ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ復活の日々・初日中編[]


投稿者名:バルムンク・ダテ
投稿日時:(01/10/ 5)

真なる絶望の正体――フフフ……この世で最も絶望する事…それは愛する事ですよ。
信じられませんか?フフ、失敬!そうでしょうね。ですが、ちょっと考えてみてください。
愛されると誰も自分に価値を見出せますよね?
一方、エネルギー保存の法則をご存知ですか?エネルギーが増えたり減ったりというのは、
ソレがどこかから来たり、またはどこかへ行ってしまっただけで、
世界全体におけるエネルギーの総量は変化していないというのです。
愛する者から愛してもらえないと辛いのは実はそういう事なのです。
愛し合う。とは、自分の存在を他人に預けるという極めて非効率的なモノなのです。
他者を愛せば、多かれ少なかれ、自分は相手に望まれるべくならざるをえません。
しかも、全てをなげうってでも、愛した方の危機を放ってはおけない…………。
私は間違った事を口にしてると思われましたか?そうかもしれませんね。
ですが、愛が本当に手放しに素晴らしいもので、苦痛を伴わないのであるならば、
今すぐに、森羅万象をもれなく愛すると宜しいでしょう。……ほぅら、できないでしょう?
いえ、できた方がいらっしゃったとしてきっと躊躇された筈です。
愛の甘美さはドラッグと同じ、破滅的な恍惚感なのですよ。
自分自身の純粋な想いが、最も残酷な絶望なのです――。

ドシュッ
残ったルシオラの像に、剣が上段から食い込んだ筈であった。手応えも無く、彼女が消える。
「これは…!?」
ガチィィン
背後から迫った気配を感じ取り、剣士は素早く防御する。気配の主はルシオラ。
「網膜に幻影叩き込まれてるようなノロマにしちゃ、よく反応したじゃない?」
灯郎のお株を奪う神経逆撫でするような口調のルシオラ。相手は苦りきった声音で言う。
「……二度とやらねぇ…油断して、この眼で何時までもテメーを眺めるような真似は…」
<そうでしょうとも。貴方は学習ができる方です。信じていますとも、貴方のお言葉は。>
突如として、天空に声が響いた。剣士は舌打ちの後、天空に言い返す。
「段取りが早いじゃねぇか……もうちっと愉しませてくれても罰はあたんねぇぜ?」
<フフフ…幻術も完全に見切ったことですし、宜しいじゃありませんか…
相応の舞台でないとショーの魅力も半減するというものですよ……さて、今度は美しい
お嬢さんにお報せしたい事があります。姉妹揃って今夜中に私どものショーに
参加なさる事をお勧めします。なにしろ愛しい恋人もお待ちですからね。>
それを聞いてルシオラはまともに顔色を失った。怒りに我を忘れて凶刃に倒れた横島を
ほったらかすなど自分のする事とは俄には信じ難い。
横島が倒れていた場所にあるのは巨大な黒い棺。
それが、ゆっくりと地面に沈み込んでゆく。ルシオラの手が伸びかけ、
「待てよ。テメーは今、俺様の太刀の間合いに入り込んでるんだぜ?」
「………!!」
切り結んでいた時の剛直な威圧感とは異なる鋭い感覚をぶつけられ射竦められてしまう。
棺桶が沈み込むスピードは緩やかなものだった。しかし、今は手が届かないのだ。
時は、残酷なほどゆっくりと刻まれていた。命を直接引き裂かれたほどに苦痛を伴って。
「言っといただろ?余興だ、ってよ。初見で殺しあっても確実にとれる相手じゃねぇからな」
「じゃあ、イベント全体の主旨を教えて!何でこんな事をする必要があるの!!?」
「知らね。と、いうか必要でやってる事じゃねぇんじゃねーか?」
「なんですって!!?」
「つっかかんじゃねぇよ。興行うちはミスティックの趣味さ。俺が奴に肩入れする理由は
テメーが人間野郎とつるむのと似たり寄ったりってなもんか?あんま睨むなって」
煙たそうに自分とルシオラの間の空間をパタパタ扇ぎながら、灯郎は背後で棺が完全に
失せるのを見とめると、彼女を貼りつけていたプレッシャーを解き、軽い口調で続ける。
「ほら、さっさと行って、連れを集めてこいよ。奴の拷問はエグいから人間にゃきついぜ?」
せせら笑いながら、碧の剣士はテントに入っていった。

ルシオラの行動は迅速だった。二度同じミスを犯せば今度こそ横島が殺されかねない。
近所の公衆電話で非常ボタンを使って警察に連絡し、西条につないでもらう。
「どうしたかね?」
「ベスパ達をこっちへ大至急遣してください。
それから……ミスティックってご存知ですか?襲撃されているんです、そいつに」
「は?ちょっと待ちたまえ…それって多分、
魔女狩りの亡霊『魔術師(ミスティック)』の事じゃ……」
「何か対策があったならベスパに教えといてください。私はもう行きます」
「少し落ち着…」
ガショッ
行動は迅速だ。そしてなにより、必死だった。

