ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(狩腕)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/14)




 ー終曲ー


 最初に感じたものは、気配。
 唐突すぎるが故、そしてその魔気があまりに濃すぎるが故、ソレは動揺、恐怖よりも、先ず鮮烈さを感じさせた。
 やがてーーー収束する『闇』ーーー
 異形のモノは、己が這い出た闇纏う場所よりも、更に濃く深く暗黒に染まる躯を隠そうともせず、眼前にその姿を晒す。
 降り注ぐ陽の光さえ、その躯を覆う闇へと吸い込まれ、二度と再び還る事などない。
『そんなに脅えなくても・・・いいんだゼ・・・?』
(ーーー脅える?)
 漆黒に身を包んでいる『ソレ』が、言い放ったその言葉に対して、若きオカルトGメンの捜査官は戸惑いを感じた。
 ・・・が、それも一瞬。次の瞬間には、全く別の『怒り』という感情が『彼』を支配する。
(誰が脅えているだと!?)
 自分が、いやここにいる全員が、口にするのもためらう厳しい訓練の末にこのオカルトGメンになれたのは、人に害をなす事が明白な、そう・・・この様な人外から一般人を護る為だ。
 その『誇り』を胸に抱き、腰に在る拳銃を抜こうと彼が右手を動かしたーーー瞬間。
 彼の首筋にはーーー『爪』が突き付けられていた。
『おいたすんなよ・・・キキ・・・』
 その声を聴いた時には既に、生命無き彫像となったかの様に彼の四肢はピクリとも動かなくなっていた。
 恐るべきスピード。信じ難い瞬発力。
 今まさに眼前にいるこの『悪魔』・・・そうこの『悪魔』が先程迄いたのは(ハッキリと明確に測定したのではないにせよ)こちらからは7、8メートル程にも離れた場所だったのだ。
 その事実がゆっくりと彼の心に刻まれた時、彼の心は、体はまた別の感情に支配された。
 恐怖。
 ガタガタと震えが走る。
 今この悪魔が、遊び半分でもこの鋭き凶爪をほんの少しでも動かそうものなら、その瞬間自分は・・・そう考えるだけで心臓まで凍りつく程の、峻烈なる恐怖。
 その恐怖は彼だけでなく、場にいる全員の心を縛っていた。
 心縛られ、足すくみ・・・一歩も動けず、声も出せない。
 そんな彼らの代わりに、口を開くのはーーー漆黒。
『ここに戻ってきたのはよォ・・・自分の仕事にやりのこした事ないか・・・って、不安になっちまってでなァ・・・』
 からかい混じりの声。しかし彼の心に響く言葉がその声の中には含まれていた。
(自分のーーー仕事・・・)
『ほら、そこだけ綺麗に無くなってるだろ?あれはな・・・』
「あれは・・・?」
 使命感と好奇心に押され、彼はそうーーー答えてしまう。
 悪魔はーーー笑った。
『ーーーコウシタンダヨ!』
 悪魔が『右腕』で、彼を薙いだ。
『ーーーっ!・・・!』
 声無き悲鳴を、全員が上げる。
 ゆっくりと・・・彼はスローモーションで崩れおちた。
 不思議な事に出血は無く・・・しかし伏した体勢から僅かに覗くその表情からは、生気というものがまるで感じられない。
『き、貴様・・・!』
 地に伏し、沈黙した彼と親しく過ごした同期でもある、数名の若手Gメン達。ある者は怒りに顔を歪ませ、またある者は涙を見せながら・・・同時に恐怖の鎖を断ち切る。
『ほぉ・・・?』
 霊刀ジャスティスの複製でもある量産型の支給されたナイフ、もしくは銀の銃弾を、憎き眼前の悪魔に叩き込もうとするーーー彼らの動きを制する様にーーー
 悪魔は面倒くさげに、口を開いた。
『意気込むのはいいけどな、ソイツは死んでやしねぇぜ?』
 足が止まる。
 悪魔が口にしたその言葉は、あまりに意外なモノだった。
『霊力を根こそぎ狩りはしたがな・・・この右腕は望んだ物以外を狩る事は出来ねぇのサ・・・さぁて、と・・・』
 Gメン達の前でそこまで言い終えた漆黒の『悪魔』の瞳が突如、禍禍しき光を帯びた。
『おしゃべりはーーー終わりだ!無論お遊びもな!』
 それぞれ構えるオカルトGメン達へと跳躍する悪魔ーーー
『覚悟しなーーー!!!』
 飛び交う銀の銃弾、魔を討つナイフを弾いて、猛威をふるうは魔性の右腕。
『キャーッハーッハーーー!!!』
 狂った様な、それでいて悦楽混じりの笑い。
その笑い声が途切れた時、後に残るのは累々と積み重なる様にして倒れる、十数名のGメン達。


 ーーーやがて黄昏時、夕陽が彼らを紅く染めたーーー


 ーそれと同時刻ー

「ふぅーーーここまで来れば安心安心・・・しかし・・・」
 下水の中に隠された知人の『放火魔』のアジトに侵入した『彼』は、背負っていた『荷物』をそっと降ろしながら・・・キョロキョロと周囲を見回すと、顔を輝かせた。
「おお!こんなにも日本の酒が各種ずらりと・・・今日は良い日だなぁ!役得役得!」
 実に嬉しそうな表情をし、とてもとても大事な筈の『荷物』をポイ!と無造作に投げ飛ばした彼は、スキップしながら命の雫の元へと急いだ。

 ーベチャ!ー

 ー潰れた様な音と共に、荷物は床に激突したー


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