ザ・グレート・展開予測ショー

月に吼える(23)前編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/10/ 1)

 人里離れた山奥、人外の魔境と化した研究所。

その地下二階に面妖な気配が漂っていた。

……ガサゴソ、ガサゴソ。
 天井近くの配管から聞こえてくるのは何かが這いずる音。
 小奇麗なフロアのイメージと思いっきり乖離していて、怪しい事この上ない。
……ガサゴソ、ガサゴソ。
 ネズミにしては余りに騒々しいその気配。
 もし観察者がいたら、その音がエアダクトから聞こえていることに気付いただろう。
 ついでに、それが只のネズミでないことにも。
なんてゆーか、もうばればれ。
 中にいるのは、人間大のネズミが二匹である。

 ごつん。

 盛大な音と共に声があがる。
「あいたっ」
 流石は人間サイズ、人語も解するらしい。
とまあ、冗談はこの位にしておくとして。
「……ちょっとナニやってんのよ、バカ犬っ」
 所々開いている空気口以外からは光も入らないその場所。
電灯の代わりに自分の目を光らせてにらみ合っているのは、ネズミというには可愛げが有りすぎる二人組みだった。
「……しょうがないでござろうっ、暗い上に曲がりくねってるんだから……」
 少しすねた口調で、先を進むシロが首だけで振り返っている。
 で、そもそもこの二人が何故にエアダクトの中などにいるのかというと……。
「大体、本当にこのダクトを通ってさっきの部屋に入れるんでしょーね?」
 ドアを開く鍵(この場合IDカードだが)を持たない二人の苦肉の策だった。
その苦々しい口調から、既にそれなりの時間をその通路の探索に費やしているだろうことは容易に想像できる。
「野生の勘を信じるでござるよ」
 勘ですか。
 しかも野生。
「……引き返して、別の方法探したほうがマシかもね」
 それはジト目にもなるだろう。
野生の「や」の字も感じられない相棒の口から出た言葉なのだ。
「そんなことを言っても、これ以外に方法がないんだから仕方ないでござろう?」
 言い返したシロの言葉も、裏づけが勘だけでは口調とは裏腹に頼りないことこの上ない。
 けれど、妖しげな霊気が滲み出ていた扉が欠片ほども可愛げのない分厚い合金製であり、この二人をもってしても破壊しがたかったのは、やはりどうしようもない運命と言うしかなかった。
関がいたのなら件の蹴りで吹き飛ばせたかもしれないが、いないのだからそれこそ詮無いことである。
 それでも。
かすかに聞こえてきたその声を聞き分けられたのは、彼女達なればこそだろう。
「タマモッ!?」
 シロの表情がキリっと引き締まる。
頭を凄い勢いで上げた瞬間、ダクトにガツンとぶつけた(二度目)のはご愛嬌だが。
「ええ、聴こえたわね、確かに」
 涙目で頭を抑えている相棒(二度目である)を一瞬呆れた表情で見詰めてから ―美神の事務所で働くようになって以来、その表情が地になってしまいそうな勢いのタマモである。主に誰と誰の所為であるか、敢えて明記はしないが― タマモもその声が聞こえてきた方向に厳しい視線を向けた。
ダクトの中を反響して届いた為、正確な距離までは知れない。
だが、この二人にとっては方向さえ解ればそれで十分。
「急ぐわよ」
 短く言葉を発して、彼女はダクトの中を進み始めた。
体が熱く燃え上がるような感覚。
頭脳も、全身も、臨戦態勢に切り替わる。
何一つ、情報を逃さぬように。たった一つの失敗も犯さぬように。
只でさえ余計な相手と遣り合って時間を使っている。これ以上遅れをとるわけにはいかないのだ。
「あっ、こら、待つでござる。抜け駆けは許さんでござるよっ!!」
 と、自分の隣をスッとすり抜けていこうとするタマモに、慌てて先行の権利を主張するシロ。
 同じ立場のはずの彼女の言葉に緊張感がまるで感じられないのは何故だろう。軽い頭痛を覚えないでもない。
「うっさい、アンタが何時までもグズグズしてるのが悪いんでしょ?」
 足を掴もうとするシロと払い除けようとするタマモ。
その必死の表情から、ある意味シロも一生懸命なのだなあと思えなくも無い。
まあ、方向が随分と間違っているようだが。
暫く絡み合うようにもつれていた二人は、もう一度届いた今度こそ悲鳴と解る声に揃って獣化すると、風のような勢いで駆け出した。
最初からそのサイズだったら窮屈に感じることもなかったろうし、頭もぶつけなかったような気もするが。

後編に続く

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