな、忠夫。まったく少しは成長したかと感心させられた
と思ったら、いつまでもピーピー泣いているんやない!」
 いつまでも泣きやまない横島に、百合子はいい加減あきれ果てて、きつい口調で叱るがまるで泣きやまない。
「おばさま、横島クンから離れて!」
「あら、美神さん。お久しぶり……。ほら、美神さんたちが迎えに来たんだからいい加減
に泣きやみなさい」
「うう、泣きやみたいけど……なんかすげー悲しくて、涙が止まらないんだよー」
「横島さんのお母さん、離れて下さい。横島さんに悪霊が取り憑いているんです」
「母上どの、こっちに来るでござる」
 おキヌとシロが必死になって百合子を呼ぶ。
「忠夫に悪霊が取りついた!? なんでまた?」
「今から姿が見えるようにします。早く横島クンから離れて!」
 半信半疑ながら令子たちの真剣な様子に百合子は息子のそばから離れる。
「横島忠夫に取り憑きし悪霊…! 我が前に姿をあらわせ!」
 令子が言葉を発すると横島に寄り添うように女の霊がぼんやりと浮かび上がってきた。
『ねえ、悲しいわよね。大好きな人が死んで……。もう会えないなんて悲しすぎるわよね』
 涙を流している横島の耳元で泣き女が自分自身も泣きながらブツブツと囁いている。
「あれが、忠夫に取り憑いた悪霊……。大丈夫なのかい、忠夫は…」
「大丈夫ですよ。あのくらいの霊なら、令子が簡単に除霊しますわ」
 百合子が独り言のようなつぶやきに、いつの間にか側に来た美智恵が説明する。
「はあ、そうですか………あの、どちら様で?」
美智恵の言葉に頷いた百合子だが、ふと我に返り隣にいる女性がだれなのかたずねる。
「すいません、申し遅れました。私、令子の母親で美神美智恵と言います。」
「あらまあ、美神さんのお母さんで……私、あそこで悪霊に取り憑かれている横島忠夫の
母親で百合子といいます。」
「初めまして、ですわね。息子さんには令子がいつも助けてもらって大変感謝していま
す。」
「いえいえ、忠夫のことだからいつも迷惑かけてばかりじゃないんですか?」
 令子たちが除霊している脇ではいつの間にか母親同士で井戸端会議に花を咲かせていた。

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