ザ・グレート・展開予測ショー

狐火の報酬。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/10/ 2)

「この時期は外回りがしたいよな、折角のいい天気なのに」
その日業務の終わった夕方の西条。
自動販売機で煙草を購入して、ビニールを切る。
真新しいボックスから一本取り出して、口にくわえる。
「えっと、ライター、ライターっと」
喫煙者にはままある事だ。常備してあるライターが見当たらないのだ。
「あん?はて、どっかに落としたかな?」
ライターは大した額ではない。コンビニで100円が相場だ。
「ちぇ。しょうがないなー」
と、財布の口を開くと、間の悪い事に一万円札のみである。
「あー、今ので小銭つかっちゃったかー」
別段、100円の品を一万円を使って購入する事は違法ではないが、
お釣りの量や、店員さんの手間隙を考えると、どうも買いにくい。
「ちぇ。参ったな」
買ったばかりのボックスケースでは、咥えた煙草を戻せるような状態では無い。
「誰かに火でも借りようかな?」
しかし、昨今禁煙ブームにである所為もあろう、辺りにライターを持っている人はいなさそうである。
通りに面した硝子張りに写る自分の姿が少々なさけない。
「煙の無い煙草を咥えてるなんざ、絵にならないなぁ」
水にでも落としたものと諦めて、玄関備えてある灰皿に捨てようと決心し始めた時、
オキヌちゃんとタマモの姿がある。
厄珍堂のロゴの入った紙袋を持参しているところを見ると、オカルトグッツの買い出しという所か。
「あっ、西条さん、こんばんわー」
オキヌちゃんが西条に気付いて挨拶をする。慌てて、煙草を指に挟んで、
「やぁ、オキヌちゃんに、タマモちゃん、買い物の帰りかい?」
すると今度はタマモが。
「うん、厄珍堂で火炎封示の霊札をね。近いうちひのめちゃんが来るんだ」
なるほど、確か隊長は今度娘の家に行くとかいってたな、と思いだした時、
「そういえば、タマモちゃんも火炎だせるんだよね」
良い事を思いついたと西条である。
「えぇ。狐火って奴だけどね、それがどうかしたの?」
「ちょっと、爪先に灯る程度の火を貸して欲しいんだけど、いいかな?」
タマモとしても、断る理由が無いし、自分の力を誇示したい、という目的もあって、
「いいよ」
と、左手の人差し指を立てて息を吹きかけると、ライター大の火力が発生する。
そこへすかさず、煙草を咥えて、
「いやー、助かったよ、ライターが丁度切れててね」
シロ程ではないが、匂いに敏感なタマモがちょっと嫌そうな顔をしてから、
「ちょっと、そんなんで、私の狐火が欲しかったの?」
「ん、あぁ、まぁね。助かったよ」
タマモだけでなく、オキヌちゃんも少しご立腹気味で、
「それなら、最初からそういったほうがいいじゃないですか、タマモちゃん達、煙草苦手なんですから」
流石に悪かったかな、と丁重に誤る西条に、
「あのね。狐火だって、簡単にぽいって出せるわけじゃないのよ。お礼の言葉じゃなくてね」
タマモの目が少し輝いて、
「きつねうどん奢って!」
と、来たのである。
「た、タマモちゃん。いくらなんでも西条さんに悪いわよぉ」
すかさずオキヌちゃんが、咎めるが、
「食事かぁ・・」
今日は同僚も都合が合わなくて、一人で帰る積もりであったので、
「まぁいっか、蕎麦屋ぐらいなら。なんならオキヌちゃんもどうだい?」
「えっと・・」
少し考えたようだが、
「じゃあ、お言葉に甘えて」
一人の食事が美女2人となれば、まぁ悪くはないとも言えるか。
「で、どこかお勧めはあるの?」
「うん。近くの駅蕎麦の店が結構いけるんだ」
「立ち食い?折角なんだから、もうちょっと、こう格調のある所がいいんじゃないかな?」
西条の発言は同然である。
「かと言って、ファミレスのはちょっとな」
これも当然である。すると、オキヌちゃんが、
「そういえば・・このすぐ裏手にちゃんと暖簾を垂らしている高級そうな店があるんですよ、其処にしませんか?」
せめて、この程度の格調の店に行かなければ、西条の顔も立たないと、言う奴である。
その店は高級店と言ってよかろう。
歴史は浅い部類だが、飛騨から取り寄せた蕎麦粉を使い、水もろ過水でなく、さる名水を使用している。
「すごいわぁ。このお店」
「なんで、そんな事が判るんだい?タマモちゃん」
「匂いで判るじゃない、おいしそーな匂いよ」
流石動物の鼻と言おうか。
「らっしゃーい。三名様ですか?よければお座敷があいておりますが」
奥から、声が掛かかる。
「どっちがいい?」
「お座敷!」
タマモがすかさず注文をするが、
「タマモちゃん。私達、スカートよ。お座敷だと、ずっとお行儀よくしてなくちゃいけないでしょ?」
仮にも男の人がいるのですから、と耳打ちすると、
「いいえ。当店は掘り炬燵みたいになっておりますから、スカートでも大丈夫ですよ」
