ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ復活の日々一日目前編「ROCKER&MYSTIC」


投稿者名:バルムンク・ダテ
投稿日時:(01/ 9/16)

魂――命の座、心の種、存在の器、在りし日の幻、祈られる夢、紡がれた現――

平和荘から西条が暮らすホテルを経由して事務所へと帰り着いた横島は苦悩していた。
事務所では先に来させていたベスパとパピリオから事情を説明されており、女性陣は
隣の部屋で親睦を深めている。西条から借りた現金でルシオラにとりあえず上等な服を
買い与える事ができた。なにしろ横島が頼れる人物といえばタイガー(境遇が似てる)、
雪之丞(連絡が取れない)、ピート(清く貧しく美しく)、両親(物理的に不可能)、
美神令子(彼女に金を貸せと言うなどと、寝た子を起こすより愚かな真似はしない。)、
全員金の無心のアテにはできない。そこで西条輝彦の出番というわけだ。彼と横島の
不仲は今更説明は不要であろうが、事がルシオラ絡みともなれば彼ほど親身に
協力してくれる者もいない。横島とルシオラを純粋に祝福しているからこその態度だ。
先程もルシオラが纏っていたパジャマが汚れていた為彼女にシャワーを使わせてくれたり、
横島に、「服を選んでる女性の機嫌を保つ」言葉も教授してくれたほどだ。
(なんだか遠回しに女性遍歴を自慢されたみたいで少し腹に据えかねたが…)
それはそれとして、今横島が考えあぐねているのは仕事を休むべきかどうかである。
これは何の根拠も無い推察だが、自然に考えてルシオラは自身を括る時の呪縛の存在を
知るまい。限られた時間、その全てを彼女と共有したいのは山々だが、仕事を休んでとなると
話は簡単ではない。当然彼女に悲しい現実を教えることになってしまう。それは夢の時間を
打ち砕く事と同義だろう。ならば、彼女を伴って仕事をするか?論外である。
Drカオスの言葉を借りるなら「反則」により負担のかかっている彼女の霊体に
無茶はさせられない。だからといって時間をむざむざ無駄にする選択はできない。
実を言えば彼には相談相手がいたのだが、声をかけるのは躊躇われた。ところが、
「お二人が到着なさる前に、既に事情を伺っております。オーナーは極力不自然にならぬ
範疇で業務を横島さん抜きで処理なさるおつもりです。この結論で如何でしょう?」
姿無き、いや、視界を占め過ぎている紳士は自ら言葉を紡いだ。横島も応える。
「つまり多少は働かにゃならんな…楽な仕事なら連れてっても平気か?」
「ただ、他のメンバーとシフトの兼ね合いが取れなくなります。したがってお二人きりで
除霊なさることになります。個人の負担を軽減する目的でしたら全件、全員で除霊なさる
方が安定して負担が少ないと思われます。もっとも、厳密には全くシフトできないとい…」
「あぁ、待てって。アイツ…俺と二人きりって…そういうのも…大事なんだよ…な?」
必要最低限の説明だと思って語っていた彼の言葉を遮って、横島は口を開いた。続ける。
「その……一所懸命考えてくれたのもありがたいんだけどよ…俺が守んなきゃ…さ」
「確かに…多人数戦闘に於ける防御行動というのは複雑で展開しづらいものですね」
横島と語り合ってる彼は、凡そ現実的な論理展開において相当に優秀な頭脳を有していた。
「えー、とな……ま、そんなもんだからよろしく頼む。」
横島は己の真に意図する事を語ろうとしたが、非情に億劫な事のような気がして諦めた。
語調も疲労感を漂わせている気がした。真剣に悩んでた自分が馬鹿らしく思える。
――横島が決意したきっかけを作った紳士、人工幽霊一号。美神除霊事務所の一員である。
少なくとも、仲間に勇気づける為に慣れない冗談を言うくらいには強い絆を持っていた。

その男は端的に言えば「黒い男」だった。彼の真理を突き止めたければ説明不足で
あろうとも、彼はあらゆる意味で混沌としている。そう、次の言葉を彼の真理を探る
ヒントにして欲しい。彼を言い尽くす言葉があるとするならそれは「極彩色の黒い男」
黒いタキシードはまるで夕闇に舞う蝙蝠のよう。黒いシルクハットはまるで色を盗んだ
魔王の王冠。黒くてキッチリ撫でつけられた髭は世界を喰らい尽くす夜の暗さにも似た…。
「夕陽ですか…ぞくぞくしますね。素晴らしい……まるで太陽の断末魔です。
おっと!迂闊な事は言うものではありませんでしたな…聴きたい衝動が
抑えきれなくなってきました…夕陽のような方の断末魔……いえ、絶望の方が好みです。」

