ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ復活の日々初日後編[ハイ・スピード・ラブ・ファントム]


投稿者名:バルムンク・ダテ
投稿日時:(01/10/ 6)

愛――お前らも大概好きだよな。だがな、この世に愛なんざ在りはしねーぜ。
言うと思っただろ?まぁ、聞けって。俺様は興味ねぇことなんだが、
ここで演説ぶつって決まってたから、ちょいと真面目に考えたんだからよ。
お前らは愛といえばとりあえず最初に浮かぶ言葉は何だ?
恋愛?家族愛?自然愛護か?それとも親愛なる神様かなんかか?
なんで愛する対象によって呼び方が違うのか疑問に思わないのか?
質を明らかにコントロールしてるだろ、お前ら。
優先順位は人それぞれだろうが均等でないのは疑いのねぇとこだ。
それって本当に「無償の愛」って呼べんのか?打算くせぇとこが気にくわねぇ。
人間ってよ、神のコピーなんだろ?平等に愛することが何故出来ねぇか?
結局、劣化コピーだったんだろな。
歪んだ愛だから、独占欲とか、しょーもないモンがついてまわる。
人が争うのは愛が無いからだろ?人間の愛なんて思い過ごしさ。
どうだい?お前らは、これでも愛を信じられるのか?
愛は相手を選ばないから愛なんだ……
でも、そんなモンはこの世の蜃気楼だ……救えねぇ生き物さ…
何匹殺したってどっからも文句は出ねぇだろ?
そう、あの女だって大事な一人さえ無事なら、後はどうでもいいのさ…

灯郎はすぐさま、自分が腰をおろしている棺の異常に気づいた。
棺が、「唸ってる」とでもいうのか……鳴動している。
「ま、力技で結界破るってのは聞いてたから……」
呟きながら、棺から距離をおく灯郎。
ベギャッ、バギビギバギベギベリッ
漆黒の棺が弾け、砕け散ると、中にいた横島が飛び出した。
それは確かに灯郎が言うように以前やった火事場の馬鹿力だ。
朝方の疲労が僅かにでも残っていたなら出来ない芸当だっただろう。
通例通りなら横島はここで一時的に行動不能になるところではあるが、
「へばってる場合じゃねぇ、ルシオラが……すぐ行ってやらなきゃ…」
それは霊感というよりも魂の共振とでも呼ぶべき知覚であった。
崩れ落ちそうになる肉体を、筋力とは異なる力で支える。
「そいつぁ、お気の毒。テメーは何処へも向かう事は無いぜ」
灯郎は静かな口調で言い放ったものだった。
横島は霊波を最大限に練って右手に集束させる。
「行くさ……。どんな無理を通してでもな!」
ジャウッ
横島の『栄光の手』が一閃し、灯郎の側頭部に直撃した。
「神に祈る暇くらいくれてやる。誰にも水を差されない状況下で俺様と戦う以上、
どっちかが死ぬまで止まらねぇんだからな」
「!?」
何事も無かったように淡々と語る灯郎に戦慄を覚え、反射的に右手を引き戻す。
その瞬間に今度は灯郎の剣が閃き、『栄光の手』を貫いて横島の胸をかすめる。
ヒュオッ、ズビュッ
「うわああぁぁ!?」
「何故か?俺様が殺し屋だから、俺の技を止めたきゃ俺様を殺すしかねぇからだ」
傷を抱え込むような格好になりながら絶叫する横島を尻目に語る灯郎。
「ハ…『栄光の手』が…全然攻撃を止められねぇ…!!」
実際には即死に至るパワーを受け止め、相殺していたのだが、
剣に素通りされてしまう以上、遠からず横島は斬り殺されてしまう。
「全身の霊気を一点に統合して高出力の霊波の刃にしてるのか?
いかにも地上の虚弱な連中が開発しそうな器用な技だが……」
灯郎はそこで言葉を切り、剣を握る手を力無く垂れ下がらせると気を鎮め、
そこから一気に裂帛の気合を込めなおす!!
「があぁぁぁぁっ!!!」
「う……うおぉぉぉ!?ちょ…?消える!?」
突風に煽られるような感覚の中で、横島の右手に纏った輝きが吹き散らされた。
「と、こんな具合に小手先の技で、もって生まれたキャパの差は補えねぇわけだ」
「霊力が使えなくなってる?な…何しやがった!?」
「俺様の瘴気を叩き込んでやっただけさ。
テメーの深層意識が屈服した影響で霊体が萎縮したんだ」
「そん……な…」
「「攻める」ことに特化されてる俺様ならではの芸当さ…イヤ、「殺す」…か」
相手の能力を「殺した」灯郎は軽く言うと剣を構えなおした。
「くぅ!?」
横島がその瞬間に思い浮かべた事は、ルシオラと手を握った事であったり、
彼女との約束を果たした時の悲しみであったり、
彼女のいないこの一年間であったり、今朝の再会であったり、…………
彼は、自分の死を悟った。少なくとも本人はそう思った。
ドシュァァァァァッ

「なら、力で私を止めるしかありません」
男は平然と言ってのける。
「貴女が殺めた者達の無事だけを、祈る方がいなかったとでもお思いですか?」
今度は牧師のような優しい声音で、「魔術師」は更に語る。
「さぁ、見せてください!人間など、弱者など関心の外にあった素敵な貴女の本性を!!」
最後に詩を吟じるような、落ち着いた中に情熱を込めた言葉を発する。が、
「ン?もしや、幻像?」
微動だにしないルシオラの姿に、生命の気配が無い事に気づく。
「『敏捷性のケタが違う』……なるほど、何時の間にすりかわったのか…しかし…
彼女の『匂い』…まるで人間のそれでした…私が愉しむには足りませんね…
いいでしょう。今回、私は観客となり、灯郎さんにお譲りしましょう」
黒の男は懐からパイプを取り出し、火をつけ、一息はいてから口にくわえた。

