ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(接触)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/ 7)




 ー終曲ー



 彼はそこに在る。
 いつから、どこから、どうしてーーー?
 答えない。
 何故ならその必要もないから。
 そもそも今現在の彼にそんな事を問えるモノなどいない。
 ヒュゴ!
 微かでも肌寒く感じられる風が、強く彼の躯を呑み込み、吹き散らそうとする。
 常人ならば、よろめくどころか誇張無しに飛ばされてもおかしくはない程の突風。
「・・・ふん」
 しかし彼は『そんなモノは最初から無かった』とでも言わんばかりに、銀色の長髪と、漆黒のマントだけをなびかせて、どこまでも悠然とその場にたたずんでいた。

 ー都会の高層ビル群ー

 そのビルの内の一つ、そして最も見晴らしの良い場所。
 そこは、その場所はたった一つ。
 屋上。
 この瞬間、このビルに在る誰よりも高い、この場所から彼は彼方を見据えている。
 ヒュ!
 またも風が吹いた。
「・・・・・・」
 その風には先程と違い、何かを感じとろうと彼は目を伏せ、感覚を集中させる。
「あそこ、か・・・」
 タン!
 虚空へと身を踊らせる。
 バカな!誰もがそう思うような、まさに自殺行為。
 しかし、実際目にする者が居たなら、もし居たならば真に驚愕するべきは。その次に起こった信じ難い光景に、だろう。
 飛翔。
 朝の陽射しの中、黒い翼が宙を舞った。


 彼はそこに在る。
 早朝、24時間営業のコンビニ帰り、何やら幸福そうな表情をしながら、いつもの服装で片手には何やら色々と腹ごしらえする為、無数の食品が詰まったビニール袋を下げていた。
 彼は答える。問われてもいないというに。
「明日は給料日ーーー!だからこそこんな贅沢もーーー!」
 日常、一日の始まり。
 その始まりに空腹で目を覚ますというのは、彼にとってはもはやそうあるべき事象だ。
 しかしこの日の彼はそこで枕を濡らす事などせずに、手元に残るなけなしのほんの僅かな『銭』全てをかき集め、ただひたすら猛然とコンビニへと駆け抜けてゆく。

 ーそうして帰路につき、彼はホクホク顔だったー
 ーまさにこの世の春を謳歌するー

「幕の内、ハンバーグステーキに鮭・・・弁当万歳!」
 よせばいいのに、彼は諸手を上げて万歳してしまった。
 ヒュ〜〜〜・・・ベシャ!
 放物線を描き、地に潰えしは今日を生き抜く為に必要な源。
『あ・・・ギニャアィアァーーーーーーー!!!!!』
 常人の声帯では到底不可能な叫びと共に、彼は地に堕ちた三つの『希望の星』をその手に取り戻そうと、疾走する。
 だが・・・時に現実は残酷だ。
 近所の野良犬、猫を筆頭に、たまたまどこぞに在る『恐』ろしい『山』から出張してきたイリオモテヤマネコやニホンオオカミ、チーター等々・・・その他多数が『希望』へと殺到する。
「あああああ・・・」
 満足した表情で動物達が去り、残るは汚れを拭くちり紙のみ。
『メ〜〜〜〜・・・』
 燃えつきた灰の横を、ゆっくりと通り抜け、最後に残った動物はちり紙をくわえ、彼方へと去っていった。

 ひゅうぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・
 虚しすぎて風がーーーーー吹くーーーーー
 灰は虚風に吹かれて、コロコロと道を転がるーーーーー

 ー瞬間ー

「!」
 ゾクゥ!
 悪寒が走る。背筋を這う寒気にも似たその感覚に彼は、瞬時に身を起こした。周囲の気配を探る。
(どこだ・・・何なんだ!?)
 警鐘を打ち鳴らす本能に、頬を流れる冷や汗。
 やがてーーーソイツは現れた。
 無限に降り注ぐ陽光を遮る様にし、なびくのは漆黒。
 フワ・・・
 銀の髪と同じ色の瞳で彼を射抜き、羽の如く軽やかに地へと降り立つ。
 やがて向き合うと、表情一つ変えずに、ソイツは口開いた。

『タダオ・ヨコシマ・・・だな?』

「いえ人違いです」

 『横島』は即座に、迷わずそう答えた。



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