目前の問題はとりあえずの決着を見た。早朝から始まったカオスの実験から最早十時間が
経過している。事務所、平和荘、自宅、厄珍堂、西条宅と奔走していたらあっというまだった。
既に夕方は過ぎ、闇夜の色合いが頭に圧し掛かるようだ。時間とは無情なもの。横島は言う。
「夕陽……逃しちまったな……」
自分は口惜しいのだろうか?違う気がする。だが、悔恨のうめきは口をつく。
傍らで共に帰路につく彼女はどうしたことか逆に上機嫌で応えた。
「えぇ、でもそんなものよ?昼と夜の一瞬の隙間なんですもの……見られない事だって…
フフ、それも素敵だと思わない?瞬くような僅かな一時に出会う奇蹟……それに、
充実した時間の所為で空を眺められなかったって事は、それだけ人生に重みがあるわ。」
屈託の無い笑みでこちらの顔を覗き込んでくる彼女に、横島は胸の奥で言い返す。
(俺はお前がいなかった一年…薄っぺらな人生だったけど、唯の一度も空なんか
眺めなかったぜ……頭の上なんて自分の小ささ思い知らされそうでずっと…ずっとずっと
足元ばかり見てた。そんなケチな真似してっから小せぇってんだよな……なにしてんだか)
横島には語るべき言葉が見つからなかった。恐らくは、彼女は自分の全てを
許容してくれるのだろう。それこそが最も辛い事なのだ。未だ嘗て、許される事ほど強大な
罰があっただろうか?少なくとも自分は知らないし、先ず耐えられない。
そんな彼女を愛しく思ってしまった。後悔しない男は極稀だ。普通に考えれば、
自分は本当に彼女でいいのか?満足という意味もあるだろうし信頼に値するかとも悩む。
恋人を目の当たりにしてそうやって悩むというのは相手にそれだけ自分が信頼を寄せてる
証拠だ。信頼する必要のない人物が信頼に値するか興味を持つ者はあまりいない。
そして自分自身の信頼を満足しているかによって量る。そのプロセスを彼らは飛び越えた。
過程がなく突如結果が在った。最初から理屈などない。求め合う魂の因子をきっと持って
生まれてきているのだ。彼らにはそれだけで充分、いや、充足する事自体必要なかった。
追記――屋根裏部屋も既にシロとタマモで満員だった為、三姉妹は事務所に泊まらずに
ベスパとパピリオは西条が手配した安宿、ルシオラのみが横島の部屋で寝泊りするようだ。

横島達は、絶句というか呆然自失というか、とにかく固まっていた。微かに唇が震える。
「……………アパートの改装って事は……まぁ、有り得ないわよね……斬新だけど…」
「ちょっと帰らねぇ間に寝床で勝手にボリショイサーカス始められちゃたまんねーぞ?」
たっぷり一分立ち尽くしてとりあえず言うべきと思った言葉は、生憎無意味だった。
横島達が立ってるのは残酷なほど間違いなく彼が暮らしてるアパートがあった土地だ。
その土地に、どう考えても入りきらない大きさの興行用テントが立てられていた。
事実、理屈に適ってない事が展開されていた。全くの理解不能。普通人なら気が狂いそうな
景観である。遠近法の逆というか、明らかに自分側に近い布地が縮んで見えるのである。
そして、その幻がそのまま物理法則に適用されている。不思議と警戒心は働かないが、
そこにまた不気味さを感じる。そして、なによりも不気味な事象には彼らすら
気づいていない。何故こんな異常な物が設置される段階で誰も通報していないのか?
「へぇ?本当に生きてら。驚きだぜ!背信女さんよぉ」
ザバシュッ
「……?…え!?」
「……かふっ…」
全ての現実の理解に、数秒を要した。たった数秒とも、数秒もの時間を要さざるを
得なかったともいえる。背後から投げかけられた声、背中から鮮血を噴いた横島、
そこにいた三人目の人影、視界は絶望的に黒く、残酷なまで紅く、微かに碧。空気が揺れる。
「な…」
「黙ってろ!テメーみてぇな背信女が訊きたそうなこたぁ見当ついてんだよ!!
無駄なお喋りは大嫌いだぜ、だから俺様が答える。無意味な質問すんじゃねぇ。
さて、何モンか?俺は灯郎。出生はテメーと同じよ。それとも何の用か?親父の仇と
裏切りモンの始末って答えてやってもいいんだがな、コイツぁ単なる余興よ、気にすんな。」
三人目の人影は魔なる瘴気を隠そうともせず語る。無視してルシオラは横島に駆け寄る。
「ヨコシマっ!無事!?しっかりして!!」
「フン!俺様の太刀に抵抗する事無く倒れ込んだんだ、傷は浅いぜ。つまんねぇよな。」
「……!!よくも…!!」
ズバァァァッ
相手の言葉に激昂して、ルシオラが魔力塊を放つ。影は易々とかわして言う。
「ハァ?何カリカリしてんだよ。テメーらが背後から近づく俺様に気づけなかった時点で
二人仲良くくたばってるとこを、態々直前に声かけてやっただけでも
ありがたがってもらいてーな。反応し損ないやがって、ガッカリさせてくれるぜ。」
ジャッ
影の右手が閃き、空が鋭く疾り、ルシオラに迫る。そして、彼女の両手が風を弾き飛ばした。
バジュッ
「絶対許さない!!」
ブゥン
ルシオラは幻術で2体ほど影武者を作ってそれを伴って相手に飛び掛った。
「是非そうしてくれ…大好きなんでなぁ……アドレナリンの匂いって奴がよォ。」
同じタイプの魔物なら能力に大差は無い筈。スピード重視のルシオラを捉える事が
できるとは考えがたい。まして三体の内実体は一つ。この状況で敵のこの余裕は不気味だ。
ザグンッ、ボグォォォン
突如、灯郎の剣がアスファルトを打ち抜いて砂塵を舞い上げた。ルシオラの分身が歪む。
「テメーの幻術の正体が光線歪曲と知ってりゃ防ぎようは幾らでもあるってこった。」
つづく

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa