ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ復活の日々『二日目』<凍りの刻>


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/14)

 


 蛍。

 灯も無い夜道を歩く。

 蛍。

 その僅かな先も見通せない、深い闇。

 蛍。

 うっすらと・・・胸に広がる寂しさ、そしてーーー恐怖。

 そんな時に淡く、果無く、ただ漂いながらも光を灯す。

 闇に脅える人を導く様にし、蛍は踊る。闇の中で。

(そうーーー確かに俺もーーー導かれたんだーーー)

(闇の中でーーー彼女にーーー)

 脳裏に浮かぶは一人の女性。夕陽の中で微笑む、蛍。

 ひた走る。

 彼女の元へ。

 直接、今から向かう場所にいるなどと、彼女から聞き出したわけでは無い。

 しかしーーー解る。彼女は絶対、あそこにいる。

 思い出の場所。

 昼と夜との一瞬の隙間を、短く、だからこそ美しい輝きを、最も近くでその瞳に焼き付ける事の出来る場所。

 胸が、締めつけられる。

 そうーーーそこは『二人』の思い出を創った場所だ。

 しかし同時に。

 思い出の幕をーーー閉じた場所。

 激しくなる動悸と共に、荒くなる呼吸。

 けれど足を止めるわけにはいかない。

 膝をつくわけにはいかない。

 謝らなくてはーーーならないからーーー

(着いた・・・やっと・・・)

 眼前にそびえるは、思い出の緋き塔。

 眼前にそびえるは、暗闇の別離の塔。

 謝るというのは、違うかもしれない。

 そうしようと、生まれた空白を埋める事など出来はしない。

 閉じられた思い出は再びーーー開かれた。

 けれど。

 再び開くまでの間だけ、時の流れが止まるわけでは無い。

 時は流れる。否応なく。

 景色が流れ、緋の輝きに染まる自分。

 そしてーーー辿りついた時。

「ヨコシマ・・・?」

 目前に在るのは、思い出となった彼女。しかし彼女は再びここにーーー在るのだ。

 現在の自分は既に、彼女の良く知る過去の自分では無いのかもしれない。

 自分にだけ時が流れた分。彼女だけ時が凍りついていた分。

 今はまた、同じ時の中で過ごしていても、その空白だけは埋まらない。

 でも。

「本当に大丈夫だったんだな・・・」

 彼女は言わんとしてる事が解らないだろう。

 でもーーー言うーーー始める為にーーー

「ベスパとやりあったのにお互い無事なんてーーー運が良いよな、俺達」

 ようやく俺が<何をしているのか>が解った彼女が、弱々しく、それでも嬉しそうに微笑む。

 夕陽に彩られた思い出の『世界』でーーー

「約束通りーーー倒して来たぜ、アシュ様・・・」

 ーーー重なる二つの影。

 凍りの刻は、溶け出す。

 照りつける朝の陽射しで無く、全てを緋に染める夕の陽射しによって。

 自分と彼女を遮る凍りの刻はーーー今はーーー無い。


 例え束の間だとしても・・・俺は腕の中の温もりは現在ここに在るのだから・・・




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