灯郎は食事中だった。
人間の肉はあまり彼の嗜好に合う味ではなかったが、
地上で手頃な量を手っ取り早く欲した場合、他の生物は向かない。
だが、友人が簡単に調達してくれる。この日はハクビシンの肉だった。
「今食べて大丈夫ですか?私は駄目ですよ。食後の運動は横っ腹が痛くなる」
笑ってるのか、泣いているのか不明な声を発したのは『魔術師』だった。くだんの友人。
「ふぅん、そりゃ人間だからか?それともアンタ特有の弊害か?」
興味はさして湧かなかったが、ただ平気だと言うのも芸が無いように思え、質問してみた。
「判りません。私は、人ならざる人ですから」
感慨深げに、魔術師は言いながら虚空に焦点を合わせていた。
すぐに言葉が返ってくる。
「だから俺様はアンタが気に入ったんだ。失う事の怖さの極限の中にいるのが大好きで、
その為に他人を巻き込む事を屁とも思っちゃいねぇ。失う事を恐れるアンタの人間臭さ、
他人を巻き込むエゴも人間臭ぇ、なのに恐怖を求め、自分が邪悪と認める。
アンタは人のクセに全く薄汚くねぇんだ。俺様の親父に足りなかった全てを持ってる」
「お亡くなりになった方を悪く言うのは感心しません」
友人の言葉に、魔術師は精一杯適当と思う返事をしてみた。まるで意味など無かった。
「なぁ、あの背教者、他にも仲間連れてくるかもな」
そろそろ長い付き合いだ。友人の言葉を受けるべきかどうかはすぐに判る。
「素晴らしい。更に私の命が危うくなるのですね。刺激的です」
魔術師は隠す事無く感想を述べる。刺激こそ自分が求める至高。己が魂の価値。
「へっ、何でもアリの怪しい奇術使いのクセに…文珠使いを奪還されると厄介か…」
灯郎は珍しく落ち着いた声音で言った。友人は逆に似合わない陽気で答えた。
「貴方が護っている限り、先ず有り得ませんが、ね」
そこまでで閑談は打ち切られた。テント内に三つ目の気配が生まれたからだった。
「一人たぁ……なめられたもんじゃねぇか、えぇ?」
「私にあたられても困りますよ。……そうですねぇ、少し私もまみえておきますか」
「気をつけろよ、敏捷性のケタが違うぜ」
「ソレ、気をつけようが無いじゃあありませんか……」
『魔術師』は恨めし気に、されどどこか嬉しげに友人を一瞥してから部屋を去った。

ルシオラがテントの中央まで歩を進めると、当然の如くライトアップされた。
「急いては事を仕損じますよ、お嬢さん。御一人で私を殺せますかな?」
暗闇の中、先程より確実に至近で語りかけてくる『魔術師』。
相手の姿が見えなくともそれだけは判る。
「要求は呑むわ。二人はもうじき来る。だから、彼は解放してくれていいでしょ?」
何故、こんなにも心が冷える気持ちになるのだろう?
先程の剣士とは好対照なこの声の主が原因である事までは容易に知れるが。
「…二人……そうですか…メフィスト・フェレスはいらっしゃらない…」
残念そうにかぶりを振って溜息をつく気配。
「関係ないでしょ!あのヒトは!!」
巻き込めない。彼女は知人ではあっても『他人』なのだから。
「関係などどうでもよいのですよ。私を殺せさえすれば、ね。
…おっと、誤解を招きましたかな?私は死ではなく生と死の狭間を欲しているのですよ。
貴女の創造主ほどには………私は悟った者ではありませんからね。」
暗黒は悪びれる風も無く、マイペースに言い放った。
こんな言葉を聞かされて、ルシオラの激情が甦らぬ筈も無かった。
「だったら他所でやってよ!ワザワザ私達じゃなくったって……」
『魔術師』は――恐らく、今までも歩み寄りながら声を発していたのだろう――。
足元からゆっくりと光の世界に進入しつつ、こちらも語調を強めて言う。
「他所で勝手に他人と殺しあう分には構わない。ですか?冗談ではありませんね!
今現在地上における最強力たるあなたの手にも余る私の相手を他者に任せると?
一年を経た現在も復興が滞るほどに霊的拠点のことごとくを滅した
貴女が言っていい台詞ですか?」
「黙れ!!」
ズバァァァッ
怒りに任せて彼女が放った霊波が、タキシードの男の姿を打ち砕き、四散させた。
「戦にはてた者とは、勝者の志への礎となります。
勝者が志半ばに戦いを放棄した時、その礎は無価値になるのではありませんか?」
何事も無かったように、
まるで町の散策の最中かという軽い足取りで再び姿を現し、『魔術師』は続ける。
「それは…」
不意に、ピンと跳ね上がった口髭の男の腕が肩から新たに生え、六本になる。
「死を侮辱された魂達に、貴女は一生かけて償うべきなのですよ。
生きとし生けるなんぴとが貴女の幸福を望もうと、
貴女に本当の意味で愛があるのなら、人間と馴れ合うなどおやめなさい」
男は感情を込めない態度で冷ややかに言い放った。
「私……私…は…」
今度は男の白い手袋がそれぞれに蠢き、サーベルを象る。
「貴女の大事な想い人の心は永遠に貴女のものです。
しかし、貴女が貴女に殺された者達に心を割かなければ、彼らは救われないでしょうね!」
ザシュッ、ズシャシャシャッ、ドカッ
言葉とともに彼が振るった六本のサーベルのことごとくをその身に受け、
ルシオラは呆気なく地に伏してしまう。
「私……ずっと一緒にいたいの……本当に、それだけでいいから…お願い…」
何時の間にか、彼女の感情は弾け、目から涙がこぼれていた。
つづく

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