灯郎の剣は虚しく空を薙いだ。横島がはるか間合いの外に移動したからだ。
「チッ!飽きっぽい野郎だな。ま、いいか…遊んでやるぜ」
「ルシオラ……!!」
「間にあった……もう、大丈夫だからね」
横島の脳裏に過去がよぎったのは最後を覚悟したからではなかった。
魂で通じ合った者同士が引き合った為に思念が混乱していただけのこと。
互いが互いを救おうとし、求め合った。そして、それは叶ったのである。
「「大丈夫」…か、上等だ。さっきの続きといこうぜ」
「言われなくても…あなたのやった事は忘れちゃいないわよ!」
シュッ
言うなり、ルシオラは弾かれたように飛び出し、灯郎の剣の間合いの内側に入る。
「クッ!流石はスピード・クイーンってトコか!!」
すかさず霊基麻酔を帯びた両手を相手の胴に叩き込もうとするルシオラ。
ドギャッ、バチィッ
灯郎は剣の柄で彼女の両腕を打ち払い、跳躍する。
「遅い!!」
ルシオラが容易く灯郎の背後につく。
先刻の戦いのように後手に回っては彼女の俊敏さは活かされなかったが、
今の彼女の動きはよどみなく正確なものだった。
「調子に乗ると止まらねぇタイプってわけか……やってくれる…!!」
シュッ、ガッ
またしてもルシオラの拳が迫るも、灯郎も肩越しに剣を回して受ける。
(この男…まさか…)
ガシィッ、ビシッ
続いてルシオラは相手の剣を両手で掴み、彼の腕に蹴りを入れる。
「これで………!!」
「ナメんな!!」
灯郎は咆えて、剣ごとルシオラを壁面に叩きつけようとする。
「クッ…!」
うめきつつルシオラは手を離して飛び退く。
「ヘッ!あてが外れて残念だったな…
しっかし、そんなに俺の太刀に怯えるこたねぇだろ?」
「剣を使う以上、攻撃を封じる手段なんか幾らでもあると思ってたけど……」
灯郎には通用しない。それは「絶対攻撃」という発想法こそが彼の能力だからだ。
「さて、と…それじゃ本腰入れて仕掛けるとすっかな……」
「…………!!」
絶対的に、この相手に攻めさせるのは危険なことだ。
それは疑いにないところであったが、このまま攻め続ける術もない。
「勿体ねぇ話だよなぁ…おっそろしいスピードもってんのに枷がはまってちゃあなぁ」
「…………え?」
一瞬、理解が遅れた。彼の指す「枷」とは何か?要した時間はたった一瞬。
されど、一瞬もの間、ルシオラは呆けてしまっていた。
ジャッ
灯郎の移動も一瞬。剣を振り上げ、横島の眼前に飛び込む。
「あ……」
横島は思わず息を漏らした。およそ、それが彼の反応の限界だった。
ガッ
振り下ろされる剣さえ超過する速度で、ルシオラが割り込んで受ける。
「いいねぇ!俺様にとっちゃ絶妙のタイミングで飛び込んできてくれたぜ」
灯郎は歓喜を隠す風もなく言う。
このタイミングが速すぎては自分が攻撃されてしまうし、
遅すぎるとうっかり人質を殺してしまう。
「少しは恥じたらどうなの!?こんな卑怯な真似……!!」
「標的を始末すんのに最も確実な手段をこうじるのは殺し屋のプロ根性さ。
勝負そっちのけで他人を庇うテメーを見てる方がよっぽどハズカシイぜ?」
言いつつ灯郎は剣を振るう。
ギィン、ガキィッ、ギキィンッ
ルシオラは避けるわけにいかず、その斬撃を受ける。
だが、重い攻撃を間断なく捌き続ける事は不可能。
徐々に腕が上がらなくなってくる。
ドガッ
突如、灯郎の蹴りがルシオラのみぞおちに突き刺さる。
「かふッ!?」
彼女の意識が剣に集中したところをついたわけである。
ルシオラの姿勢が沈みかけ、灯郎が彼女の肩口を踏みつける。
そのまま足で床に押しつけられた格好となってしまうルシオラ。
「と〜った♪いい眺めだぜ?動けなくしちまや、可愛いもんよ」
「うぅ…!どきなさいよ!!」
「ダメダメダメダメ。俺は勝負に勝ったら必ず相手を殺すんだ。
敵に手心を加えるという事は決闘を侮辱する事だからな。
決闘を安っぽくするというのは戦士に対する冒涜だ。
人は命を尊重するから殺しは忌み嫌われとるが、俺は死を尊重するんだ。
死は生命の終着点だ。命と同等の価値があるとはおもわねぇか?
死が侮辱されるという事はそいつの命が否定されるのと同義だろう?」
このやりとりを目の当たりにして、横島は絶望していた。
ルシオラを助けたい。されど、助ける術もない。
ヘタにでしゃばって状況が悪化する可能性を考えてしまう。
そう、あの時のように。
客観的に見れば、あの時は悪化だったとは一概には言い切れないだろう。
だが、結果からすれば最悪でしかなく、他の可能性もあった筈だった。
このままではルシオラが死んでしまうだろう。自分にそれを覆す事はできるか?
できるかもしれないが可能性としては極限までゼロに近い。
彼女自身がどうにかする可能性とどちらが高いか読みかねる。
正しい選択は……………?

次回は初日終編

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