ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(胎動)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/10/ 1)




 ー終曲ー



 闇の中、旋律が響く。

 美しいが、どこか酷薄なーーーそして寂しげな音色。 

 陽が差し込むべき窓一つ無く、明かりも灯されていない真闇の中で、静かにその旋律は流れ続ける。

 ボゥ・・・

 部屋の片隅に青白い炎が生まれ、闇が削られた。

 パチパチパチ・・・

 拍手の音。

 それに続いて闇の中から、声がかかる。

『大したものだね・・・』

 闇からの声、それは人間の暖かみを感じさせない声だった。

『・・・・・・』

 旋律は止まない。

 何事も無かったかの様に、その旋律は寸分の乱れも無く流れ続ける。

 応えが返らぬ事など気にも留めず、自身を無視してピアノを弾き続ける主に、炎の側から再び声がかけられた。

『産まれてから三ヶ月足らずだというのに・・・産みの親の優秀さ故・・・か・・・?』

 気配がーーー揺れた。

 ヒュン!

 旋律が途切れた瞬間、闇からの真空の刃が炎に向けて、横薙ぎに放たれる。

 ザガァ!

 炎を掻き消すのではなく、斬り裂いた刃は壁に大きく亀裂を残し、霧散した。
 
『ふふ・・・』

 三度、同じ声。・・・いや含み笑いか。

 壁が斬り裂かれた直線上、確かに真空の刃が通過した筈の場所から、今にも掻き消えようと虚空を漂う炎に手が伸ばされる。

 グシャ!

 その手はためらいも見せずに、炎を握り潰した。まるで闇から生えたかの様なその手は、生あるモノを自分の側へ引きずりこむかの様な畏怖を抱かせる。

『・・・失礼、気に障ったのなら・・・謝るよ・・・』

 炎が消え、ソレを握り潰した掌も闇に沈んだ後にまたも発せられた声・・・そして、闇が凝縮を始めた。

『主がお待ちかねだ・・・お前の育ての親が、な・・・』

 漆黒の化け物。そうとしか形容し得ないその存在の言葉に、闇の中から一人の青年が現れる。

 銀の髪をふわりとなびかせ・・・その青年は漆黒には一瞥もせず、通路へ続く扉を開け、場を後にした。

『・・・チッ!クローン風情が・・・!』

 ー舌打ちと共に、漆黒は闇へ溶けこみ、同化したー


 銀髪の青年の前に、先程のモノより一回りも二回りも大きい扉があった。装飾、いや複雑な呪紋が刻まれた扉を、青年はゆっくりと開く。

 ギギィーーー・・・

 扉を開けた先、そこはあえて例えるならば、中世の王に謁見する場所の様だった。

 重々しい口調の声が青年へと降りかかる。

『よく来たな』

 青年が眉一つ動かさずに顔を上げると、そこでは仮面をかぶり、黒衣を身に纏ったモノが自分を見下ろしていた。

 仮面の中から、声がかけられる。己の名を呼ぶ声が。

『ロウ』


 ー青年はゆっくりと、その場にかしずいたー



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