そうなれば、お座敷の方が都合がいい。
西条は座敷の場所を確認して、店員に、
「すいません。お手洗いは何処に?」
向こうですと案内され、男の事、すぐに戻ってきた。
お品書きも机常備でなく、店員が持ってくる形式となっていた。
「け、結構な値段ですね・・すいません。西条さん」
かしこまるオキヌちゃんだが、
「いや、別にいいさ」
確かにライターの火と取引するには高額ではあるが、
この店での食事料金は一万円で払っても平気な料金設定である事は間違い無い。
「好きなもの、頼んでいいよ」
西条は注文の品を決めている。タマモは入る前から決まっている、オキヌちゃんはタマモに合わせるた。
「ご注文はおきまりでしょうか?」
注文が終わると、お手拭が配給される。
手をふいた後、西条は何も言わないで、顔に持って行く。
「ふぅ。まだまだ暑いねぇ」
目を開けると、オキヌちゃんもタマモも少し驚いた様子だ。
「ん?なにかあるのかい?」
タマモが、
「いや、西条さんがそんな事をするなんて・・・その・・・親父くさい」
絶句、とまではいかないか。
「そ、そんな事ないよね?オキヌちゃん?」
「あは、あはは」
誤魔化すのが下手な性格である。
「・・・・・そんなに親父くさい?」
2人とも首を縦に振る。
「ぼ、僕はそんな年じゃないぞっ!」
「でも、今年で28歳でしょ?」
そういえば、タマモはともかく、オキヌちゃんとは10才差である自分に気付く。
「そうかぁ、俺って四捨五入すれば30かぁ」
なんとなく、暗い顔つきになるのも、無理はないか。
「でも、ま、そんなに気にする事もないですよね!」
明るく勤めようとするオキヌちゃんの効果も合ってか、少し平静さを取り戻す。
「そうよ。それに、女だったら、ガキんちょよりも、しっぶーいおじ様の方がいいわよねぇ」
タマモが指摘する。
「そんな物かなぁ?」
「そうよ。さっきトイレに行ったのも、私達が掘り炬燵に入る前、男がいると苦労しそうだから、でしょ?」
えっ、とオキヌちゃんは軽く驚くが、なんて事はないよ、という西条の表情だが、
オキヌちゃんには意外な行動に移ったようだ。
「そういう事が出きるところがガキンチョとの違いなのよ」
もっとも、そのガキンチョが誰を指すかは暗黙の了解であろうか。
「まぁね。仮にもレディーファーストの国にいたんだから、さ」
まっ、パートナーがアレでは、であるが。
「でもね、あの女は、そんなまどろっこしい事していたら、駄目よ、あれで案外鈍いんだから」
酒も呑んでいないのに、ケラケラと笑い始める。
「あの女はさぁ、気に入った奴なら裸を見せられても動じないんだから、そんなまどろっこしい事してたら、ね」
「・・・横島君はそんな事をしているのか?・・うらや・・・いやっ。許せないな」
言葉を隠した方が本音であろう。
「それにあの女はさぁ、男勝りだけど、結構寂しがりやなんだよ、誰かが傍にいると、情がうつっちゃうのよねー」
流石タマモの眼である、という所か。
「つまりそれは今の僕の状況は不利ってコトか?」
西条、終いにはタマモ先生と、呼ぶのではないか、というぐらいの剣幕である。
「正直そうね。でも今はアイツが馬鹿だから、大丈夫だろうけど、あの女が酔っ払った勢い、でね」
「もしかして、かなり不味い状況?」
汗が額に流れ落ちる。
タマモが、うーん、とうなった時、
「お待たせしました、たぬきうどんに御座います」
注文がやってきた。
「やったー。おいしそー」
割り箸を取るのも早業である。
「ふーん。これは南海の鰹だしね。いい風味」
こうなると、話は途切れてしまう。
「ねぇ、タマモちゃん」
かっこむ前にオキヌちゃんが、
「それじゃあさぁ、西条さんは、どうすればいいのかな?」
一旦箸を止めて、
「簡単。オキヌちゃんが、今後横島と仲良くして、少しじらした時に西条さん」
西条のは、姿勢を正して、
「なんで御座いましょうか?」
「拳骨覚悟でキスの一つでもしてあげな。そうすれば、ばっちぐーよ!」
そういうと、目の前にあるきつねうどんと格闘を始める。
「へっ?」
箸を取るのも忘れている西条であるが、
「わ、私がんばりますから、西条さんも、アドバイス頂いたんですから」
「でも、令子ちゃんの拳骨は・・」
たしかに、プロ並である。
「あっ。そうそう」
思い出したように、こちらを向いて、
「それもあるわね。照れ隠しで暴力振るうけど、それを耐えられたら、ああいうタイプは従順になるよ、がんばって」
なかなか、キツイ一言であるようだ。
きつねうどんとの格闘はまだ続く。
今後、どうなるかは、私の知ったところではないが、
「でもね。西条さんはあれで気の弱い所があるからな。もうちょと腰が強ければね」
とは、タマモが発した心の言葉であり、
「馬鹿のほうが強いケースもあるのよ。恋愛って」
だそうである。

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