ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(不安)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/10)




 ー終曲ー



「美神さんっっ!!!」
 愛車を駆って事務所にやってきた美神を待っていたのは、良く知った少女の、自分の名を呼ぶ声だった。
(何かあったのかしら・・・)
 そう思いつつ車から降りて、上を見上げる。
(・・・・・・)
 既に開いた窓のそばに、少女の姿は無い。
 嘆息し、とりあえずこのまま見ててもらちがあかないので中に入ろうと、事務所の玄関の扉を開けたーーー丁度その時。
『美神さーーーんっっっ!!!!!』
『わ、わぁっ!!?』
 こちらがびっくりするくらいの声量で再度名前を呼びながら、少女ーーー氷室キヌが飛びついてきた。
「美神さんっ!横島さんが!タマモちゃんも飛び出してったシロちゃん追いかけてって!だから私、美神さんが来るの・・・ずっと一人で・・・!」
 がっくんがっくんと、半分泣き顔で美神を揺さぶるおキヌ。
「お、おおおおおキキヌちゃゃゃ・・・おお落ち着いて!」
 何とか錯乱状態のおキヌを静めようとする、が、美神自身出会い頭の意外な出迎えに、こう揺さぶられていては・・・正直それどころではない。
 そんな折、またも良く知った青年の声が、耳に届いた。
「令子ちゃん!大変だ!喜ばしい・・・いや悲しむべき事に横島君が・・・な、何してるんだい?二人で?」
 彼ーーー西条は、何故か顔を赤くしている。
 そこで美神は、ハッ・・・と気がついた。
 がくがく揺さぶられ、少しだけだが衣服の乱れた自分。
 半泣きで、こちらを責めるかの様に男の名を口にする少女。
 しかも口にしたのは<飛び出してった>だの、または<追いかけてった>だの、受け取り方次第でいかにも誤解を招きそうな言葉ばかりだった気が・・・
 おそるおそる、辺りを見回す。
 予想、的中。いつの間にかひそひそとーーー
 <いやねぇ・・・全く最近の若い娘達は・・・>
 ーーーなどという声が周囲からいくつも、注がれる無数の好奇の視線と共に、聴こえてくる。
『ち、違ーーーーーう!!!見せモンじゃないのよ!散れっ散れっ!』
 真っ赤な顔で、開きっぱなしの玄関の扉に手をかけ、西条が慌てて中に入った瞬間ーーー美神は全力で叩きつける様に、扉を閉めた。


 あの後、迷わず事務所を飛び出したシロを、タマモは追いかけていた。
 行き先は決まっている。アイツのアパート。
「まったく!靴くらい履いてきなさいよ!」
 次々と屋根を飛び越え、バカ犬の匂いを辿り、同じルートを突き進む。
 そうしながら・・・シロが飛び出した後の事を、タマモは回想し始めていた。


「おキヌちゃんはここで待ってて!」
 迷わずシロと同じ様に(窓から裸足でという意味では無い)横島のアパートへ向かおうとしたおキヌを、タマモは鋭い声で引き留めた。
「え・・・タマモちゃん!?何で!?」
 珍しく(といっても無理はないが)強い口調、そして懐疑的な眼をこちらへ向けてくる。
 タマモは一つため息をつき・・・言った。
「誰かはここで、美神さんを待ってないといけないでしょ?おキヌちゃんは今日どうするにせよ、学校とかの事もあるんだし、それに・・・おキヌちゃんの足じゃ・・・」
 おキヌはがっくりとし、視線を床に落とした。
 それを見、タマモも沈痛な表情を浮かべる。
「・・・大丈夫!だって横島よ!よ・こ・し・ま!ほら、いつだったか・・・そう!臨海学校の時!」
 おキヌがちらりと、タマモの方へと視線を向けた。
 勢いにのるタマモ。
「あいつ、トランクに忍んで、それを美神さんに見抜かれて、厳重に鎖で縛られて海に落とされても・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 ごほん!とタマモは咳払いを一つし、身を翻した。
「あ〜〜〜・・・というわけで行ってくるわね!何だか心配する気、失せちゃったけど・・・」
 もう一度、おキヌの方を見やる。
 少しは気が紛れた様だが、まだ顔は青いままだ。
 嘆息し、タマモは胸中で毒づいた。
(無事でいなさいよ横島!シロやおキヌちゃん、そして美神さんを悲しませたら、私が承知しないから!)
 高鳴る自分の鼓動が、皆に心配をかける横島への怒りの所為だけだと思い込み、タマモは事務所を後にした。


「・・・見えた!」
 肉眼で見える程、横島のアパートの間近に近づいた時。
 ドクン!
(・・・・・・?)
 更に高鳴る心音と共に、何故だか気持ちが落ち着かなくなる事を不思議に思いながら、タマモはラストスパートをかけた。



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